第5話 春川メグミ「私にして欲しいことある?」
幸せの風景ってなんだろう。きっと、みんなそれぞれにあるんだろうな。恋人がご飯を作ってくれるのを後ろで眺めているとか、子供がすやすや寝ているところとか。
いま目の前にある光景は、私にとってはそういうものだと思う。
冬色の暗い雲が窓を覆うなか、チカがもこもことしたパジャマを着たままコタツで温かそうにぐでっとしている。目はぼんやりとしていて、だるそうにスマホをしゅっしゅっと指先でなぞっていた。そんなどうでもいい風景に、何かで胸がいっぱいになる。何かってなんだろう。まあ……。何かのままにしとくかな……。
お昼の洗い物が終わって、コタツにのそのそと入る。チカが持ってたスマホの画面がちらっと見える。そこには裸のお姉ちゃんたちがからまってあんあん言ってるようなイラストが映ってた。
……?
……欲求不満?
いやそんな……。でも、それは。しかし……。
……そういうことがしたい?
いやいやいや。
こないだ抱きしめられたからって、発想が飛躍しすぎだろう。
うーん。でも……。
漫画的な表現にするなら顔を引きつらせながら笑顔で問いかけているシーンだろうな、と思いながらチカに話しかける。
「……なに読んでるの?」
あ、少し声がうわずってしまった。
チカがそんな私に振り向く。
「ん? ああ、これ? なんか百合カップルもの。大学生同士で同棲してんだけど、そのふたりがギクシャクする話でさ。読みながらメグミとは不思議とそういうのないよなーとか思って」
「なんだ……。まあ、おいしいご飯とお酒飲めば、うちらはだいたい乗り切れるよ」
「単純」
にひひと嬉しそうにチカが笑う。
……そのまま笑っていてくれたらいいのにな。
気づかれないように小さなため息をつく。それから私は明るく言う。
「じゃ、靴下丸めて洗濯機に入れとくか」
「やめろー!」
「あはは。まあ、伸ばして干せばいいだけだし」
「私もだいぶてきとーだけど、君もだぞ」
「じゃ、てきとー仲間だな」
「よろしくな相棒」
「何のキャラだよ」
「実家じゃ掃除も洗濯も私がやってたから。両親とも目の前で忙しくされてちゃ、丸めて出すなとか文句言う前に自分で直したほうが早かったし」
「いつもごめんな」
「手があいてたらメグミもやってくれるから。実家より楽だよ」
ゆっくりと伸びをしながらチカが言う。
「なんだろうな、これ。ふたりで縁側に座ってお茶すすってるようなこの感覚は……」
「いいことじゃないか、ギクシャクするより」
「そうだけどね」
「ギクシャクしてみる?」
チカがぽてんと仰向けに寝る。天井を見つめながらぽつりという。
「……もうしてんじゃないかな」
寂しそうな顔をしている。
私は突然空中に置いていかれたような不安な気持ちになる。それを隠しきれず、私は静かに言う。
「それじゃ、おいしいご飯食べなきゃな」
チカが体をごろんとさせると、私に背を向ける。
「親友が頭おかしくなってたら、ハグぐらいするから」
「気にしてんの?」
「気にするよ。私は女が好きな女だし。嫌がってもよかったのに」
「チカはチカだよ。嫌がらないよ。ありがとうな」
諭すつもりでそう言った。それは私の本心だから。
チカはそれに答えない。その代わり、すこし怒ったように言う。
「ねえ」
「なに?」
「……まだ好き?」
「……そっちもじゃない?」
ふたりは黙る。しばらく何もない時間が流れていく。
……。
……。
こらえきれずに私はチカに声をかける。
「ねえ、チカ……」
「っていうか、ありえなくない? なにあれ? なにふたりでいちゃらぶしてんの。見せつけてくれちゃってさ」
「は、いや……。それな」
「ハルカ、また毒婦に磨きがかかってなくない? 何が『私のほうがいいんでしょ』だよ。あんな歯が浮くセリフをよくもまあ。ムキーッ!」
「あれで素なんだよな……。あんなんサークルとかに放り込まれたら、みんな死ぬ未来しかないな」
「あれでついてんの、いまだに謎だよ」
「おい、昼からエロいな。……まあ、ついてんだよ」
「なんで知ってんの。見たんかい」
「……見たんだよ」
「はああ?」
「高2の夏休みにみんなで奥多摩行ったじゃん。風呂の時間を間違えて、ハルカと湯舟でばったりしたんだよ」
「ねえ。なんでさ、私とミヤコの関係より先に進んでんの。私なんかミヤコと手を繋いだぐらいだぞ。ハグだって1回しか……」
「知らんよ」
「いいなあ。私、何にもしてないや。もう少し私に積極性というものがあれば変わってたのかな……」
「さあ、どうだろうな」
「こないだここにミヤコが来たとき、私に嫉妬してくれたのはちょっと嬉しかったけど……」
チカの声が曇っていく。
「ああいうことは言って欲しくなかったな……」
私はこたつを出て立ち上がる。チカはまだ背を向けていた。
「チカ、暖かいお茶いる?」
「飲むー」
チカがよいしょっと体を起こす。溶けた何かのようにこたつに覆いかぶさり、そのままうなだれる。
「このままでいたいんだけどな……」
……それはどっちの関係?
