第4話 サンタさんの選択肢

クリスマスシーズンは洋菓子店にとって一番忙しい時期だ。


クリスマスイブの選択が迫られる中、燦太はそのことをあまり考えたくなかった。丁度この時期は店の予約でバタバタしていることが彼にとって好都合かもしれない。


優唯とはクリスマスイブまで会わないと決めていたが、電話やメールのやり取りは続いた。そのことを傍で見ていた奈海は何もできなかった。燦太に問い詰めることも、優唯に自分の彼氏に手を出すなというのも言えなかった。仕事でのストレスと心理的な負担で、奈海はついに過労で倒れた。


店でいきなり意識を失って、病院に搬送された奈海は点滴を打った後、燦太が迎えに来る前に自分で退院し一人で家に帰った。慌てて奈海の家に行った燦太に自分は大丈夫だからと言い張って、彼の看病を拒否し早く家に帰って休むべきと言った。それ以来、奈海の様子がおかしかった。燦太と二人きりになるのを避けていたみたいで、彼の家に行く誘いもいろんな言い訳を使って断っていた。奈海はいつもの笑顔を皆に見せていたし、いつも仕事に全力で打ち込んでいたけど、どこか変だった。


奈海は燦太が絶対自分を選ばないと信じていた。自分と温泉旅行なんか絶対に行かないでしょう。奈海は確かに温泉旅行を計画していたが、あれは優唯が現れる前のことだったので、今更燦太と一緒に行けないと思った。だから、奈海は嘘の集合時間と場所を燦太に言って、自分が先にその温泉旅館へ行くつもりだ。せっかく取れた温泉旅館の風呂付部屋だから、温泉で自分の悲しみを洗い流し、自分だけの傷心旅行にしたかった。


それに、燦太に選択されないより、自らこの三角関係から辞退し彼の選択肢にならない方が、彼に対する最後の優しさだと思う。これで燦太は悩まなくて済むし、自分に対する罪悪感も無くすから、まさに一石二鳥の解決策だ。


そういうわけで、奈海は裏でもいろいろ店に関する準備を進めていた。店の社員たちにいろいろ仕事上で重要なことを教えて、事前に新年度に使う予定の材料の仕入れも済ませ、経理、経営と税務関係の資料もまとめて燦太に渡した。これらの行動を変だと思っていた燦太は理由をどう聞きたくても、奈海はただこれらのことを同じ経営者として知るべきだと説明した。


そしてクリスマスイブがついにやって来た。


朝から店は忙しかった。予約したケーキを取りに来た客たちが店外まで並んでいて、そして予約できなかった客も慌てて残り少ないケーキを買いに来た。閉店時間の4時前にすべてが売り切れて、皆は早めに片付けを終えて、小さなお祝い会をした。これで、店はクリスマスから1週間の年末年始休暇に入った。


燦太は優唯と5時半に待ち合わせすることになったので、奈海と7時に駅で待ち合わせをする予定だ。戸締り確認後、奈海は去っていく燦太の後ろ姿を見て、小さな声で「さよなら」を言った後、一人で新幹線に乗って温泉旅館へ向かった。移動中、奈海はあるメッセージを燦太に送ってから、自分の携帯の電源を切った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る