第2話 スキル発動
スキル。
それは世界で誰しもが必ず一つは持ち合わせる、生まれついての能力である。
15才になったのを機に教会の神託を得て己のスキルを知る。
スキルは能力に応じて四段階のランクが定められている。
Cランク……日常的に使えるモノ。
Bランク……戦闘に使えるモノ。
Aランク……CとBの双方で使えるモノ。
Sランク……C、B、Aランクとは一線を画するモノ。
その判定を出しているのは『世界安定協会』であり、世界各所に渡り歩く十二人の執行官によって査定とスキル保持者の把握が行われている。
「凶報です、導師様」
“執行官”第二位【星読み】のオルセルは部下からの情報を教会のトップに話していた。
「当初は彗星だと思っていたのですが、軌道を変え砂漠地方サンドロスへ墜ちました」
「意思を持つ存在だったと?」
「はい。可能性としては……『ドラゴン』かと」
「……【時空師】に現地の確認をさせなさい」
「それが【時空師】とは、ここ七年間連絡が取れないのです」
「……勘の良い“狂信者”ならば既に動いているハズです。彼らの言葉が妄言では無いのなら――」
世界は滅んでしまう。
ファブニールの往来を察知したのは教会だけではなかった。
「……ようやく戻られたようですな。お嬢様」
夜空を見上げ、星を一周したファブニールを見逃さなかった初老の紳士は懐かしむようにそう口にする。
「バルバトス様。先程の彗星は……」
「“狂信者”を動かしなさい。ようやく、世界を元の形に戻す時が来たのです」
「はい!」
「それで、お前が『ドラゴン』だと?」
「そうだよ」
「嘘つけ!」
ジークは、取り敢えずニールに着るように自分の服を投げる。
「本当だってぇ」
「あのな、お前が本当に『ドラゴン』ならオレのスキルが反応してんだよ」
そもそも、今まで一度も発動したことがない【
「スキル? 魔法はないのか?」
「そんな高度な代物が使えるのは『
「ふーん。だいぶ衰退してるのな。それか意図的か……? 何にせよ老害どもが今すぐに起き上がる心配はなさそうだ」
「なに、ブツブツ言ってんだ?」
大きめのジークの服を着たニールは座ったまま会話を続ける。
「こっちの話。それより、貴様は名前を教えてくれないのか?」
「ジークだ。ジーク・フリード」
「ジークか……うん。おっけー覚えた。それじゃ」
ニールの眼が変わる。大きな瞳が細長い蛇のような眼へと――
「久しぶりにヤろうか」
「は?」
次の瞬間、ジークはニールに殴られた。
少女の力とは思えぬ程の威力をまともに受けて、壁をぶち破って外へ叩き出される。
いきなり何しやがる!? いや、死んだ! 間違いなく死んだ!
「クソ……オレの人生……こんな終わり方かよ……」
尋常ではない威力で吹き飛ばされて、外で仰向けに倒れたジークは、死に際だと痛みは何も感じないんだなぁ、と眼を閉じる。
「おーい。寝るなよ?」
と、ニールが覗き込んでいた。ジークは咄嗟に起き上がり、距離をとる。
「お、お前ぇ! いきなり何だ!? 人を殺しやがって!」
「まだ、ボケる年齢じゃないだろ? 貴様は生きてるぞ?」
「は? 何を――」
と、ジークは自らの身体を見る。家の壁を破壊する程の威力をまともに受けたにも関わらず、怪我一つ負っていない。
「どうなってんだ?」
「アッハハ。面白いヤツだよ、貴様は」
少女が嬉しそうに歩み寄る。
意味がわからん。理解が追い付かない少女の行動にジークは困惑しかない。
《ドラゴンを殺せ》
「今度はなんだ?!」
別の声が聞こえたと思ったら、今度はチリチリと身体の内側から何かが溢れるのを感じる。
「なんだ? おい、お前! 今度は何をした!?」
「何もしてないよ。ソレはお前のスキルとやらだろう?」
次の瞬間、ジークの姿は漆黒の鎧で覆われた。そして、刀身の存在する『
「えらく可愛くなったな。『英雄』殿♪」
かつてドラゴンを絶滅寸前にまで追い込んだ『竜殺しの英雄』が深夜の世界に顕現する。
「なんじゃこりゃあ!?」
ジークは初めて発動した【竜殺し】に困惑していた。
意図せず全身を鎧に覆われ、バルムンクも刀身が復活している。
《願いだ》
「誰だ!?」
《人々の願いだ》
「だから……誰だよ!?」
《ドラゴンを殺せ》
ジークはニールを見る。彼女はこちらがどの様に動くのかワクワクしながら待っている様だ。
「……そうだな」
《そうだ。ドラゴンを殺――》
「あいつをボコって壁を直させる!」
師匠の家の修繕しか今のジークの頭にはない。
ジークはバルムンクを持たずに通り過ぎ、パンッと掌と拳を一度合わせるとニールへ歩み寄る。
「使わないのか?」
目の前に来たジークをニールは見上げると指摘するように後ろにあるバルムンクを指差す。
「うるせぇ。壁を直せ」
「! アハハ。嫌だと言ったら?」
悪戯に笑う様子から、言う通りにするつもりは無いらしい。
「手加減しねぇぞ」
「よし、じゃあ再開な♪」
ジークとニールは同時に互いの顔面に拳を叩き込んだ。
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