電気ケトルに水を入れ、スイッチをカチリといれる。チカが好きだと言ってた紅茶の葉をガラスの急須に入れる。お湯が沸くまで、台所からチカを見ていた。スマホをのぞき込んでいるチカ。頭はぼさぼさなままで、最近すっかり無防備だ。昨日は単位計算間違えたとか言って、ひたすらレポートをノートPCで書いてたけど、今日は見ての通りだらしなくのんびりしている。
私はどうしたらいいんだろうな……。
チカに抱きしめられたときの感触がまだ体に残っている。今日の空の色のように、いろいろなものがどんよりしていく。
カチッ。
電気ケトルからとぽとぽとお湯を急須に入れていく。お茶の葉が楽しそうに踊りだす。急須の蓋を閉めて、こないだふたりで買ったマグカップを食器棚から取り出した。お揃いにするにはさすがに抵抗があったけれど、結局チカに押し切られてしまった。いまでは、まあいいかな、と思っている。
よくないな、そういうの。
急須からマグカップへ紅茶をそそぐと、清純な香りが立ち上った。こたつに持っていき、それをチカの前に置いてやる。
「ほい」
「ありがとう」
「お礼にミカンをむいときました」
「これはこれはご丁寧に」
きれいに筋が取られたみかんの房をひとつつまんで口に入れる。
「んー。このみかん、甘いな」
「でしょー。湯河原でみかんを作ってる人がいてさ。毎年家で箱買いしてんだ。こないだ実家へ手伝い行ったときにちょっともらってきた」
「へえ。いいな。おいしいよ」
「メグミは私のおススメをなんでもおいしいって食べてくれてうれしいな」
「チカにがっちり胃袋つかまれちゃったな」
「ふふ、つかんでみました」
そういうのは好きな人にやればいいのに。
「チカ、今晩のご飯どうする?」
「友永さん、夜に来るんでしょ?」
「え、あ、今日だっけ?」
「昨日メグミから聞いたよ」
「あ、ほんとだ……。スマホに連絡来てた。明日かと思ってたよ。じゃ、クリームシチュー作るか」
「クリームシチュー?」
「うん。友永さんが好きでさ。昔、姉ちゃんが修羅場になったとき、アシの人たちがここにきて作業するときがあって。あのときは私まだ何もできなかったから、ご飯だけはと思って作ったんだ。何人になってもいいようにシチューとかカレー系が多かったんだけど、その中でも友永さんがクリームシチューを気に入ってくれて。いつも作ってくれって、お願いされてたんだ」
「へー。いい話だね。なんか老舗の名物料理のストーリーみたい」
「そうかい?」
「あ、なんか買い出しに行ってくる?」
「いっしょに行くよ」
「外、寒いよ?」
「いいよ。寒くなったらチカの手をカイロの変わりに握るから」
「それはあっためておかないといけませんな」
チカが自分の手のひらに息を吹きかけて、私に笑いかける。
私がせいいっぱいそれらしいことを言ったけれど、彼女はそのままにしてくれた。それでいいんだ。笑ってくれたらそれでいい。
灰色の空の下、冬の風は冷たくて、街の中を静かにさせていた。前をひょこひょこと歩くチカを私は見ている。コートが風にはためき、少し寒そうだ。
チカが「お花咲いている」と指さして言う。ツバキの赤い花が古い家の軒先にいくつか咲いていた。暗い街の中でそれは鮮やかな色を持っていて、思わず「きれいだね」とつぶやくと、チカが「ふっ、メグミのほうがきれいだよ」とかイケメンの真似をしながらバカなことを言う。私達はふふっと笑う。ひとりではただの作業だった買い物も、ふたりで行けばこんなに楽しい。
でも、それでいいのかな……。
よく行くスーパーの前に立つ。ガラスの扉がしゅるりと開く。「さてと」と言いながらカゴを持つ。
「メグミ、お肉は鶏? それともシャケとか」
「鶏。もも肉でやるよ。これでいいかな。最近のはひと口に切れてるのがあって助かるな。あ、今日は安い。ちょっと多めに買っとくか」
「野菜はたまねぎとニンジン、じゃがいも、マッシュルーム?」
「うん、そんなもんで。あ、ブロッコリーいいな。少し入れようか」
「いいね。牛乳も切れてるから大きいほうを買ってしまおう。クリームシチューの素はどれがいい?」
「使わないんだ」
「え、そうなの?」
「そのほうが出来上がりがすっきりするんだよ。みんな重労働の後だから、あっさりとした口当たりのほうが良くて」
「メグミすごいな。何歳の時に作ったの?」
「え? 中学生のときだよ」
「私が実家のコロッケを盗み食いしてたときに、もう料理してたなんて」
「そんなもんだよ。そっちだって一応店の手伝いはしてんだろ?」
「まあね。でも、売り物のお惣菜は作らしてもらえなかったな。調理場にはミンサーとか肉切り包丁とか、結構危ないものがあったし」
「そんなもんなんだね」
「そんなもんなんだよ。よくもまあ、このふたりが一緒に買い物してますね」
「あはは。それはそう思うよ」
こうしていられるのは、ほんのわずかな偶然。私が「いっしょに暮らそうか」と言った短い言葉のせい。生まれも育ちも好きな人も違うのに。
