第21話 レバンと【微塵】ギルム

「おいおい、もう嗅ぎ付けやがったか」


 ギルムは、塩を狙いにレバンが現れたと背負っていた荷物を降ろす。


「……ジィィク!! あのガキはどこだぁ!?」


 まるで怒りに支配されているかのようにレバンは叫んだ。その声量にビリビリと大気が震える。


「止めとけよ、レバン。アイツと対面したお前なら解るだろ? ニールには絶対に勝てないって」


 無茶苦茶で、やること全部遊び感覚なドラゴンガール。今は、知り合いと話をしていると思うので水は差さないようにさせる。


「黙れ……いいからここに呼べぇ!!」

「うるせぇな」


 傍若無人なレバンに対してギルムが前に出る。


「お嬢ちゃんはここには居ねぇ。居たとしてもお前の様なヤツに引き会わせる義理はない」

「……下等生物は退いてろ」


 退く気の無いレバンにギルムは一度、やれやれ、と嘆息を吐くと拳を前に突き出した。

 直接当てるには全く持って届かないが、それはギルムの手加減の証である。


「ゴホォ!?」


 距離を置いても伝わる“震動”を受けて、レバンは吐血する。


 『震動』。それがギルムのスキルである。彼は常にあらゆる物質は欠点だらけだと感じている。適切な震動を当てれば、建物や地面、水や火と言った現象まで本来の形を崩す。無論、生物も例外ではない。


 ギルムはその能力を使い、道具を無しにあらゆる鉱石を採掘。漁にも使用している。

 遺跡街では【微塵】と呼ばれ、手を出してはならない一人として数えられていた。


「ガハァ! ゴボォ!」


 体内をシェイクされたに等しい衝撃を受けたレバンは、大丈夫かと思うほどの血を吐き出す。


「ギルムさん……手加減しました?」

「一応はな。あんなにダメージを受けるとは思わなかった」


 ギルムも、やり過ぎたかなぁ、とちょっとだけ申し訳なくレバンを見る。


「ガハフッ! クックック――」


 すると吐血は止まり、レバンは笑い出す。


「ダメージを受ければ受けるほど……俺とお前らとの生物としての差は……開いて行く!」


 と、レバンは弾ける様にギルムとジークへ駆けてくる。まるで狂った様な異常性を感じさせた。

 ビリビリとした圧さえも放つレバンにギルムは本能が危機を警告する。


「ジーク! 下がってろ!」


 ギルムは戦うスキルを持たないジークを庇うように前に出るとレバンを迎え討つ。


「ガァァァ!!」


 レバンが獣のように腕を振り下ろす。『見切り』のスキルを持つ彼からすればあまりにもお粗末な攻撃だ。

 人よりも小柄な『ドワーフ』は的が小さい。ギルムは少し沈みつつ、身を反らしてレバンの攻撃をかわすと、その右頬にフックを入れる。


「ぬん!」


 そして、もう片方の拳をレバンに直接打ち込むと『震動』も乗せて威力を増加。側面の岩壁に叩きつける。


「……死しました?」


 激突した岩壁にレバンを中心に大きなヒビが走る。相当な威力を与えた様子だった。


「一応は手加減した。それでも全治二ヶ月だけどな」

「エグい……」


 まぁ、こうなることは目に見えてた。ギルムの戦闘力はジークの師であるガイナンに匹敵する。生物では内蔵をぐちゃぐちゃにされて終わりだ。


「ん?」


 すると、ギルムは自分の拳に痛みを感じる。見ると、少しだけ皮膚が削れる様に裂けていた。


「装飾品でも着けてやがったか?」

「……クックック……クッハハハハ!!」


 ドバドバと口から血を垂らすレバンは高らかに笑う。


「こんなモンかよ……」

「あ?」

「【微塵】のギルム……生物としての限界だよなぁ! 今の俺にはお前らが羽虫に見えるぜ!」

「馬鹿みてぇに血を吐いて何言ってんだ? お前」


 ジークはレバンの発言を強がりの様にしか聞こえないが、ギルムは脅威を見るように冷や汗を掻いていた。


「クッガッガッガ!!」


 もはや笑い声かどうかも解らない声を上げるレバンは再びギルムへ殴りかかる。


「ぬう!」


 あまりにも単調。ギルムは容易くかわすと追加の震動を打ち込む。しかし、


「ガッガッガ!! ぎがねえよ!」


 先ほどと同じ威力に耐えたレバンは、ギロリ、と蛇のように細い瞳を向け、牙の生えた口で告げる。

 本能の危機。あまりにも生物としての格差から放たれる威圧にギルムの身体は一瞬だけ停止した。


「ガァ!」


 レバンはギルムの身体を持ち上げると、そのまま地面に叩きつける。

 それは、遥か高所から落ちるのと同等の衝撃をギルムに与え、負荷のかかった内蔵や骨を全て破壊した。


「ぐぉぉ……」

「ギルムさん!」


 致命傷を受けたギルムは力尽きるように意識を失う。


「わかっただろおぉ? とっとと……あのガキを呼べぇ!!」


 レバンはジークに向かって叫ぶ。






「どうやら彼の適合率は中々に高い様子ですねぇ」


 レバンに薬を渡した“狂信者”は彼と同じ砂上船に乗っていた。

 薬は個体差があるものの、強く効果を出すには意思が必要で今回で証明された。

 それは正と負、でもどちらでも構わない。何かを成すと言う強い意志が薬を覚醒させる。


「これが……新しい世界の人! そして、我らが支配者による選民!」


 その高らかに笑う“狂信者”を見張るようにマストの上に座る“執行官”第六位【死人】が居た。


「……戦力が足りない……か」


 遥か上空に薄っすらと浮かぶ星の一つへ視線を移すと告げる様に口にする。

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