第4章

ひたすら走った。

とにかく走った。

絶対生きる。そう和子と約束したんだ。


涙を零しながら私は戦地を走り抜けていた。

その時だった。

私の足に鉄砲の弾が掠れた。

足から大量の血が滴り落ちていくのを感じる。

それでも私はどんなに痛くても決して足は止めなかった。

みんな苦しんでいるんだ。和子なんてもっと辛いんだ。これだけで挫けていられない。和子はいつでも頭の中にいる。どんな時でも私を明るく励ましてくれた。どんなに自分が大変な時も。和子のことを胸に、比較的落ち着いているところまでは逃げてこれた。一旦物陰に隠れて足の手当をしようとしたら、誰かが近づいてきた。もうここまでかと思ったが、よくみたら私と同い年ぐらいの子だった。名前は佐久田美智子さしだみちこというらしい。


「美智子さんも戦地で兵隊の看病とかを?」


「そうです。私の学校、沖縄県立第一高等女学校はひめゆり学徒隊として動員されて戦地で看病などにあたっていました。」


いままでひたすら走り続けて疲れ果てていた私にとって新たに仲間を見つけられたのは心強かった。疲れをとりながら私達はお互いの経験を話し合った。聞くところによると、彼女も歩けなくなった友人の洋子さんを壕の中に残してきてしまったみたいだ。そして、私がいなくなった後の壕の様子も教えてくれた。それを聞いて私はまた涙が溢れそうになった。美智子さんの話によるとあの後、壕は運悪く米軍の兵隊に発見され、ガス弾を投げこまれたそうだ。苦しかったであろう。実際美智子さんは壕の中からみんなのもがき苦しむ声が聞こえたという。友人のそんな姿を想像すると胸が痛む。それでもやはり私の中でこの経験は後世に語り伝えないといけないと感じた。戦争なんてあってはならないのだ。

私達はまた歩を進めた。この先何があるかもわからない。先が見えないが私達はきっと助かると信じて歩いた。やっと光が見えてきたと思った。

それでも、私達に襲いかかる悲劇はこれだけではすまなかった。あと一歩というところで私達は見つかった。


米軍の捕虜となったのである。しかし、美智子さんは一瞬の隙をみて自決した。彼女の最後の言葉は強烈だった。


「米軍の捕虜になるなんて知られたら国民の恥だ!私はお国のために死にたい!お国万歳!」


国のため国のためとみんなそう口走る。みんな大切なことを忘れてしまっている。本当に大切なことが何なのかを。


私は米軍の捕虜となった。

しかし、言われていたこととの違いがすごかった。

惨殺されるのかと思っていたが、米軍の兵隊はカタコトの日本語でちゃんと対応してくれたし、ちゃんと食事も与えてくれた。国民の恥かもしれないが、生きることに意味があると身に染みて感じた。

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