台所に買ってきたものを並べて、少し大きめの鍋に水を張り、コンロの火にかける。隣で食材を見ているチカへ声をかける。
「じゃあ、適当に仕込んどくよ」
「あれ、炒めないの?」
「そうなんだよ。水を沸騰させて、塩をちょっと入れて、お肉だけを煮ていく。その間に野菜を切ってくよ」
「へえ。だんどりもいいね」
「まあ、何度も作ってるからね」
「こっちはサラダを準備しとくよ」
「ありがとう」
ふたりで並んで台所。ちょっと狭いけれど、少し楽しい。
「あれ、メグミ。たまねぎは薄切りにしちゃうの?」
「これはホワイトソース用」
「え、そこから? 作るのめんどくさくない?」
「それがだね。まあ見ててよ」
もうひとつの小さな鍋を棚から取り出し火をかける。
「多めのバターを鍋に入れて、薄く切った玉ねぎを入れる。そこに小麦粉をざっくざっくと振り入れる」
「メグミ、恐ろしく目分量だな」
「まあ、カンでやってるし。小麦粉はバターを吸って、とろっとするのが無くなるぐらいいれちゃう。多めのほうが安心できる。そこに牛乳をちょっとずつ入れてく」
「常温にしなくていいの?」
「面倒でしょ」
「まあ、そうだね」
「あとは手早く。鍋に入れた牛乳を素早くかき混ぜて、とろみがついたらまた牛乳を足す。これを繰り返すと、ほら」
「おお、ほんとだ。割と滑らかだね」
「ダマが残ってもシチューだったら大丈夫。こっちの具材を煮てる鍋に混ぜたら、わりと消えてくれる。グラタンとかもこれで作れるよ。焼いたサーモンの上にとろっとのっけるだけでもおいしいし」
「メグミすごいな。天才か」
「ふっ、いまさらかよ。まったく君って奴は」
「あはは、さっきの私よりイケメンだ」
お肉と野菜を煮ている鍋へさっきのホワイトソースを加える。くつくつと煮えていく。それをふたりでのぞき込む。
「いい匂いだなー。いい景色だなー」
「チカもそう思う? ふつふつしている鍋を見るの、なんかこう幸せだよね」
「そだね。すごく心が温かくなる」
ぴひゃらぴひゃららぴょるーん。
「あ、ご飯炊けた」
「チカ、しちゅーおんざらいす、OK?」
「りありー? おふこーす! あいらびゅーとぅーでっす!」
「文法あってんのかよ」
「あはは。適当だ」
「まあその適当さ加減で、うちらはエリア51でも生きていけるだろうよ」
「それな。宇宙人といっしょに砂漠でコタツ囲んで鍋つつけるよ」
「あはは」
ピンポーン。
チカが「私が出るよ」と言いながら玄関へ小走りに開けにいく。ドアを開けるとぽやぽやとした声が流れてきた。
「とっもなっがさんが、来ったでぇー!」
「いらっしゃい、友永さん。上がってください。寒かったですよね」
「はやー、はややー。お姉さん、やっぱりべっぴんさんやなー。家服もええわあ。たまらんわぁ」
「あ、ありがとうございます」
「これ、おみやげなぁー」
「りくろーおじさん?」
ピンク色のコートを脱ぎながら友永さんが部屋に入ってくる。私は台所から顔を出す。
「いらっしゃい」
「メグミぃ、そこはこうしてこうやって『いらっしゃあぁーい』やろ。私の教育が足らへんかったか」
「はは……。あれ、確か、正月のあと大阪に帰ってましたよね」
「そやねんー。今日、新幹線にびゅーんと乗って、しゅぱぱーんとここまで来たやねん」
「急にどうしたんですか?」
「ちょっと探し物やねん。作画の資料探しててな」
「うーん。姉ちゃんとこにも行ってるかもですけど」
「ここにあるって、かっちゃん言っとったでぇー」
友永さんのコートをハンガーにかけながらチカがたずねる。
「かっちゃん?」
「ああ。姉ちゃんの名前が、カズミだから」
「なるほど……。あ、友永さん、ひとまずお茶でもどうですか? 探し物はこたつで温まってからで」
「いただくわー。ありがとなぁ」
こたつに3人がいる。空いた片隅には、チカからもらったシロクマのぬいぐるみを「お前も家族だからな」と言い聞かせて置いといた。
「ええ紅茶やな」
「こないだメグミと一緒に買ってきたんです。お正月にいただいた執事喫茶の紅茶が忘れられなくて」
「探すの苦労したな。結構高かったし」
「あんたら仲ええなぁ」
ふたりで間が空く。
私たちの関係は何と言ったらいいのだろう……。
「メグミと私は、親友ですから」
「まあ……。そうだね」
友永さんはいつもと変わらず、背景に小花が描かれているような感じでニコニコと私たちを眺めていた。
「ほら、買うてきたおみやげも食べりぃ」
「いただきます。はむっ。んー、チーズケーキだったんですね。メグミ、ふわふわだよ、これ」
「まあ、東京にはないからな。りくろーおじさん」
「ほんまやったら焼きたて食べさせてあげたいんやけどなぁー。焼き上がると店先でちりんちりん鳴らすやんけど、そのときに買うたると、まだぷるんぷるんしてるねんー」
「おいしそうですね。いいなあ」
