第9話 翼を持つ一族
「バルバトス様」
バルバトスは夜空を見上げていた。その傍らには顔にタトゥーを入れ、片眼を閉じた女が膝を着いて声をかける。
「ミルドル王国が我々の要求を拒否しました」
「幾千回と四季が過ぎ去り『竜殺し』と同様にワシの存在さえも侮るとは……屈辱の極みである」
支配者の支配者たる我々がどの様な存在であったか、地を這う生物どもに思い出させなければならない。
「ミルドルを焼く。閣下の頭上に国を創るなど万死に値する」
「国の狂信者はどの様に動かしましょう?」
「お前達の価値は夜を飛ぶ光虫にさえも劣る。共に国と死ぬ事こそ価値の証明と知れ」
「我らの望む結末です」
バサッ、とバルバトスは翼を開くとミルドル王国へ飛翔して行った。
砂漠の街において、娯楽はそう多くない。
夜に機能する官能街は人や値段を選び、その分トラブルも多い。
その点、賭け仕合は見る方も出場する方も白熱出来る催しとして機能していた。
『あらゆる者が流れ、去っていくこのサンドロスにおいて、今宵も無謀なヤツらが集合だぁ!』
スキル『音流し』を持つ司会者は自らの声をざわめく観客達に届けていた。
『本日は第一仕合から見逃せないぞ! 今、最も勢いのある男ぉ! レバン!』
取り巻きの中からコートを脱ぎ捨てて現れたレバンは身体を鍛えたストライカーである。自らの持つスキル『見切り』も相まって、昼は用心棒をしている。
「あの野郎……“グローブ”着けてやがる」
ジークは観客の波に混ざり、仕合会場に立つレバンが手袋をしてる事に憤慨する。
『そして! 皆も注目していると思うが! なんと対戦者は20にも満たない少女! 【再生】のファブニールだぁ!』
司会者は対戦者となるニールが立つべき場所を見るがそこに彼女は居ない。
『ん? あれ? ニール選手? 来ていますかー?』
「なんだ? こんなちっちゃい所で戦うのか?」
声は頭上。一同が見上げると翼を生やし、見下ろす様に滞空していたニールが仕合の場に降りて来る。
『おぉっと! これは非凡な登場だぁ! 皆さん、この白髪の美少女が今宵の対戦者です! ですが、飛行スキルは仕合では禁止ですよ!』
「ほう、貴様は中々やるな。声を遠方まで届かせる魔法を使えるヤツはそう多くはないぞ」
『なんか、褒められちゃいましたよ! この余裕、期待できそうだぁ!』
場が笑い声で包まれる。明らかにニールは侮られているのがわかる嘲笑だ。
『可愛いな、貴様ら』
と、ニールが司会者と同じように声を届かせた事で驚きの声が上がる。
『結構結構。好きなだけ笑ってくれて構わない。我は老害どもと違って貴様らが好きだからな。是非とも楽しんで行ってくれ』
『な、なんと! 【再生】のニール! 世界でも50と居ない多重スキル持ちだったのかぁ!?』
『スキル? ハハ。本当に可愛いな貴様達』
ザワザワとどよめく観客達の中で、唯一 事情を知るジークは額に手を当てていた。
「死人を出すなよ……」
『はは。オッケー』
『準備オッケーの様です!』
ジークからの声に答えたニールであったが、余興は終え仕合が始まる。
「おい、クソガキ」
「なんだ? クソガキ」
「全裸で土下座したら許してやるよ」
「え? 誰が、誰を許すって? そもそも全裸ってなんだよぉ。貴様らは服を着た文明人だろ? お前だけ思考回路はサルのままなのか?」
「……殺すっ!」
「はいはい。聞き飽きた聞き飽きた。もっと脳のキャパシティを使いなぁ。折角二足歩行してるんだから」
レバンの拳に力が入り、端から見ても本気の殺意がにじみ出る様を感じ取れた。
観客達は、あー死んだな彼女、と見ている中ジークだけは、素で返してるから煽りもクソもねぇな、とレバンの心情を察した。
『それでは、仕合開――』
開始の合図が言い終わるギリギリの瞬間、レバンはニールを殴り付けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます