第4話 異世界式穴掘り
さほど寒さを感じなかった冬が明け、芽吹きだした草花に春の匂いを感じる季節。
実に70年ぶりの日本への帰還となった私は、感傷に浸るでもなく。今度は女神様の顔を立て、観光を後回しに、あくせくと仕事に取り掛かっている。
「おらああああああああ! 突貫突撃喰らい尽くせえええ!」
ズゾゾゾゾ……ガリガリガリ……バキバキバキ!
新幹線の2倍はあるだろう巨大なミミズのような物体が、すごい速さで土をえぐる。
私は今、異世界式土木工事の真っただ中だ。巨大な触手を操り、地下に広大な領土を広げていっている。
この巨大触手の持ち主は、イソギンチャク型モンスターの
こいつは本来小さくてかわいい無脊椎動物だが、レア度によって成長のふり幅がすさまじく、
しかしその大きさゆえに動けなくなり、触手のくちで土や岩を食べ、生きながらえていくうちに表皮は硬くなり、やがて完全に石化し一生を終える。
体の中央部には大きな口があり、死後、そこから体内に入っていけるようになる。
見た目は大きな洞窟だ。だが、ただの洞窟ではない。
イソギンチャク型モンスターの
そして硬くて広いならモンスターの住み家として最適だ。ここまで言えば察しのいい人は気づくだろう。複雑な内部構造をした洞窟。モンスターに希少鉱石。このような場所を、人は【ダンジョン】と呼ぶ。
このダンジョンを元は生物だと気づき目をつけた古の魔術師は、制御できないものかと何世代にも渡り研究した。結果、人を核にしてイソギンチャク型モンスターに寄生する術を編み出し、手足のように動かせることに成功した。
その一族は異世界で今もなお永遠の富と地位を築いている。その術の名は、
門外不出、一子相伝の禁呪『クリエイト・ダンジョン・コア』
私が今手で触れているのが、クリエイト・ダンジョン・コアで作られた『ダンジョン・コア』だ。大きさは3mで、七色に輝くクリスタル。ほんのりと冷気を放つのは犠牲者の叫びなのではないだろうか。
「これに触れるといつも哀れと感傷に浸るが、作られてしまったのなら使ってやるのがせめてもの弔いというもの」
その非人道的行為は世に知られることなく、数多の犠牲と引き換えに資源が潤い、世界は加速していった。
私がダンジョンの秘密を突き止め、禁呪を扱う当代との交渉の末必要悪と認定し、条件を付け一族の粛清を見送った過去がある。
課せた条件とは【正しき魂の浄化】。これは神から与えられた天命だ。
どの世界でも祈りや呪いが流行りだすと、あるべき場所に帰れなくなる魂=幽霊が出てくる。幽霊は正常な魂も取り込み、肥大し、呪いを拡散するようになる。
呪いは生者にまで影響を及ぼすようになり、心に深くて暗い闇を患ってしまう。
指導者が呪いを受けると戦争が起こり、死した魂は悪霊となり現世を彷徨う。現世に留まることも厄介だが、悪霊の闇が深くなるのが特に厄介だ。
輪廻転生させる際に魂の浄化作業を行うのだが、闇の濃さによっては数百年間ずっと浄化器を使い続けなくてはならず、施設がいくつあっても足らない状態が界隈で問題になっている。
本来この仕事は死神が執り行っているのだが、悪霊が強くなってきてしまい手を焼いているそうだ。怪我をするのも嫌だし負けた汚名を被るのも嫌。三途の川を無銭乗船されるのも腹が立つ。と、昔は花形だった死神業も、今や成り手を集めるのに苦労していると聞く。
未だに大鎌で戦ってるのが悪いと思うのだが……武装強化してあげればいいのに“昔ながら”にこだわりを持つ頭の固い上司がいて難航しているみたいだ。
このような問題が起きた場合、統括から部署に改善を求めるものだが、巡り巡って異世界勇者管理局に白羽の矢が立った。
この異世界勇者管理局とは、違う世界から違う世界に神の力を使って拉致する極悪な所だ。
拉致というマイナスイメージを軽くするため【勇者】とおだて、【チート】という特殊能力を授けることによって選ばれた存在に昇華させ、気持ちよく出立させる場所だ。
統括が言うには、与えたチートに魂の浄化作用を持たせるようにしろとのこと。
可能だが死神の仕事を奪うことになるからとやんわりお断りの意思を伝えたが、権力に弱い女神は屈してしまった。
なお口止めもされてる模様。
なぜ私がこの話を知ってるかというと、魔力波増強陣(ブースター)を仕込んだ際、賢者の石が偶然近くにある端末をハッキングしてしまい、女神の日記があったから読んでしまったからなんだよなぁ。
賢者の石システムは手癖が悪くて困るね!
事の真相が分かったのは異世界勇者管理局に戻った時だったが、天命自体は異世界で思い出していたので、私のチートを駆使して、ダンジョンに魂の浄化を効率よくする機能を追加し、世界全体の変革を行った。
それがダンジョン・コアを使ってのダンジョン経営である。
魂をダンジョンに吸い寄せ、骨や植物や動物に憑依させることによりモンスター化させる。そしてモンスターを倒すと、道を外した魂もいつか正しき昇天をさせることができる画期的システムだ!
たまにお仕事中の死神もダンジョンに迷い込んでたりするがまあ問題ない。
モンスター化させると外見が大きく変化し、鋼鉄以上の硬い鱗や名刀にも引けを取らない鋭い部位。肌触りが一級品の羊毛。癒やしの水や草といったどれも喉から手が出るほど欲しい特徴が生まれる。
強くなりたい冒険者や商材にしたい商人に大ウケし、私が暗躍してダンジョンルールを儲けたことも関係して世界はすんなりと共存した。
「うーっし。こんなもんだろ。硬質化させて安定するまで寝かせておけばいいな。これで日本に七つ目のダンジョンが完成した。後は仲間集めと根回しと……うむ、楽しいイベントが目白押しだ」
経営シミュレーションゲームが大好きな市長たちなら、私の楽しくて仕方ない気持ちに共感してくれるだろう。
「仲間はやはり私のチートに深く関係した人たちがいいのだが、誰彼構わずともいかんしな。さて、方法をどうするかだが……」
一仕事終えた体で地上を目指し移動する最中、ぼんやりと仲間の選定方法を思考する。
インパクトが重要だ。次に謎と閃きだ。やるなら異世界とは違った方法が望ましい。この世界にはこの世界でしかできないこともあるしな。
出来たばかりの洞窟をスマートフォン片手に考えながら歩く。
出入り口に近づくとアンテナ線が立った。
「ここで電波がきたか。電波の強い会社にしてみたが内部に届くことはないんだな。とりあえず考え付いた案を電話であいつに指示だしておくか」
電話帳のよく使うリストから“東京セクハラ魔人”をタップする。数回のコール音が鳴ったあと、慌てた男性の声が耳に入ってきた。
挨拶を軽く流し本題を告げる。
「準備をしてほしいことがあるのだが…………」
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