「そやなー。お姉さん、いつか大阪来て欲しいねんなぁ。そんときは天保山登ってジンベイザメ見よな」
「……山でサメ?」
チカの頭にハテナマークが漂う。私が助け船を出す。
「まあ、いいとこだと思うよ」
「行ったことあるの?」
「1回行ったんだよ。姉ちゃんを迎えに……」
友永さんが人差し指を口に当て、いたずらっぽく「しーっ」って言う。
まあ、チカには言わないほうがいいか……。私もうっすらとしかわからないし。
「メグミぃ、資料探すの手伝ってくれへん?」
「向こうの部屋にあると思います。手分けしましょうか」
「ここ、片しとくから」
「ありがとう、チカ」
友永さんは変わらず私たちを見ていたけれど、ふと何か獲物を見るような視線をその中に感じてた。
段ボールが積まれた部屋に埃が舞う。
「ひゃー。一仕事やわぁー」
「片っ端から段ボールに突っ込んでるんで……」
「地層もあてにならんから、一個一個開けなーあかんねんなぁ」
「すみません」
かがんで段ボールの中を探していた友永さんが、積んでいた段ボールを降ろしていた私に言う。
「そいやさ。かっちゃんに怒鳴ったんやって? すぐこっちに電話来たわ」
「やっぱり……。ご迷惑をお掛けして……」
「気にせーへんで。ま、姉妹で仲良くしぃや」
「はい……」
「あ、あった。これやぁ」
「ああ、姉ちゃんと友永さんたちの同人誌。最初のでしたっけ?」
「そやねん。ここから始まったねんなー。懐かしぃわ。今でも付き合うとるのは、かっちゃんだけになったなぁ。みんな散り散りバラバラや」
友永さんは床に座り込み、モノクロで印刷された薄い本をたいせつそうにめくっていく。
「ホラ、このカット、かっちゃんのやで。あはは、下手やろ」
「面影はありますね」
「やっぱり姉妹なんやな。わかるの」
「姉ちゃん、抜きの線が独特ですから」
「しゅっとしたのが長いんからな。この頃からもうそうやね。商業出始めなときに仕事抱えまくってて、貸せって言うてんのに、キャラのペン入れだけはやらせへんかったな。こっちは死ぬほどこの線を練習してたんやけどな」
じっとそのカットを見つめている友永さんを、私はただ黙って見守ることしかできなかった。
「まあ、ええわ。メグミぃ。これ、借りてくけど、ええか?」
「もちろんです。でも、この本は友永さんも持ってなかったですか?」
「こないだ、ついカッとなって捨てたねん。アホやわー、私」
友永さんが私に困ったように笑いかける。
私は聞かずにはいられなかった。
「それは姉ちゃんが……」
コンコン。
チカが開いていた部屋のドアをノックする。
「ご飯食べません? いい時間ですよ」
「あかんなぁ、こない読んでたら、時間忘れてまうわぁ。ほな、いこか、メグミぃ」
テーブルの上には、幸せがあふれていた。水色と白の爽やかなテーブルクロス、そのうえには湯気を立ててるホワイトシチューがきれいに盛り付けられていた。サラダと最近チカが凝ってるカブの浅漬けを洋風にしたもの、常備菜になってるトマトと野菜の煮込みも小鉢にして添えてあった。いつのまに買ってきたのか、小瓶に添えた小さな花まであって、テーブルを彩っている。
「チカ、これどうしたの?」
「やるときはやらないとね。おいしそうに見えるでしょ?」
「うん、とても」
そういやクリスマスのときも盛り付けをきれいにしていたっけか。
「おふたりさん、はよ、食べようや―。冷めてまうやんー」
友永さんが椅子をべちべちと叩く。促されるようにして私たちは椅子に座る。「いただきます」を言うと、めいめいにスプーンを取る。
「どれどれ……。んーんんー。メグミ、すごいな。おいしいよ。あっさりしてるけど、コクがすごいね。お肉もほろほろしてる」
「今回はわりとよくできたかな」
「懐かしいなぁ。あかん、泣きそうやねん。今日はそういう日なんやろか。あ、おかわりして、ええかー?」
「え、もう? ちょっと早くないですか?」
「私よそってきます。友永さんは座ってて大丈夫ですよ」
「ありがとなぁ、お姉さん」
友永さんが私に顔を近づける。
「よく気が回る子やな。さっきもうちらをふたりきりにしてくれたし。ええ子やわー」
「ちょっ、勘違いしてません?」
「知らんがな」
ええ……。
私を置き去りにして友永さんが、お皿にシチューを入れて戻ってきたチカに声をかける。
「サラダおもろいね。ドレッシングなんなん?」
「ニンジンをすりおろしてオリーブオイル混ぜて塩コショウしただけなんです。簡単なんですけど、こうするとメグミが野菜をモリモリ食べてくれて」
「好き嫌いの激しい男子児童か、私は。チカの子供じゃないぞ」
「あはは。バブ美感じる?」
「また覚えたての言葉を、そうやってすぐ使う」
「ふたりとも、ええお嫁さんになれるなぁ」
うっかりふたりで目を背ける。
「ま、いつかの話や」
それからは黙って食べていた。なんて言えばいいのか、わからなかったから。
……お嫁さんって、誰の?
