SS.05:……誰だそれ?


「いやー、本当にびっくりしたよ。まさかあの女の子が大山くんの友達だったなんてね」


 大池官房長官の応援演説を見かけたその夜。

 浩介は谷口にLimeで連絡をとった。


「俺もびっくりですよ。まさかひなが探していた男の人が、谷口さんだったなんて」


 浩介も谷口も、お互い驚くばかりだった。


「ひなはあれからずっと谷口さんを探していたんですよ。どうしてすぐに立ち去ってしまったんですか?」


「ああ、一応勤務中だったからね。大池先生の応援演説前の警備の一環だったんだ。だから通常だったらあの場は素通りするんだけど、男3人組が見るからにワルそうだったからね」


「でもあっという間に3人をやっつけたらしいじゃないですか。谷口さん、空手の達人なんですか?」


「ははっ、空手は小さい時からやっていたけどね。ただやりすぎると過剰防衛になるし、加減が難しいんだよ」


「今日ひなが谷口さんを選挙カーの上で見つけて、すっごく喜んでいたんです。一度時間をつくってもらって、会ってやってもらえませんか? お礼を言いたいそうなんですよ」


 浩介は、なんとかひなを谷口に会わせたいと思った。

 谷口は25歳。

 JKと会うことに、抵抗とかあるかもしれないが……


「いやあ……実は自分もあれから気になってね。あのいもうとカフェに、非番の日に行ってみたんだ」


 ……抵抗はなかったようだ。


「それで注文を聞きに来てくれた女の子に一応聞いてみたんだよ。彼女の特徴を説明してね。そしたら『そんなスタッフはいないです』って言われてしまってね」


「ひなの特徴を、ですか? なんて聞いたんですか?」


「いやあ……天使のように清らかで儚げなツインテールで、食事はきっとサラダしか食べてなさそうで、トイレとか絶対に行きそうにない雰囲気の女の子って」


 ……誰だそれ?

 もはやアイドルですらねぇ。

 浩介はツッコみそうになった。


「っていうか巨乳の女の子って、ひなの一番の特徴を言えばよかったじゃないですか」


「そ、そんなこと言えるわけないよ。そんなこと言ったら、その女の子に『あなたは貧乳ですけど』って取られるかもしれないじゃないか」


 ……なるほど、一理ある。

 さすがは社会人、大人の対応だ。

 浩介は感心させられた。


(しかし谷口さんは、明らかにひなに好意的だな。やっぱりこれは、一度会わせるべきじゃないか? ひなが牛丼の超特盛を食べているところを、是非見せてやりたい)


 そんな邪悪な考えは置いといて、浩介はさらに続ける。


「ひなも俺と同じで受験生なので、基本的にはもう店のシフトには入らないらしいんですよ。なので一度段取りしますから、会ってやってもらえませんか? もしひなが2人で会うことに抵抗があるようだったら、ひょっとしたら俺も参加するかもしれませんけど」


「ああ、是非そうしてほしい。自分も彼女にできれば会ってみたいし。それに……多分女子高生と二人っきりとか、間が持たなくて困るよ」


 印象通り、谷口はシャイで真面目な社会人だった。

 浩介はまた連絡する約束をして、通話を終了した。


        ◆◆◆


「という訳で、谷口さんもひなに会いたいって言ってるんだ」


 週明けの月曜日。

 浩介達は昼休みに5人で一緒に弁当を食べていた。


 浩介は『谷口さんのことを知っている。駅前で不良に絡まれているところを助けてもらって、それから連絡先を交換した』と皆に話した。

 さすがに官房長官から直接お呼びがかかったことは、伏せておくべきだろう。


「世の中狭いね。でも浩介君、不良に絡まれた話なんて教えてくれなかったじゃない?」

 雪奈は不満そうだ。


「さすがにそれは言えないだろ? かっこ悪いよ」

 浩介は取り繕う。


「でもその人、元自衛官で今はあの大池官房長官のSPなんだよね? やっぱり格闘技とか、すっごく強そう」

 雪奈も感心している。


「その谷口さんて人は、25歳やったっけ? ちょっと年が離れてるなぁ……」


「でも後日カフェに、またひなちゃんを訪ねて来たんだよね? 僕はその谷口さんて人も、ひなちゃんのことが気になってるような気がするよ」


 葵と慎吾の感想だ。


「そうなんだよ。それに他のスタッフにひなのことを聞いた時、なんて聞いたと思う?」


「え? なんて聞いたの?」


「『天使のように清らかで儚げなツインテールで、食事はきっとサラダしか食べてなさそうで、トイレとか絶対に行きそうにない雰囲気の女の子』って聞いたそうだぞ」


「なにそれ?! アイドルじゃないんだから……」


 ひなは、顔を真赤にして下を向いてしまった。

 いつものヘラヘラモードはどこへやらだ。

 他の3人は「あははは」と笑っている。


「もう……そんな風に言われたら、会えないよ。実物見たら、幻滅されちゃう……」


 小柄なひなが、さらに小さくなってしまった。

 浩介は少なからず驚かされた。

 男に対してあれほど免疫があるひなが、下を向いてモジモジしている。

 これは……面白すぎる。


「それに……25歳ってことは、ひなより8つも上ってことだよね? 絶対子供扱いされちゃうよ」


「ひな、なに言ってるの? ひめさんの時に、年なんて関係ないって言ってたの、ひなじゃない」


「それはそうだけど……」


 雪奈のツッコミに、ひなもタジタジだ。


「とにかく向こうも会いたいって言ってるんだ。ひなも二人っきりだと、ツライだろ?」


「無理! なに話していいか、わかんないよ」


「じゃあ俺と……できれば雪奈も一緒に来てくれないか? ひなもその方がいいだろ?」


「うん、私はいいよ。谷口さんって人にも、会ってみたいし」


「ひなも……その方が助かるよ……」


 後は日程と場所だな……。

 浩介はペットボトルのお茶を飲みながら、頭を巡らせた。

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