第3話 サンタさんの女神

関本せきもと優唯ゆい、35歳、看護師、独身。


優唯は子供からみんなにチヤホヤされた女の子だった。可愛い外見、長い髪そしていつも女の子らしい服装を着ていたから、大人でも子供でも注目された存在であった。だけど、たった一人の注目が欲しくても、相手は全然振り向いてくれなかった。それは高校時代同じクラスにいた燦太だった。


三年間同じクラスにいても、燦太はいつも彼女から離れたところにいた。自ら声をかけないし、クラスの活動中でも絶対自分の傍に来てくれない、そういう珍しい行動で燦太のことずっと気になっていた。それから、優唯はいつも燦太を目で追っていた。彼は普段無口だけど、周りに気配り上手で、誰かが困っていると彼はいつもさりげなく助け出した。


あの時、優唯は燦太のことをどんなに好きでも、告白するって一度も考えなかった。今まで男の子に告白されたことしかないのに、自分から告白するって自分のプライドが許さないことだった。しかし、卒業が迫っていたのに、燦太との間に進展がないのですごく焦っていた。親友に相談した後、卒業式の日に告白しようとようやく決めたが、なぜか燦太は自分の手紙に書かれた待ち合わせ場所に現れなかった。それで、優唯は自分が彼に断られたと思い、燦太のことを諦めた。


その後、優唯は大学を卒業し、今はある大学病院の外科に所属する看護師になった。普段は長時間労働でストレスが溜まっているから、優唯の趣味はいろんな洋菓子店をめぐり、美味しい洋菓子を食べることだ。


本当に予想外の出来事だった。この日、同僚が優唯を隠れ名店である「éclat」に連れて行った。そこで一つの洋菓子を目にした瞬間、何だか既視感があるような感じだった。その洋菓子の名前は「YUI」だった。


丁度その時、あまり販売エリアに顔出さない燦太が完成した洋菓子を外のスタッフに渡そうとしたところ、二人は10数年ぶりの再会を果たした。あまりにも驚いたので、二人はしばらく何も話さなかった。ようやく落ち着いてから、燦太は優唯と店の端にあるテーブルに案内して、お茶を飲みながら昔話をしていた。


その「YUI」という洋菓子は燦太が高校時代に優唯をイメージして考えたものだった。優唯はあの時燦太のノートを覗き見をしたところ、あの洋菓子の絵を見たことがあった。


二人は高校時代の話をしているうちに気づいたことがあった。どうやら、優唯が書いた手紙は燦太の手元に届かなかったそうで、だから彼は待ち合わせ場所のこと知らなかったし当然現れることもなかった。あの時両想いだった二人はこんな小さなことで一緒になれなかった。もう後悔したくないと思って、優唯はその場で燦太に交際を申し込んだ。


高校以降、優唯は何人もの彼氏がいたが、どうしても彼らを燦太に比べてしまった。だから優唯は分かっていた、自分は今だに燦太に未練があるって。だけど、彼と連絡が途絶えてしまったから、優唯はあきらめるしかなかった。まさか、このタイミングで燦太と再会して、今度こそ彼との縁を大切にしたかった。


このやり取りを見ていた奈海は落ち着かなかった。だって、彼女は一瞬で分かった。目の前にいる優唯は燦太にとってただの元同級生じゃないし、そして優唯は燦太がずっと思い続けた人であったことも分かった。奈海と燦太は付き合ってから2か月ちょっとだけで、10年以上愛し続けた優唯には勝てるわけがない。そして今まで燦太に「YUI」という洋菓子の由来を聞きたくても、一度も話してくれなかったので、あれに秘められた意味は今となって初めて分かった。


燦太は優唯の告白をすぐ受け入れられなかった。もちろん、彼は優唯と両想いだったことにすごくうれしいと思った。そして今でも優唯が自分を思い続けていることは予想外だった。しかし、燦太は今奈海と付き合っていた。今すぐ奈海を捨てて、優唯のところへ行くことは到底できなかった。


だけど、あの再会以後、燦太は優唯と頻繁に会うことになった。時々、優唯の休憩時間に合わせて、燦太は特製の洋菓子を大学病院まで届けた。彼女が幸せそうに食べているところが見られて、これは燦太にとって至福の時間だった。だけど、二人はまるで暗黙の了解があったように、二人の関係を名言しなかったし、友達以上恋人未満の状況に満足していた。


もちろん、こういうことを奈海には内緒にしていたので、燦太は罪悪感で奈海にいつも以上に優しくなった上、最近は特に理由もなく彼女にプレセントを買うようになった。この変化に奈海はもちろん気づいたし、そして燦太は優唯と密会することも連絡取り合っていることも知っていた。


優唯が燦太と奈海の交際関係を知ったのは12月初旬だった。これ以上三角関係が続けられないと思ったので、燦太に決断を下すべきだと迫った。優唯はもちろん奈海に対して申し訳ない気持ちはあったが、ようやく燦太と結ばれる可能性があるのに、どうしても彼を諦めたくなかった。それで燦太に二人のどちらかを選択して欲しい。


「燦太の36歳の誕生日に、誰と一緒に過ごしたいかを選ぼう。もし、あなたが待ち合わせ場所に来なかったら、私はもうあなたと会わない。逆に、私のところに来たら、彼女との恋愛関係をすぐ終わりにして欲しい」


そう言われた燦太はいったいどうすべきかすごく悩んでいた。奈海に対しての恋愛感情はどこまであるか、自分でもよく分からなかった。でも確かなのは、奈海と付き合っていても、優唯に対する思いは一度も消えなかった。


そして、奈海は何かを気づいたみたいに、燦太に同じような選択をして欲しかった。


「クリスマスのオーダーが全部終わったら、燦太の誕生日祝いに温泉へ行こうか。せっかくの休みだから、恋人として初めて燦太の誕生日に一緒に過ごしたい」


選べないけど、選ばれなければいけない。いったい、燦太はどっちを選ぶだろう?

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