「あかんなぁー。あかんでぇー。話し足りへんやーん」
どんっ!
友永さんがどこからか出してきた酒瓶をテーブルの上に置いた。
「ウイスキーですか?」
「メグミ、これ……、イチローズモルトだよ。しかもミズナラのじゃ……。たしかすごく高いですよね」
「まあ買うたのだいぶ前やけどなぁ。こない人気になる前やったから」
「ん? 友永さん、なんでまた?」
「あんなぁ。メグミが20歳になったらお祝いで開けようと思ってたんやで。そしたらこの子ったら、友達と勝手にスノボ行ってからにぃー。開けに開けられんかったわー」
ふわふわしている友永さんがにこにこと私に笑う。
「ま、大事な人ができたらそのときのお祝いに、と思って取っといたけどなぁ」
「ちょ、ちょっと待って、友永さん」
「ちゃうんか?」
「いや……」
「まあ、いいじゃない。私も飲んでみたいし」
「え、いや、チカ?」
「まずはふつうにストレートで飲んでみ」
「いただきます。んっんんーっ! 香りいい! なにこの後からじゅわじゅわ唾液出るの。蒸留酒なのに……、こんなに味が……」
「うまいな、これ」
「ええやろ、ええやろー。そいでもってなぁー」
これまたどこからかグラスとペットボトルを出してテーブルに置いた。
「これをもったいないことにソーダ割りにするねん。ほい、イチローズモルトのハイボールや。レモンとかいれんでそのまま飲んでみ」
「わ……。香りがはじけてる。ストレートで飲むより好きかも」
「飲みやすいぶん、香りが長くはっきりわかるな……」
「邪道なんやろが、これもまたええねん」
笑う友永さんが私たちに凄む。
「さて、お姉さんら。私が満足するまで、きっちり飲むんやでぇー」
ええ……。まあ、飲めなくはないけど。それより、そんなに飲まして大丈夫なのだろうか。
ボトルの酒が残りわずかになった。
「まだ、お姉さん固いな。話足らんとちゃう?」
「そーですかー? だいぶやわらぁいですよぉ」
ダメだ。これは。
チカは相当酔っぱらっている。何を言い出すかわからない。
冷や汗をかきながら飲むお酒は、より一層進んでしまうが、私だけ酔うができない。
「お姉さん処女やろ。男と付き合うてへんやろ?」
「ちょ、友永さん!」
私が止める合間にチカが話してしまう。
「ええっと、その……。私は女の人のほうが……」
「やっと白状したか。そういう匂いがしたねん」
「匂い?」
「どこ見てるのか、まるわかりやで」
「え、どこ見てました?」
友永さんは答えず黙ってニコニコとしている。
「ええかー、チカちゃん。同性のカップルはたいへんなんやでー」
「はい……」
「両親、親族には泣かれるし。友達にはどん引かれるし。会社バレしたくないから同じとこに一緒に暮らせない、なんていうのもある。こないまわりに言うてもうたら、みんな見る目が変わってしまう。気ぃ使こうてばっかりや。男女のカップルならいらない、そんな苦労ばかりするはめになるんやで」
「そう……、ですね……」
チカの顔がどんどん曇っていく。友永さんはそれを見てニィと笑う。
「なーんて説教されるかと思っとてんのかぁー。あっはっは!」
「はい?」
「ええねん、ええねん。好きになったらもう仕方ないで。全部諦めて一緒につっぱしるしかないんや。降りかかってくるものは、片っ端からパンチでええねんで」
チカがグラスのお酒を勢いよく全部飲み干す。
「私、好きな人がいて。その人から私を王子って昔から言ってくれて。ずっと見守ってたのに、見守るって約束したのに、彼女は私から離れて……。嫌われたくないのに、嫌われるようなことをして……。このままじゃ悪いし……。迷惑だろうし……」
友永さんがグラスのお酒をちびりと飲む。
「さよか。あほらし」
「はあ?」
「ねんねじゃあるまいし。そない思うなら、キスして押し倒しておきゃよかったんや」
「ひ、ひどくないですか?」
「なにあきらめとんのや。相手に悪い?なんやそれ」
「でも、ですね……。その……」
「恋愛なんて究極のエゴや。押し通すしかあらへん。ま、あきらめるんのもエゴやけどな」
チカはグラスを抱えて何かを考えている。
「なんでチカちゃんは女の子が好きやねん?」
「それは……。その女の子のことがずっと好きで……。男の人は隣にいてもなんか違くて……」
「誰でもというわけやないんやな」
「はい……」
「なあ、メグミぃ。この子、一途すぎて難攻不落やで」
「は、はは……」
話しが危なくなってきた。
しかし……。
