第2.5話 芝原チカ「圧壊!」
※これは第2話の「…喧嘩したいわけじゃないよ」「わかってるよ」のあたりから翌朝の間に起きた出来事の話です。
メグミといっしょにコタツに入る。2人して眉間にしわを寄せて、すごくつまらなさそうにテレビを見ていた。ついさっき捨てる捨てないでメグミとやりあったせいか、微妙な空気が流れている。
「ガキ使を今年やらないのが一番よくないよね…」
「私は10時にやるゴローちゃんを見られたら、それでいいよ」
「野口ゴロー?」
「おい。古いよ。私のは井の頭だよ」
「公園?」
「まあ、公園の休憩所みたいなとこでチェリオ飲んでたけどな」
「チェリオー!!」
「それはチェスト。刀語かよ」
「ちっ。なんでもアニメになってるのか…」
「ラノベ原作だけどな」
ふいに訪れる静寂。微妙な空気過ぎて間が持たない…。酒も切れた。何も入っていないコップに口をつける。それから神経質にテレビのチャンネルを何度も変えた。
「あ、ほら。赤いの白いので、アニメの主題歌をやってるよ。ざーんこーくなー。…って、あれ?」
メグミがまたものすごく嫌そうな顔をしていた。
「オタクだからって、みんながエヴァ好きとは思うなよ」
「そうなの?」
「ありゃ親の世代のだからな。もう古典の世界だよ。私にはなんもわからん」
「そうなんだ…」
空気がさらに重くなった。重すぎる。耐えられない。事故って艦内に水が噴き出している潜水艦を背景に「圧壊!」って叫んでしまいそうだ。
メグミが着ている自分の服をつまんで言う。
「そろそろ、これ着替えて良い?」
「…うん。なんかわがまま言ってごめん…」
「ええよ」
コタツを出て自分の部屋に向かうメグミを目で追いかける。
あー、私何やってるんだろうな…。いろいろな想いがぐるぐると駆け巡ると、酔いもぐるぐると巡ってしまった。
もう、寝るか。寝てしまえ。明日の私にみんな丸投げだ。
離れがたいコタツを抜け出して、自分の部屋に向かう。
「メグミ、ごめん。私もう寝るから…」
扉が開いてた。
着替えている途中のメグミがいた。
シャツは前が全部開かれていて、白い胸元とお腹ががっつり見えている。下はパンツだけ。そっか、黒か…。すらりとした生足が目に刺さる。少し乱れた髪が、すごくセクシーな雰囲気を醸し出していた。
思わずメグミの「あ」と言ってる目と見つめ合ってしまう。メグミが私にうふふと微笑んだ。
「この春川メグミには、何も隠すところはありませんぞ」
「いや、隠しなって。あ、ちょっと。なんで近づくの。ちょっと。こら。近いよ」
「さっきの仕返し」
迫ってくるメグミに思わず後ずさりした。その拍子に床まで崩れてた同人誌を踏んずけてしまい、尻もちをついた。メグミが私に手を差し出す。
「大丈夫?」
「いや…、平気だけど…」
「チカにやさしくする方法がわからなくてさ」
「え? ひあ?」
「ほら。首に手をまわして」
メグミが私を抱きかかえる。よいしょという感じでそのまま立ち上がる。私はいわゆるお姫様だっこをされていた。
「この私がペンタブしか握っていない女だと思うなよ。紙の本がたっぷり入った段ボールで鍛えてんだ」
「そ、そうなんだ…」
メグミの顔を見上げる。万物不変、男女問わずのかっこよさが、そこにはあった。顎のライン、きれいだな…。目元も…、あれ目。目だよ。目がぐるぐるまわってる。あああーっ! 酔ってるなこいつ。めちゃくちゃ酔ってる。そうなんだよ。メグミは顔に出ないんだよな…。
私のベッドの前まで来た。私はゆっくりとそこに降ろされて布団をバサッとかけられて寝かされる。
「これでいい?」
何がいいのかわからないので、答えるのに迷っていたら、さらに追い打ちをかけられた。
「もっとしたほうがいい?」
「ううん、ううん。もう大丈夫。大丈夫だから! メグミも寝たほうがいいよ。うん、そうしなよ」
「そだね。そうするよ」
メグミが離れていく。少し安心する。酔っぱらいめ…。めちゃドキドキするな…。
「ねえ、チカ」
「ひぁ。え、はい、なんでしょう?」
「やさしくしたいよ。私。チカは私と同じだから」
「そ、そうだね。やさしくされているよ。ちょっとドキドキしちゃったけど、やさしいよ。うん、やさしい」
「そっか。よかった…」
なんなん。なんなんあいつ…。ちょっと顔赤らめていたよ…。どういうことなん…。どうなってんの…。
それからずっとベッドでゴロゴロと転がっていた。気がついたら初日の出の薄い日差しが私を照らしていた。布団を頭までかぶり、少しだけ寝てどうにか昼前には起きだした。
居間に行くとコタツに入っているメグミが見えた。そのぽやぽやとした姿を見て、「あ、こいつも寝られなくなったんだ」と悟った。お互いそれを隠すように、新年のあいさつをする。
「あけましておめでとうございます」
「今年もよろしくお願いします」
くすくすと笑った。
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