第5話 サンタさんの選択
燦太は待ち合わせ時間の5分前に到着した。そこに優唯がすでに待っていた。
燦太はこの数週間ずっと悩んでいた。だけど、ある出来事で自分の本当の気持ちに気づいた。それは奈海が倒れた時のことだった。
奈海と知り合って以来のこの17年間、いつも元気であまり病んでいる姿を見せなかった彼女が自分の前に倒れた時、燦太は初めて感じたことのない恐怖に襲われた。奈海がもし何かあったらどうしよう?それは店のこととは関係なく、自分にとって奈海がいないなんて考えられなかった。空気の中にある酸素のように大切だけど、見えないしそしていつもいてくれるから、その重要さを認識できなかった。でも、酸欠になった途端、燦太は奈海の重要さにようやく気付いた。
もちろん、優唯を思い続ける期間は奈海と恋人になった時間は比べ物にならなかった。だけど、気持ちの強さと深さなら絶対奈海の方がダントツトップだ。優唯に対する思いはただ叶わなかった片思いの気持ちで、あの時両想いでも結ばれなかった残念さのあまりに二人の間のブランクを必死に埋めようとした。実際に時間を過ごしているうちに、燦太は気づいた。あの時好きだった優唯は今の優唯とは違って、そして自分もあの時の燦太ではなかった。
この17年間一緒にいた時間を積み重ねて、燦太と奈海の絆はもうただの友情から進化した。パリで奈海にキスした時、絶対に衝動だけの行動じゃなかった。好意がなければ燦太は奈海にそんなことをしないはずだった。そして、あの時燦太のキスを拒否しなかった奈海もすでに自分のことを好きになったという確信もあった。
再会してから、あまりにも優唯とのことで浮かれてしまった自分は、奈海の気持ちを無視していた。そして、彼女は自分を極限まで無理していたことにも気づかなかった。申し訳ない気持ちでいっぱいになって、燦太は奈海に謝りたかったし、そして自分の気持ちを彼女にきちんと伝えたかった。だけど、店のこともあって、奈海が点滴を打っている間まだ目が覚めてなかったから、一旦店に戻って後で迎えに来るつもりだった。だが、奈海は自分で退院手続きを済ませて一人で家に帰った。しかも、燦太は看病をしたかったことをあんなに強く拒否したので、仕方なく店に戻った。
その後、どんなに話したかったけど、奈海は忙しさを理由に仕事以外の会話を燦太としたくなかった。温泉旅行の話を聞こうとしても、曖昧な答えしか返ってこなかったし、ただ温泉旅館の名前と新幹線に乗る時間を教えてくれただけだった。一番おかしかったのは、奈海はまるで身辺整理をしているように、店のことをスタッフにいろいろ教えて、まだやらなくてもいいことを早めに済ませ、そして経営のことを燦太に任せるつもりだった。この時点で燦太は奈海に話をするべきだと思ったが、やっぱりクリスマスのピークが終わったら、ゆっくり話をしようと決めた。
優唯の前にに立っていた燦太はまず謝った。
「返事をもっと早く言いたかったけど、申し訳ない。優唯、俺はやっぱりあなたと付き合えないだ」
ため息をついた優唯は笑顔で答えた。
「まあ、予想内のことだから。謝らなくていいよ。だって、私が告白した時すぐに受けなかったし、あなたの迷いから分かった。もう私のこと好きじゃないって」
「ごめん」
「いいから、彼女のところへ行ってよ。せっかくのクリスマスイブと誕生日だし、好きな人と一緒に過ごすべき」
「再会して良かった。優唯がこれから幸せになれることを祈ります。」
「あなたたちも幸せになってね」
その時、燦太の携帯にメールが入った知らせ音が鳴った。差出人は奈海で、メッセージを読んだ燦太は真っ青になった。
「燦太へ、36歳お誕生日おめでとう、そしてメリークリスマス。私からあなたへの最後のプレゼントはこの三角関係から身を引くことです。もう悩まなくていい、申し訳ないなんて思わなくていい。優唯さんとお幸せに。そしてこの17年間ありがとう」
燦太はすぐ奈海の携帯に電話をかけたが、電源がすでに切れていた。
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