地雷だらけで、うっかり口を挟めない。
足半径1mより先は、みっちり地雷が置かれている荒地を幻視してしまう。
「お、女の子同士ってどうすれば……」
ドッゴン。いま地雷が大きな音を立てて爆発した。
「おい、チカ!」
「なに言うてんねん。聞く相手間違えてるで。好きな人がして欲しいことしてあげなあかんねん」
「なるほど。どうして欲しいの?みたいな」
「あはは、チカちゃん、完全タチやなあ。リバなしや。でも、したことないんやろ」
「はい……」
「相手の心を満たしてからの方が先やないかなー」
この酔っ払い、さっきと言ってることが違う。
「友永さん、ちょっと飲み過ぎじゃ……」
「ま、ちちくりあって、相手が目の前でかわいい顔をしてくれるんは、なかなか感動的やけどなー」
「ずるい。みんなずるいな……」
「ずるいことなんかあらへんで。いつか、そうなってしまえばええんやー。お楽しみが後になったほうが、喜びもひとしおやで」
「それは……、まあ……。友永さんは女の子と……、その……、そういうことしたことあるんですか?」
また地雷を……。私が口を開こうとしたら、友永さんがほわほわと笑う。
「ひみつ」
友永さんが目を細める。
「言ったら君ら、今までと同じ目で私を見いへんやん。私の宝物やから、誰にも教えんのや。ケチやねん、私は」
「そんなあ」
「なあ、チカちゃん、メグミぃ。みんな生きとるだけでぼろぼろやねん。仲良しさんが一緒に暮らせるなんて、そうそうないんや。あんたら幸せなんやで」
「メグミは幸せ?」
「まあ、だいたい」
「みんな幸せになってほしいねん……。泣くのはもうかんにんやで……」
ぽてっとテーブルに突っ伏す友永さん。すやすやと寝息を立てている。
「寝ちゃったね」
「疲れたんだろうな。寝かしとくか」
「毛布持ってくる?」
「うん、私のでいいから。チカは大丈夫?」
「私もだいぶ眠い……。そうだ、こっちに布団持ってこない? みんなで寝たい」
「いいけど……」
こたつを端に寄せて、チカと私の部屋から持ってきた布団を居間に敷いていく。友永さんの布団は私のを使ってもらうことにして、私は適当にこたつ布団にくるまった。部屋の明かりを暗くすると、布団をかぶったチカが懐かしそうに言う。
「合宿っぽい、これ。みんなで行った奥多摩みたいな感じがする。ちょっと楽しいな」
「それはわかる」
「なんか、いろいろ思い出しちゃうな……。少し聞いてくれる?」
「うん、いいよ」
「ミヤコとは、ちっちゃい頃からの付き合いでさ。最初は自分は姫だからお前は王子やれ、って生意気な子でさ」
「あんまりいまと変わらんな」
「あはは。そうかも。それからふたりきりのときだけ、姫と王子と呼び合ってたけど、なんかこう、ミヤコをずっと守らなきゃとか思ってた。ミヤコと南里君が付き合いだして、なんか取られるのが嫌に思って南里君に声かけたら、ミヤコに泣かれちゃって。あれからもうミヤコを泣かせたくないと思ってたけど……」
「でも泣いたな。チカもミヤコも」
「そうだね……。高2のときに告白したけど、あのときもふたりでずっと泣いてたな……。ああ。なんか、変な話してるな。ごめんね」
「いいよ」
「ずっと恋してたけど、見守るだけでいいと思ってたけど……。どうなんだろうな。最近はちょっと寂しいかな……」
私はチカに笑っていて欲しいんだけどな。
あんな泣くような関係じゃなくて……。
「友永さんの『相手のしたいことをしてあげる』って、私はミヤコに何にもしてあげられなかったのかな」
「そんなことないよ」
「そうかな……。そうだったらいいな。あんなことを言わしたのは、私のせいなんだろうし。でも、メグミとはこうしていたいんだよ…」
「そう…」
相手のしたいこと。チカのしたいこと。
それを私から言うのは怖い。そういうことを求められたら? でも……。
私は息を小さく吐くと覚悟を決めた。
「ねえ、チカ。私にして欲しいことある?」
チカがぽつりと言う。
「手を握りたい」
覚悟していたものがぷしゅーと抜けていく。
「そんなことでいいの?」
「うん」
「ほら」
「ありがとう」
布団から手を出す。
チカが私の手をゆっくり握る。
指が絡まる。細い指を感じる。
……温かい。
そこだけは温かった。
「ねえ、メグミはドキドキする?」
「うーん。どうかな」
「私はドキドキしないや」
「そっか。それは残念だな」
「でもね。なんだかとっても気持ちが落ち着く。ひなたぼっこしてるみたい」
