第7話 情けなくなんかない

「よぉ、ジーク」


 少し見通しの悪い路地を抜けた所でジークとニールは無法者アウトローのグループと遭遇した。

 数は五人。ジークにとっては見知った顔がある。


「レバン……」

「誰?」


 首をかしげるニールと敵意の眼を向けてくるジークを交互にレバンは見る。


「何だ? 無能にも女はいたのかよ。どこで拾ったんだ?」

「お前には関係ねぇ」

「あんまり生意気言うなよ。今夜手加減してやらねぇぞ?」

「誰も頼んでねぇよ」

「ハッ」


 と、ニールはレバンをじっと見て、


「なぁ、ジーク。コイツ、頭悪いな」

「ハァ!?」


 ニールの言葉にジークは思わず吹き出した。侮辱された当人は彼女を睨み付ける。


「生意気なガキだな。だが、身体は悪くない。おい、今夜相手しろよ」

「レバン、テメェは分別がねぇのか?」


 手を出そうとしたレバンをジークは止めに入った。すると、レバンは間を置かずにジークを殴り付ける。


「俺を遮るんじゃねぇよ。無能の分際でな」

「テメェ……」

「やるのか? 俺はお前の威勢と頑丈さだけは評価してる。俺が引き立つからな」


 ジークの拳に力が入る。ここで手を出すのは簡単だが……それだとコイツと同じだ。


「なんだ? こいよ。女の前で無様に這いつくばりたくねぇか! くっははは!」

「お前、頭悪すぎだろ」


 二回目のニールの言葉にレバンは笑い声を止めた。


「おい、二度は見逃さねぇぞ」

「いいよ、別に。相手をしてやる。今夜だったか? 我もお前と戦りたくなってきた所だ」


 ニールはレバンに対して気づかれない程に静かな怒りを宿していた。

 その様子を察したのか、レバンはニヤリと笑う。


「街の外れにある廃墟が今夜の舞台だ。逃げんなよ、ガキ。終わったら朝まで相手をしてやるよ」


 そう言い残して、レバンは取り巻きと歩いて行った。


「気持ち悪いヤツだな」


 去っていくレバンの背にニールは汚いものを見るような目で告げる。


「……」


 対してジークはただ拳を握りしめていた。

 手を出さない事でヤツと同類じゃ……違う。自分にそう言い訳しただけだ。例え殴りかかっても、かすり傷一つ負わせられなかっただろう。


「情けねぇ……」


 心底、何も出来ない自分が嫌になる。


「ふむ。あー、足がつっちまったー」


 するとニールは、わざとらしく足を押さえてうずくまる。

 そんな彼女をジークは、なにやってんだ? と怪訝そうな眼を向けた。


「これはダメだ。一人では歩けない。誰か手を貸してくれないかなー」

「自分で立て」


 そう行ってジークは歩き出す。どうせ立ち上がってついてくるに決まってる。


「……………………………………はぁ」


 一向に動く様子のないニールの元へ戻る。


「なんの真似だ?」

「動けないんだよぅ」

「嘘つけ。立たないなら置いていく。次は戻って来ないぞ」

「いや、貴様は戻ってくる」

「…………勝手に言ってろ」


 と、ジークはニールに背を向けて歩き出そうとするが――――


「…………はぁ、ほら」


 腰を下ろし彼女に背を貸すと、待ってましたと言わんばかりにニールは背負われた。


「こんなくだらない真似は二度とすんな」


 嘘なのはわかっている。しかし、見捨てられないのはジークの本心でもあった。


「貴様は情けなくなんかないよ」


 耳元でその様に言われて思わず立ち止まる。


「……うるせ」

「我はこうして助けてもらっている。貴様が居てくれたおかげだ」


 今まで一度も言われたことのない言葉は、弾かれ続けたジークの心に深く響き、思わず泣きそうになる。


「……夜は……お前に賭けるからな」

「じゃあ、今夜は豪遊しようぜ」


 いつもは一人。誰かと共に何かをすると言う事は久しぶりだった。

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