第22話 狂竜

「なるほどなぁ。長寿で知識の深い『長耳族エルフ』が世界の主導を取ったか」

『はい……その後は……出生率の低下によって、世界の舵取りは……『世界安定教会』に一任しております……』

「ぷっ! なんだその頭悪そうな組織名は!」


 ニールはけらけらと笑う。


『あらゆる種族の……混合組織です……人が必ず一つは所有する『スキル』の保全……ソレの査定と……認定を……十二人の執行官と呼ばれる実力者が……執り行っております』

「スキルか……少し気になった事があるんだが、お前の意見を聞きたい」

『この身で役に立つのなら……』

「例えば、本来待つスキルの上から別のスキルが重なるって場合はあるのか?」

『……二つ以上のスキルを持つ者は……存在している様です……』

「いや、そうじゃない。簡単に言えば割り込みみたいなモノだ」

『意図を……お聞きしても?』

「知り合いに【竜殺し】をスキルに持つヤツがいる」

『【竜殺し】を……スキルで?』

「変だろ? アレは元々、ただの概念でステータスじゃない。しかし、確かに聖剣バルムンクは召喚してるんだよ」

『……申し訳ありません……解りかねる話題です』

「そっか。しょうがない。この件は“ドクター”に話してみるよ」


 聞きたい事も無くなって来たので、ニールはジークとギルムの元へ戻る為に魔力を纏う。


『ファブニール様……』

「なにー?」

『もし……世界に『ドラゴン』が復活した時……貴女様はどちらにつくおつもりで?』

「んー、そうだなぁ」


 ニールは少し考える素振りをするが、ふふん、と笑う。


「我は英雄殿と共にいる。まぁ、英雄殿次第だな」


 そう言ってニールは去っていく。


『……貴女は……本当に変わらない……』


 『ドラゴン』の中で誰よりも【竜殺し】を知ろうとした。それは端からみれば好きな異性を追いかける女の子だったのだ。


『貴女様と英雄様は……明日をどの様に御迎えなされるのか……』






 明らかにおかしい。

 レバンの実力ではギルムさんには触れることもなく終わる。スキルの相性もあるが、何よりも、実力が違い過ぎるのだ。


「とっとと……ガキを呼べぇ!! ぶっ殺すぞ!」


 凄まじい威圧。何かを叫ぶ度に大気が揺れる。しかし、なんだ? 前よりも……恐くない?


「聞いてんのか? 無能のクセに無視してんじゃねぇぇ!」


 と、いつの間にかレバンが眼前に拳を振り下ろしていた。やべぇ!

 ジークは側面に動いて避ける。しかし、レバンの動きも速く、からぶった身体を高速で切り返すとジークの顔面を砕く勢いの拳で殴り付けた。


「お前には散々、殴られてるからな!」


 ジークに取ってレバンの動きは見慣れたモノだった。身体を倒す様にその拳もかわし、レバンは岩壁を殴り付ける。

 ザマァ! と笑うジークはレバンの自爆を予想したが……


「――おいおい!」


 岩壁はレバンの攻撃で大きくヒビ割れた。尋常でない威力と衝撃に地面も僅かに揺れる。


「ハァァァア!! 生意気に……避けてんじゃねぇよ!」

「無理言うんじゃねぇ!」


 当たったら死ぬ。レバンの膂力は明らかに異常だ。加えて拳には鱗のようなモノが出現している。


「――鱗?」

「カァァ!!」

「! やべ――」


 レバンの変異に気を取られ、その拳を避けられない。岩壁を砕く一撃。咄嗟に肘を立ててガードするが、骨折は覚悟しなければならない。


「――――」


 直撃。身体から浮く程の威力に思わず後退する。


「元から……お前は俺には勝てねぇだろうが! 黙って死んどけや! 下等生物がァ!」

「――――レバン……お前」


 その一撃を受けてジークは驚いていた。


「なんか……弱くなったか?」

「アァ!?」


 レバンの攻撃は明らかに即死級だった。ギルムさんは叩きつけられただけで再起不能にさせられているし、見立ては間違い無いだろう。


「なんか……いつもより効かないぞ?」


 しかし、先程の一撃はまるで威力が乗っていなかった。いつも殴られていた力の半分程。強いて言えば、ガードをしなくても耐えられそうだ。


「強がってんじゃねぇよォ!」


 再びレバンが殴りかかってくる。荒々しく、力と耐久力に任せた雑な動作は、散々対戦してきたジークからすれば簡単にカウンターを取れる。


「グギィ!?」


 拳を避けつつ、レバンの顔面にジークの拳がヒット。レバンは思わず怯む。


「お、初めて当たった」


 いつものレバンなら攻撃の間に余裕を持たせ、スキル『見切り』によってジークの攻撃など掠りもしない。


「なん……だ? 無能……テメェ……何しやがった!?」

「え? ただのクロスカウンター」


 レバンからすれば、攻撃を避けられた事よりも、ジークの拳によるダメージがギルムに殴られた時よりも効く事の方が疑問だった。しかも、


「んだ!? クゾ……治りが遅せぇ!?」


 血が止まらない。まるで生身を殴られたかのように治癒が進まなかった。


「レバン……お前、なんの薬やってんだ? いつもより弱いぞ?」


 弱い。その言葉にレバンは再び怒りの感情を宿す。更にソレを取るに足らない格下のジークから言われたモノだから、感情は最高潮に。


「殺す……殺す殺す殺す殺す殺す!! ゴロズ!!」


 レバンが感情のままに変異する。

 ビギビキと両腕が鱗に覆われ、瞳は更に鋭い蛇目へ代わり赤く充血。歯は鋭い牙となり、元の姿からかけ離れて行く。


「なんだろな……全然恐くないな……」


 全てを殺さんとする程の殺意。ソレを向けられるジークであったが、あまり恐怖は感じなかった。

《ドラゴンを殺せ》


「――は?」


 ニールと初めて戦った時の声が聞こえる。


《ドラゴンを殺せ》

「いやいや……アイツは人間だ」

《ドラゴンを殺せ》

「だからぁ」

「独り言を……ぶつぶつ言ってんじゃねぇぇぇ!!」


 異形のレバンが吠える。その瞬間、


《ドラゴンを殺せ》

「うぉ!?」


 唐突に【竜殺し】が発動し、ジークの身体は漆黒の鎧で覆われた。

 眼前に完全な刀身を持つ聖剣バルムンクが現れる。

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