「そうなんだ」
「ミヤコとはドキドキしたのに。なんでだろうな」
私は静かにゆっくりと満たされるように微笑む。
「理由わかったら教えてよ」
「うん……、そうする……」
寝息が聞こえる。チカは寝てしまったようだ。
私も寝るかな。飲みすぎた。明日は二日酔いになっていなかったら、部屋の掃除をしながら、ネーム切って、それから……。
「ニヤニヤ、ニヤニヤ」
私は擬音を口にしているその人に静かに言う。
「友永さん、いい加減寝たフリやめてください」
「バレてたかー」
「一升瓶ひとりで空ける友永さんが、あれで寝るわけないですから」
「あはは。そやな」
「チカを寝かしたいから静かにしてください」
いつのまにか私の近くに来ていた友永さんが、私の頭のほうに座り込むと、そのまま私の顔をのぞきこむ。暗いなか、友永さんが笑っている顔がぼんやりと目の前に見える。
「何ですか?」
「大きくなったんやなあ、メグミ」
「ちっともそんな気はしませんよ」
「初めて会うたの、お父はんとお母はんが亡くなったときやね」
「あのときはありがとうございました。姉ちゃん、憔悴しきっててよくわかんなくなってたし」
「なあ」
友永さんが目を細める。
「かっちゃんと私、抱き合ってたの見とった?」
……。
言葉に詰まる。どう答えたら……。
悩んでいたら、頬を両手でつかまれてむにゅむにゅとされた。
「……はい」
「せやったら、わかるやろ?」
「わかっていいんですか?」
「メグミは特別や」
ほっぺたから手が離される。
「あの日はな。かっちゃん死ぬ死ぬ言うから抱きしめて『死ぬぐらいなら体貰うわ』ってキスしてな。ほんま、さいてーやな、私」
友永さんがいつもと変わらない感じでぽやぽやと笑う。
「見る目、変わったかいな?」
「いや……。ずっと、もうひとりのお姉ちゃんだと思ってます……」
「そや。それでええんや。何にも変わらへん」
変わらないようにしてくれたのはわかってた。両親が亡くなってしばらくした後、姉ちゃんが失踪したことがある。3日目の夜、友永さんから電話をもらい、大阪まで姉ちゃん迎えに来いと言われた。あの3日間に何があったのかは聞いていない。あれ以来、姉ちゃんも落ち着いて私と暮らしていた。みんなニコニコしながら、何も話さず。でも、いまなら少しわかる。
「その……、姉ちゃんが彼氏さんと結婚するって……」
また頬をもにゅもにゅとされる。
「なんやねん、それ。私、ふられてかわいそうな負けヒロインとでも思われているんか。いいねん、それは。君ら姉妹を墓まで見守るって、あの日から決めたんや。ふたりが幸せになっていれば、それでじゅうぶんやで」
「……それでいいんですか?」
「なにが? こうやってメグミと夜中にコソコソ話するの楽しいやん。かっちゃんに子供できたらいちばんに抱かしてもらうねん。きっとかわいいでー。これからぎょーさん楽しいことばかりや。君ら見てたら人生飽きんわ」
「友永さん……」
「このお姉さん、ええ子やで。握った手、離したらあかんで」
「でも……」
「子作りならかっちゃんに任せておけばええんやし」
「そうじゃなくて。チカには好きな人が……」
「メグミぃー、ほんまボンクラさんやな。その目、ホモマンガの描きすぎで腐ってもうたか」
「はい?」
「そんなん心に抱えたのが、メグミとおてて繋いで寝るかいな」
「それは、その……」
「私には握れなかった手や。お姉ちゃんの言うこと、聞いとき」
「はい……」
「ええ子や。メグミは昔からええ子さんやな。ええ子さん過ぎて心配やったわ。かっちゃん、やっとメグミの反抗期が来てくれたって喜んどったで」
友永さんの小さな手が、私の髪をさらさらとすいていく。それはやさしくて、くすぐったくて、いつもと変わらなくて……。
「自分の幸せを先に考えるんやで。かっちゃんや私のことなんか、後回しでええんや。みんなぶん投げて、わがままになりぃ」
「はい……」
目の前が暗くなる。何をされたのか、すぐにはわからなかった。おでこに当たる柔らかい感触が、ようやくそれを伝えてくれた。
「ほな寝るで」
「はい、おやすみなさい……」
遠くなる意識の中で、友永さんの泣く声が少しだけ聞こえたような気がした。
寝ぼけた頭にふたりの声が響く。
「したらなあ、メグミったら『姉ちゃんどこー』って泣くんや。おっきいくせしてなあー」
「あはは、そんなことあったんですか」
「そやでぇ。案外泣き虫さんやで、メグミは」
……なん……だと?
