俺って、賢いかも

 トイレってさ、密室だよな。

 誰にも見られない、完璧な個室。

 完全犯罪が可能な場所。

 隠しカメラでもついていない限り、俺が鼻からうんこしてるなんてバレないじゃん!


 ふぉっ、ふおっ、ふぉっ、ふぉっ!!!


 隠し通せるぞ、この秘密。

 死ぬまでバレない。

 うっしゃー!!!


 偉いぞ、俺。

 賢いぞ、俺。


 はぁ、危ない。危ない。

 焦って、自殺するところだったよ、俺。


 

 よし! 

 変な体になってしまったけれど、とにかく俺は生きる。

 そして、あの宇宙人をとっ捕まえて、元の体に戻してもらおう。



 ポジティブな俺は、絶望から見事に立ち直った。

 日常は今まで通り。誰も、俺が鼻からうんこしているなんて知らない。

 両親だって、気づいていない。

 


 そんな体になって二か月が過ぎた頃だった。

 


「おやじ、そういえば釣り友だちの佐藤浩平さん、自殺したんだって?」

「あぁ。突然で、遺書もないらしい」

「この町内でも、ここ最近自殺者が続いててな、なんだか無気味なんだよな。『呪い』でもかけられているんだろうか?」


 おやじが、ぶるっと体を震わせた。

 それから、新聞を持ってトイレに入った。



 「呪い」の噂が上がるほど、町内では動機不明の自殺が相次いでいる。

 さすがに俺も、少し気になっていた。


 自殺するなんて。

 一体、どんな辛いことが、どんな悲しいことがあったんだろう?

 それとも、噂されているように何かの「呪い」なのか?


 まさか、俺の体も「呪い?」

 なんて……な。

 鼻からうんこが出る「呪い」なんて、聞いたことないわぃ!


 ん? 

 今日の親父、トイレ長いな。


 

 

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