第45話 地下2階

 ダンジョン地下1階はチュートリアルといったところで木のモンスターしか出現せず、それぞれのチームは苦戦することなく階段を見つけ地下2階に進んでいった。

 地下2階も1階と変わらない構造になっており見渡しは良好。この調子なら10階到着も楽勝だなと冗談気味で話す。

 1階で倒したモンスターから魔石の他に木の棒も手に入り、杖兼武器として使っている。


「ドロップアイテム式か! ハクスラ万歳! ハクスラ最高! 俺のライフワークきたー!」


 木の棒を手に入れたときのこと。

 剣道集団でゲーム先輩と呼ばれている男が歓喜。その異常な興奮ぶりにゲームをやらない層と熱の差がでた。


「テンション高いな。ただの木が落ちただけじゃないか」

「おいおいおい、これはすごいことなんだぜ。いいか? 魔石でスーツを強化できるだけでも神なのに、倒したモンスターから確率でアイテムが落ちるんだぜ。もしかしたら手に入れたアイテムには品質要素もあって、切れ味や耐久度が違ったり、火が出たり特定の種族に大ダメージを与える追加価値があるかもしれない! 求めていたゲームの世界。ダンジョンがここにあり! ダンジョンマスターサンキュー!!」


 天に手を掲げるゲーム先輩。悦なオーバーリアクションで笑い声を上げてるように伝わってくる演技に、一同の鼓動が跳ね、拍手喝采といきたいところだったが、ここは敵地。心に留めるだけでいた。


(有識者がいて助かるな)


 知識は何より役に立つ。武で固められた剣道集団にはありがたい存在だ。この先助言を貰いながら進むこととなる。

 地下2階では人型の骸骨モンスターが追加された。


「おお。定番のスケルトンじゃないか。緊張するぜ。ゲームだと弱いことが多いかな」

「なるほど。まあ相手が人の形をしているなら俺たちが負けるわけにはいかない。丁度いい。敵さんは一体だ。試してみたいから俺一人でやらせてくれないだろうか」


 リーダーが木の棒を振り進み出る。これに反対する者はいない。むしろリーダーの一騎打ちを見て勉強できるいい機会だと思った。


「ふ、ありがとう。では行ってくる。――――いざッキィエエエエエエエエエエイ!!!」


 ビリビリと心に響く気合の入った発声をスケルトンにぶつけると、間合いを一瞬にして詰め、素早く上段から2回頭にぶつけ重い音と共にスケルトンを砂と魔石にさせてしまった。

 まさに瞬殺。熟練の業。剛の者と呼ぶに相応しい実力を見せつけた。


「お見事!」

「うむ。スケルトンも一気に詰めれば問題なく対処できるな。他にもソロで戦ってみたいと思う者がいれば言ってくれ。チームワークも大事だが個人戦も経験しておいたほうが絶対にいいからな」

「なら次は俺だ!」

「いやいや俺だろ!」


 リーダーの強さに触発され、自分も自分もと名乗りを上げるメンバー達。

 奮い立つ身体がダンジョン2階のモンスターを沈黙させていくのだった。

 3階に降りるころにはスケルトンから出たボーンブレイドを携え、いまだ無傷で進撃していく。

 一方世紀末集団はモンスターが弱いと分かると単独で行動していた。


「ヒャッハー! テメーらの攻撃なんざ毛ほども痛くねえんだよ! ザコがザコがザコがあ!! ヒャーハッハッハッハー!!!」


 スーツのおかげで痛みを感じないことをいいことに、複数のモンスターに囲まれても突っ込み、木の棒をデタラメに振り回し撃破していくヤンキー。かつて無い万能感を楽しんできた。


「えひゃひゃひゃひゃ。きんもちぃ~。俺さいきょーじゃん」


 倒したモンスターから魔石を回収。腰にある小さなベルトポーチに収納した。

 このベルトポーチは魔石専用らしく、どれだけでも出し入れ可能と書かれていた。


「数も集まったし集合地点に行くか」


 世紀末集団は魔石が20個集まったら地下3階への階段前に集合と言われていたので、彼は早足で向かった。


「ういーすッモンスター退治まじおもれー」


 彼が現地に到着すると、ヤンキー座りをして談笑している仲間を発見。会話に参加しダンジョンの魅力を語ると、


「あれ、お前のブレスレット赤になってんじゃん。いかすじゃねえか!」


 色が変化していることに気づいた一人が指摘する。


「へへ、いいだろ。いつの間にかなってたんだ。やっぱ赤はかっこいいぜ」


 自慢気に腕を上げアピールするヤンキー。羨ましそうな視線が集まりたまらない。

 人生の中で注目されることがなかったのでとても気持ちがいい。

 一般から道を外した彼は、初めて頑張っていきたいと思えるものに巡り合ったような気がした。

 しばらくすると、最後に出発した世紀末リーダーが到着して全員が揃った。


「よーしお前ら回収だ。魔石を10個出せ」


 世紀末集団の掟。リーダーの言うことは絶対服従。全部を取られるわけじゃないのが優しさだ。

 4人は素直にポーチから取り出しリーダーに渡した。


「俺はこのチームのために誰よりも強くならないといけないからな。お前達のためだ。分かってるよな?」

「「もちろんっすよリーダー!」」


 堅い結束。きちんとした上下関係。学校や社会のルールは無視する彼らが、唯一守る仲間の絆。

 叩き込まれた躾は彼らの誇りで自慢となっている。


(残りは換金しよう。いくらになるかなー。酒にギャンブルとしゃれこみたいぜ)


 彼らは各々に魔石を使い地下3階に降りていった。

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