第2章
大砲の音。
誰かの悲鳴。
血の匂い。
私達が現場に到着すると私はその光景に唖然した。
至る所に戦死者が転がっている。
今まで以上に戦争の悲惨さを思い知った。
そんな気持ちを胸に抱きながら歩を進めた。
しかし、そこに病院はない。
目の前にあるのはただの穴である。
簡易的な病院。
衛生的なものなんて当然ない。薬や器具も足りない。
こんな中でこれから生きていくのだ。
次々と負傷者は運びこまれてくる。
和子は「お国のためにやっとつくせる!」と息巻いていたが、私は、正直つらい。目の前に負傷者がきても助けられない人もいる。助かっても足を切断する人もいる。足を切断する時も、麻酔はない。兵隊のもがき苦しむ姿を見ると心が痛くなる。
そんな私の心をもっと苦しめる課題が私を待ち受けていた。
死体処理である。
「死体処理もお前らの仕事だ!そんなこともできないなら看護役失格だ!」
それから私は死体処理と看護の二つをやった。
休みなどない。唯一あるとしたら食事の時間だ。
それでも、おにぎり一個しか支給されない。サイズは日に日に小さくなり、終いにはピンポン玉サイズにまでなってしまった。
和子も最初は元気だったが、和子は元の姿を失ってしまった。全く感情がないのだ。
あまりの重労働でみんな疲労困憊だった。
それでも戦争は続く。
私たちはもがき続ける。
壕で私が兵隊の手当をしていると、壕の外からとてつもない音と振動を感じた。漏れ聞こえている外の声を聞く限り、壕近くで大きな爆発があったというのである。
私は嫌な予感がした。
和子がいない。
壕の中を隈なく探しても和子の姿を確認できない。それでも無闇に外に出たら殺される。私は壕の中で無事を祈ることしかできなかった。
しばらくして、負傷者が運びこまれてきた。私は必死になって和子を探した。
「光...子?」
私は今にも途切れそうな声で私を呼ぶ声が聞こえた。
「和子!」
しかし私が和子に近づくと私は泣き叫びたくなった。
和子は全身血まみれで足も原型をとどめていなかった。
それでも、どんな理由があろうとも、看護役の手当はできない。
「私は大丈夫だから...兵隊さんを手当して...私が死んでもお国は困らないけど、兵隊さんが死んだらお国が困ってしまうでしょ...?私たちはどんな時でも...お国のために尽くさなくてはいけないのよ...」
息を切らしながら彼女は私に伝えた。
私は、和子を空いているベットの上に乗せて手当に戻った。今にも泣きそうだった。昨日まで普通に一緒にいた仲間が一瞬にして無惨な姿へと一変してしまった。これが戦争の実態であるのだ。
でも、やっぱり諦めたくなかった。
こっそり、誰もみていない時にできる限りのことを尽くした。
たとえ薬や器具がなくても友達の命を簡単に諦めることはできない。ある布などで応急処置をした。少しはよくなったと思う。それでも和子の足がよくならことはなく寝たきりになってしまった。
どんなに辛いことが起きても、戦争は続く。
私達の仕事も増える。
段々、和子のことを構ってあげられなくなっていった。
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