第3話 頂点生物

 ニールの姿は世間で言えば美少女の類いに当たる。

 地味なサイズの合わない男物の服を着ていたとしても、にじみ出るオーラと神秘性は通り過ぎる者、全てが振り向くだろう。

 ソレが――


「ぐぁは」

「ぐおぅ?!」


 漆黒の鎧を着たジークと殴り合っているのは異様な光景と言えた。


「アハハ!」

「この……クソガキ!」


 身長、体重、体格。どれをとってもジークはニールに勝る。しかし、彼女の膂力と殴った時の場にとどまる力は、少女のそれではない。


「どうなってんだ? お前は!」

「生物としての階層が違うのだよ!」


 鎧はニールに殴られる箇所が破壊されるが、瞬時に修復される。

 ジークの拳にニールは歯が欠け、頬が裂けるが次の間には巻き戻る様に再生する。


「ぜぇ……ぜぇ……」


 大きく互いを弾いて距離が空いた。先に息が上がったのはジークの方である。


「よし、ここいらでステップアップしようか」


 ニールの歯が牙に変わり、周囲の魔力が集まっていく。


 なんだ? 何か……これはやばい!


 咄嗟にバルムンクに手をかざして引き寄せる。しかし、その手に収まる前に――


「ガオオオオオ!!!」


 閃光がニールより放たれると、ジークはソレに呑み込まれ、街へ吹き飛ばされた。


 『竜の咆哮ドラゴンブレス』。

 それは自らの魔力を圧縮し放っただけ代物である。

 しかし、ドラゴンの魔力総量は、他の生物とはコップと湖に格が違う。

 故に、あらゆる物質、魔法障壁を魔力の質量だけで破壊出来るのだ。


「アッハハ。まぁ、本来の1割以下だ。いくら弱っていると言っても生きてるだろう?」


 ニールは“竜眼”にて、ジークの位置を見つけると、人の形を保ったままバサッと翼を形成する。






 遺跡街の夜は煌びやかに照らされており、夜を本業とする者達が活気づく時間帯でもある。

 無論、それらを取り仕切っているのは不法者たちである為、互いの縄張りへ異物が現れた際には敏感に反応する。


 ニールの放った『竜の咆哮』に吹き飛ばされたジークは夜の街の官能的な店へと落下した。


「……クソ……なんだありゃ……反則だろ」


 天井を破壊して室内へ落下したジークはその衝撃で少しだけ身体が痺れていた。


「何だ?! テメェは!」

「げ?!」


 店の元締めが部屋に入ってくる。その身体には大陸非合法組織『死の槍スピアトロット』の刺青があった。


 ここは『スピア』の店かよ!


「店を壊しやがって! 顔見せろ!」


 元締めの後から屈強な男物達が倒れているジークを取り押さえる。

 顔を見られると本格的にマズイ。逃走生活が始まってしまう。


《ドラゴンを殺せ》

「やべぇ……」

「やべぇのはお前だ! どこの手の者だ!? きっちりカタにはめてやる!」


 こちらの事情など理解できるハズの無い元締め達は、夜空を飛行し後ろに音もなく着地したニールには気づかない。


「やっほー」

「あ?」


 元締めはニールに軽く小突かれると、横に吹き飛ばされ、壁をぶち破って隣の部屋の壁にめり込む。


「何だ!? このガキ!」


 男達がニールへ殴りかかる。

 一人が彼女へ拳を直撃させるが、逆に男の拳が砕けた。


「ギャァ!?」

「ちゃんとカルシウム取ってるか? 骨弱すぎだろ」


 ニールは砕けた拳を押さえて悶える男にデコピンを喰らわして部屋の外へ吹き飛ばす。

 すると、最後の男は青竜刀を手に取り、ニールへ斬りつけた。


「へっ」


 首を飛ばしたと確信する男であるが、ニールの首は胴体とくっついたままである。

 変わりに青竜刀がポッキリ折れていた。


「ドラゴンの鱗一枚は千の戦士の命と等価だ。我の首が欲しいなら国の軍隊でも引っ張って来い」


 威圧。建物のみならず、外を歩いていた人々も失神させる程の圧をまともに受けた男は泡を吹いて倒れた。


 男達の攻撃に対してニールは全くの無防備だったが、掠り傷一つ負っていない。


「……」


 砕けた青竜刀の破片を肩から払うニール。ジークは比較対象が出来た事で改めて彼女の異常性を目の当たりにした。


「何でオレは生きてんだ?」


 これも【竜殺しスキル】のおかげなのだろうか。


「よし、それじゃ。第二ラウンド♪」

「ちょっと待――」


 腕を振りかぶるニールに静止をかけるが、彼女はお構いなしにジークを建物の外へ殴り飛ばす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る