第16話外伝 予兆
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学校の門をくぐって、ほっと息を吐く。仕事の報告は今更悩むこともないけれど、気持ちは少しだけ沈んでいた。
真っ直ぐに来客用の部屋へと向かう。そこにいるのは分かりきった相手だった。
「やぁ、ミィリヤ嬢。待っていたよ」
「先日ぶりですね、ルヴェンさん。それと、ルサンファさんも」
部屋に入ると、一組の男女が迎えてくれた。ルヴェンさんとルサンファさんはこの学校ではなくもう一つの学校、第一魔術学校に在籍する二人のため来客向けの部屋に通されている。同じ学生といえども、敷地内は自由に歩けないというのが基本的な決まり事だからだ。
「頼まれていた調査の報告に来ましたよ」
周辺の危機調査の依頼はルヴェンさんのお父さまからの依頼。ルヴェンさんはその代理だろうけど、私にとっては気が楽だった。
「おぉ、やはり君に頼んで間違いはなかったな。それで、結果のほうはどうだった?」
私は一つ一つを掻い摘んで報告していく。ヒトの姿をしたあのゴウワンについての報告はどうしようかと迷ったものの、今はまだ話すべきではないと考えて危険がないということを簡潔に伝えた。
「それが全てなんだね?」
「はい。あの場所に現状危険はありません。彼らは何かに怯えているようですので、寧ろそちらを警戒すべきでしょうね」
果たして、あの大老というヒト型が真実を語っているかは分からないとしても、駆け引きをやるだけの知能があるなら即座に表立って行動することは避けてくるはず。慎重さがあの集団には見えたし嘘は言っていないのだから、出方を探る意味でもここは下手に事を荒立てないよう動くのが先決だと判断し、今回の報告を終えた。
「これは今回の報酬だ。それと、これはヒタマに渡しておいてくれないか」
「これは……お金ですか?」
「あぁ。以前の翼竜との戦いで世話になったが、彼女が受け取ったのは翼竜の素材だけでね。彼女も手を貸してくれたのならこれはそれのお返しという形で渡しておいてくれ」
「あら……」
タマさんは時々遠慮しがちなところがあったけれど、まさかお金も受け取ってないとは思わなかった。しばらく一緒に過ごしていた頃にも感じた、自己を顧みない危うさがちらつく。
「ありがとうございます」
通貨の入った魔具を受け取り、振り返って扉へ向かう。
「そうだ、ミィリヤ嬢」
そのまま部屋を出ようとしたところ、ルヴェンさんに引き止められた。
「近々、父が君に用があるかもしれないと言っていた。恐らくは今回のような仕事をまた頼んでしまうかもしれない。気に留めておいてくれ」
やはりか、と予想の的中に気が重くなる。
「父も無理にとは言わないだろう。都合が悪ければ私から断ることもできる。遠慮なく言ってくれ」
「……分かりました」
部屋を出る。扉が閉まった後、重たい気持ちを吐き出すように深く呼吸をした。
胸がざわめく。始まりの予感は少しずつ感じていた。
そもそも、フェンリの家から直接渡しに接触を図ってきたこと、そして先程の伝言。
突然現れた異世界からの転生者と動き始めた謎の魔物たち。
一体この世界で何が起きようとしているのか。勇者さまや魔王はこれを知っているのか。そして何をしようとしているのか……。
終戦したはずの戦いは、まだ終わっていない。
その爪痕を、まだ私は貫かれるほどに知っている。
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