第8話 クソガキ
乾きの強い砂漠の街では夜を照らす星の光りは隠れない。今宵の賭け仕合の場はいつも通りの賑わいを見せていた。
「お嬢ちゃん。本当にお前さんが出るのか?」
「ああそうだが。文句ある?」
受付の頭に傷のあるスキンヘッドの男はニールを見て怪訝そうな顔をする。
ニールの見た目は少女である。ゴツイ筋肉質な男達が殴り合う仕合の場には観客としても似つかわしくない。
「エントリーは自由のハズだ。何も問題ない」
ジークが横から補足するが男は、
「おい、ジーク。自分が勝てないからって焼きが回ったか? 明らかにオッズが片寄る仕合は運営側としても都合が悪い」
「それを言うならオレの時はどうなんだよ。いつもオッズは低いじゃねぇか」
「お前は大穴として夢を買うヤツがちらほらいるんだよ」
「……」
「魔法の類いは禁止。使うのはスキルだけだ。その条件でこのガキに何ができる? ヌードにもでもなって相手を誘惑すんのか?」
「いいか、コイツはオレと違って――」
「どけよ、無能」
その時、後ろからレバンが姿を現した。ジークは乱暴に押し退けられ、近くの藁束へ突っ込む。
「レバン……」
「ジョアス、このガキを出場させてくれや。俺の相手としてな」
「採算が取れねぇんだよ、レバン。勝っても殆んど賞金は出せねぇぞ」
「最近は無能ばかりボコッててマンネリしんてんだ。ここいらで生意気なクソガキに大人の教育をしてやろうと思ってな」
レバンの言葉にニールが反応する。
「え? クソガキって?」
「お前の事だよ」
「お前じゃなくて? 脳も肉体もキッズはお前だろ?」
ビキッと青筋を立てるレバン。
ニールはキョトンとしてレバンを見る。
ジークは、がさがさと藁の中から復帰。
「はぁ……わかったよ。おい、嬢ちゃん。名前を言いな」
折れた受付にニールは、やっとわかったか! と意気揚々と名を告げる。
「【再生】のファフニールだ」
「【再生】? ぶっは! なんの再生だよ!」
「? 再生は再生だろ? お前、どんどん知能後退してるぞ」
レバンの侮辱を全く意に返さず、ニールは当然の様に返す。その様に周りはクスクスと笑っていた。
「この……ガキ……今日は只じゃ済ませねぇ……」
「それはこっちのセリフだ、クソガキ」
更に油を注ぐ。
「価値観が違い過ぎて会話の中身が微妙に噛み合ってねぇな……」
双方の事情を知るジークは、ポツリとそう言った。
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