慌てて布団を撥ね退ける。
「おはよーさんやでー。メグミぃ、ようさん寝られたか?」
「寝すぎました。ふたりにして放置するとこんなに危険だったなんて、我が身の不覚でした」
「なんやねん、そのどこぞのアニメキャラみたいなセリフはー。楽しくおしゃべりしながら朝ごはん作ってただけやで」
「それが危険だと言っている」
「シャアかブライトかいな。お姉ちゃん、そない言われたら悲しいわー。ちゃんとお揚げさん煮たのになあ」
「え、じゃあ……」
「ほら、朝はおうどんさんやでー」
「友永さんのうどん、ひさしぶり……」
「覚えてるで。これだけはかっちゃんと一緒によーさん食べはったなぁ」
「はい……」
「熱いうちに食べりぃ。ほら、そっち持ってくから、テーブルの上のもの、なおしときぃー」
湯気を立てているどんぶりを両手で持って、汁をすする。あたたかさが体に広がっていく。ふわふわとしたやわらかいうどん。その上には私が好きなとろろこぶが雲のように浮かんでる。
揚げを一口かじる。口の中にじんわり広がる甘い味。姉ちゃんを迎えに行ったときに食べさせてもらったあの味と変わらない。自分で作っても醤油と砂糖の割合はいつもこれっていうのが出せない。友永さんのはすごくバランスが良いのにコクがある。黒糖でもないし。なんだろうな、と思いながらいつも食べてる。そんな思いも変わらない。
「よかったなあ、メグミ。おいしそうに食べるのを見てたら、ほっとするわー」
「なんかこう……。おいしいんです……」
「そりゃ愛情がぎょーさん入っとるからな」
私は笑う。チカもつられて笑う。
「なんかまたひとつメグミの好きがわかってうれしいな」
「そうかい」
友永さんがぽやぽやと微笑んでいる。
「作り方、チカちゃんに教えといてから、いつでも食べれるで。なあ、チカちゃん」
「うどん出汁はヒガシマルので良かったんですね」
「そやねん。お尻振って、ぷーっ、ぷーっ、やー」
「あはは。テレビのあれですか?」
「そやそや。白だしとか、変にいろいろ揃えなくてもええ。ほんのちょびっとだけ醤油足らすと香りがよくなるから、それだけはやったほうがええけどなー。うどんも冷凍のをちょっと長く煮る程度でええし。お揚げさんだけは、教えたように作ったって」
「わかりました。やってみます。メグミ、次の土曜日、作ってみていい? 練習してみるよ」
「いいよ。まあ、おいしく作ってくれ」
「もちろん」
チカがとても嬉しそうに笑う。
……これも私の幸せの風景なんだろうな。
好きなものを好きな人が覚えていてくれる。
好きな人が、それを作ってくれる。
きっと喜ぶだろうと思いながら。それを自分のことのように嬉しく思いながら。
暖かい色のリボンで結ばれるように、私たちはそうやってつながっていた。
玄関にチカと友永さんがいる。コートを羽織ってブーツを履きながらチカが言う。
「たぶん講義終わるの夕方過ぎだから。それぐらいには帰ってくるよ」
「ああ、わかった。なんかご飯作っとくよ」
「ありがとう。楽しみにしてる」
「メグミぃ。チカさんと仲良ーな」
「いろいろとすみませんでした」
「にひひ。これで次の即売会には実録物こさえて、ぎょーさん売るでー」
……は?
もしかして資料って、そう言う意味……。
「せっかくやから、かっちゃんとこ行ってくるわー」
「はい、今日は姉ちゃんと遊んでやってください」
「そやな……。そうするわ」
友永さんが気持ちの置き所を探すように目を細めて笑う。
二人が玄関のドアを開ける。
……あ。晴れてる。
空は透き通って青く遠くに広がっていた。
「行ってきます!」
「ほな、またなー」
「いってらっしゃい」
私はドアが閉まるまでふたりに小さく手を振る。
あれ。自分も一緒に行ったほうがよかったのかな。また友永さんは私のあれやこれやをチカに……。
まあ、でも。
昨日チカを握りしめていた手。まだ温かさが残ってる。その手を胸に当ててぎゅっと抱きしめる。
いいか。それでも。
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次話は春川家へメグミをふったその人、ハルカがやってきます。取材のため、ハルカにリアルなBL話を聞いていくメグミを見てチカは…。
お楽しみに!
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