第26話 生き残りが……イダ!
雲海。その場所は雲の上まで突き出た山頂にあった。
何者にも辿り着く事が出来ず、生命が活動するには余りにも過酷な環境。
しかし、そこには一人の女が居た。
正座をしたまま墓標の前に座って眼を閉じている。
「やはり、ここに居たか。カナタ」
「バルバトス様」
ニールが帰る数年前に女――カナタの元を現れたバルバトスは平然と死の環境に適応していた。
「力を貸してくれぬか?」
「私は私の役割を放棄しました。その件に関しては閣下も同意の上です」
「それも、閣下の御身が世界に存在しての事。下等な者達を従えてはいるが……やはり確実な手を打ちたいのだ」
「それでは私と戦いますか?」
チリ……と女は背を向けたまま戦意を発する。
「消耗をする気はない。互いにとって不利益であろう?」
「私を動かしたいのなら、それ相応の理由が必要です」
「……永久にアリカの死を嘆くつもりか?」
「永久ではありません。この身が朽ちる時が終わる時なのです」
頑なに己の意思を曲げないカナタにバルバトスは諦める様に嘆息を吐く。
「実に勿体無き事よ。鋭き刃を持とうともその鞘から解き放たれる事はないとは」
「……いくら刃を研ぎ澄まそうとも手が届く者を護れなければ意味はない。ソレを強く知りました」
「そうか。また来る」
そして、バルバトスはカナタの元を去った。
日がゆっくりと地平線に消える。
変わらないオレンジ色の光と、空に浮かび上がる無数の惑星は、この星から見る夜空だった。
「……事態は何も好転せんか」
打てる手は尽くしたが、ついに夜を迎えてしまった。オルセルは決断をしなければならなかった。
「各員に告げる」
今も尚、慌ただしく動き回る部下達にオルセルは言葉を飛ばす。
「よくやってくれた。本日はもういい。業務は終わりだ。各々の大切な者の所へ帰るといい」
『ドラゴン』が復活すると言ってもすぐさま皆殺しされるわけではない。そうであれば、支配していた時にそうなっていたハズだ。
「……これが私の限界だな」
明日……世界は当時の支配者――『ドラゴン』の下へ屈するだろう。
惑星直列当日。既に辺りは薄暗く成り始めて星の半分は夜になる。
ミルドル王都でひっそりと脱出の時を待つジーク他、生存者達は交代で見張りを立てていた。
「……アイツら何やってんだ?」
見張りについていたジークは、松明を持ち、建物を調べて武器を通りに投げ捨てている“狂信者”達の様子を覗いていた。
「……狂信者ね。相変わらず行動原理が解らないわ」
ケルカ達が隠れている意味。それは、狂信者から見つからない様にするためだとジークは説明を受けていた。
なんでも奴らは生存者を見つけては、殺し回っているらしい。思考回路がぶっ飛んでやがる。
「高温の外気でも自由に動き回っている所を見ると、それなりのスキル持ちが居る見たいね」
狂信者達は通りにばら蒔いた武器をハンマーで砕いていた。
「……理解出来ないですね……」
「だから“狂信者”なのよ」
何を信じているんだか。あそこまで盲目的に自我を捨てて動くのはヒトではなく虫に近い。
ああは成りたくないとジークは心から思った。
「よし! 『接続』が完了した! 全員、まとめては無理だから一人づつだ! まずはタリアから――」
「無事に脱出出来そうね」
「そうですね」
こんな所に居ても百害あって一利なし。あの塔は絶体にヤバいと思うけど……どうしようもないのでパス。世界の事は『世界安定教会』にお任せしよう。て言うか、それが仕事だろ、アイツら。
「ん?」
遠巻きに見える狂信者がこちらを指差していた。すると、周囲の狂信者達は一斉に走ってくる。
「ヤバい……バレたぞ!」
ジークは全員に向かって叫ぶ。
「!? おい! 見張りが何かやったのか!?」
「何もやってねぇよ!」
ヘマをやらかしたのではないかと、他の生存者がジークを見る。
「私も見てたけど、こちらの落ち度は無いわ」
ケルカも同じ様に見張りには立ち会ったので、こちらを察知される事はなかったハズだ。
「感知系のスキルか!? 今までは隠れきれてたのに、なんで今さら……」
「とにかく! 急いで!」
しかし、移動系のスキルを持つ狂信者が居たのか、即座に扉が叩かれ、窓が割れる。
「くっ!」
悲鳴と焦りが場を支配する。窓は小さな換気用なのでヒトが入るのは不可能。そのため、狂信者は扉を壊そうと全力を出していた。
「俺の『硬質』で何とか保たせる!」
扉の前に棚などを倒し、別の生存者が『硬質』のスキルを発動させて強固に固める。
《ドラゴンを殺せ》
「やべぇ……」
レバンの時と同じ気配を感じ取った瞬間、扉が倒した棚を吹き飛ばすように破壊された。
「生き残りが……イダ!」
鱗に覆われた腕。蛇のように細い瞳。鋭い牙を持つ狂信者の大男がジーク達を見る。
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