第19話 歪み始める世界

「やっぱり『飛行』のスキルを持つヤツが居ると楽だな」


 ギルムとジークは『浮上岩山』に上陸。ニールに上からロープを垂らして貰って例年よりは早くに採掘に入る事が出来た。


「アダマントにミスリル。貴重鉱石のオンパレードだな!」


 船の積載も考えて、比重の重い鉱石は大量には積めない。狙いどころは少量でも高価な鉱石だ。


「ミスリルの価値は今年上がってましたよ。『剣聖』シュトラウドがスポンサーやってますし」

「悪くないチョイスだな。お嬢ちゃんのおかげで普段は丸1日かける登頂も一時間で済んだ事もデカイ」


 ニールのおかげで本来の日程よりも相当早く作業に入れている。去年の今ごろは、まだ侵入口を探している頃だろう。


「ジーク。お嬢ちゃんを手離すなよ?! ありゃ類い希に見る人材だ! 引く手数多だろうぜ」

「まぁ……オレに決定権は無いんですけどね」


 今の状況をアイツがどう感じているのかはわからない。楽しんでいるのか、満足しているのか。なんにせよ。


「アイツも気が済んだら勝手に消えると思いますよ」


 その時、上空から『浮上岩山』全体を鳥瞰したニールが帰還する。その手には白い塊を握っていた。


「おおい。岩塩を見つけたぞ。適当に昼は砂魚でも釣ってコレ振って食おうぜ。我が焼く」


 ニールは手に持つ岩塩を人差し指でなぞると、先についた塩を舐めて、しょっぺー、と舌を出す。


「ニール! お前! ソレどこで見つけた!?」

「お、おお? ど、どうした?」


 唐突に詰め寄ってきたジークにニールは思わず引いた。


「岩塩はどこにあった!?」

「え、えっと……頂上付近の窪みにな。貯まってる感じだったぞ?」

「……なんて事だ」


 ギルムもわなわなと震える。


「ニール! 今すぐ行くぞ! 案内してくれ!」

「いや、待て! 落ち着けよ! 登るのは無理だ! 空からじゃないと侵入出来ない所にある!」

「それで今まで見つからなかったのか!」

「『飛行』スキル持ちはサンドロスに来たがらないですからね」


 乾燥と暑い日差しに加えて砂嵐の多いサンドロスの空を飛ぶのは伝令くらいだ。


「な、なんだ? 貴様ら。一体何がどうなってる?」

「この辺りでは塩や胡椒なんかの調味料は特に貴重なんだ」


 サンドロスでは他所から持って転売するだけでも相当な儲けになる。調味料専門の行商人も成り立つ程だ。


「価値は『浮上岩山』の中でも一、二位を争う!」

「ふーん」

「今日は塩を取る! 意義はあるか?!」

「ないです! ニール、何とかロープを垂らせないか?」

「もー、めんどいから我が全部ほじくってくるよ」

「おお!」

「他のヤツにばれない様にしろよ! オレらで総取りだ!」


 ニールは、ぽいっ、と手に持ってる岩塩をジークに投げて渡すと、変わりに大きな袋を渡された。






 『浮上岩山』に向かう別口の大型砂上船かクラーケンに教われた。

 ニールの威嚇によって逃亡した個体であり、逃走経路に見つけた砂上船に狙いを定めたのである。


「くそ! 何でこんなところにクラーケンが居るんだよ!」

「索敵持ちは何やってたんだ!?」


 船体に纏わりつく様な触腕を乗船してる者達は引き剥がそうと奮戦していた。しかし、船体は大きく傾き出す。


「――――」


 その時、船室にいたレバンが甲板に出てくる。怒号と戦闘音が入り交じる戦場の様な空間で散歩するように歩く。


「! レバン! 避けろぉ!」


 すると、甲板へ振り下ろされる触腕がレバンに影を作る。


「ハハァァァ――」


 レバンが腕を降った。すると、触腕は鋭利な断面を見せて切り飛ばされ、先端が甲板を跳ねる。


「!?」


 戦う者全員がソレに驚愕する。レバンの腕には、パキパキ、と鱗が現れ、瞳は蛇の様に細い。


「ガァァ!!」


 その場でレバンが声を発した。しかし、ソレはおよそ人の出す様なモノではなく、本能を刺激する様な叫び。

 すると、船体を傾けるクラーケンの触腕が止まる。次の間に、逃げる様に砂中へ引っ込むと諦めた様に去って行った。


「スゲェぜ! レバン!」

「どうしたんだよ、お前!」

「何かスキルを隠し持ってたのかぁ?」


 明らかにレバンの活躍でクラーケンを撃退した面々は彼を褒め称える。


「これが……あのガキの見ている世界か」


 誰も俺には勝てない。

 そう思わせる程に身体の内側から溢れる力を自覚しレバンは高らかに笑った。






「こんなもんで良い?」


 何回か往復し、頂上付近から塩を袋に積めて持ってきたニールは二人の前に積み上げる。


「うはは! 結構あるな」

「ガッハ! 半年は遊んで暮らせるぜぇ!」


 塩一つで大袈裟なヤツらだなぁ。とニールは黄金を目にした様に喜ぶ二人に嘆息を吐きつつも昔を思い出す。

 初めて人と関わったのは困っていた所を助けた事だった。

 やはり、自分が作り出した他人の笑顔や喜びと言うのはいつになっても良いモノだ。


「よし、船に運んで今日は一旦帰るか!」

「他の奴に見つかると絶対に奪いに来ますからね!」

「世紀末かよ」


 その時、『浮上岩山』が揺れた。


「――ん?」

「別のヤツらも来たな。今のはアンカーを岩壁に打ち込んだんだろう」


 クラーケンはニールによって排されたので、戻って来るまではいくらでも侵入を許すだろう。


「とっとと引き上げるか」

「ニール、どうした?」


 塩を抱えるギルムとジーク。三人で運んでも何回か往復の必要があるので、一目につく前にさっさと行動に移したい。

 動きを止めるニールにジークは注目する。


「――ジーク、悪りぃ。ちょっと知り合いに会ってくる」

「それは構わないけど……」


 色々とやってくれた手前、優先する事があるなら構わない。


 ジークの言葉に、悪いな、と申し訳なさそうに手を立てるとニールは翼を開いて飛行して行った。


「……アイツの知り合いって……誰だ?」

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