No.49:受験生の追い込み
受験生にとって、月日が経つのは早い。
5月のゴールデンウィーク明けに全統模試があったので、その翌週末に葵と慎吾は京都へ日帰りで行ってきたそうだ。
葵のご両親にも挨拶ができたと、慎吾も葵も喜んでいた。
そしてその翌週。
俺たち5人となっちゃんは、学校の図書室で勉強をしていた。
全統模試の結果が返ってきていた。
俺は第一志望の東大理3でA判定。
雪奈は都内カソリック系の上賢大学が第一志望でB判定。
葵は京都の同命社大学でB判定。
慎吾は同じく同命社大学でD判定。
そしてひなは相模国立大学で……E判定。
「やっぱり厳しいんだね……」
慎吾が肩を落とす。
「大丈夫だって! 目標は高い方がいいんだよ!」
E判定のひなの方が、上を向いている。
「そうだ。まだ時間はあるぞ」
「うわー……やっぱり受験って大変なんですね。今のうちに遊んでおこうっと」
「何言ってるの、ナツ。勉強についていけないって、ボヤいてたくせに」
「そうやで、なっちゃん。1年のうちから頑張っといた方が、あとが楽や」
雪奈と葵にたしなめられ、「はぁぃ」と夏奈は小声で返事をしていた。
あと10か月すると卒業か……
その後、俺たちはどうなっていくんだろう。
遠くない未来に、俺は今から一抹の寂しさを感じていた。
学校の図書室と市内の図書館が、俺達のたまり場になった。
俺は医学書を読む機会が多くなった。
読めば読むほど 面白い。
俺は医学の世界に、のめり込んでいった。
夏休みのイベントは1つだけ。
俺となっちゃんの誕生日だ。
俺は7月30日
なっちゃんが7月28日。
雪奈の家で、合同の誕生日パーティーを開いてくれた。
なっちゃんからのプレゼントはペンケース。
雪奈からは、俺がリクエストしたPC用のマウスとパームレストだった。
「こんなのでいいの?」と雪奈は恐縮していたが。
俺からなっちゃんへのプレゼントは、雪奈のアドバイスに従ってなっちゃんの名前を刻印したリップクリームだ。
なっちゃんはとても喜んで、プレゼントを開けてすぐにリップをつけて見せてくれた。
淡いピンク色で、清楚ななっちゃんにとてもよく似合っていた。
夏休みに入っても、俺達は連日図書館に集まった。
目に見えてギアを上げていたのは、ひなだった。
ひなに気になる男性ができた。
「その人の隣に立っても、恥ずかしくない人になりたい」
どうやらそれが原動力のようだ。
ひなは高1・高2の教科書を常に図書館に持ってきていた。
遅れた分のおさらいが必要だからだ。
その教科書のページの角が丸くなり、厚みが増していく。
教科書の中に書き込みも多い。
日に日に使い込んでいるのがわかるのだ。
ひなは、いつものヘラヘラモードが出てこなくなった。
見た目も顔がやつれた気がするし、目の下にクマを作る日も多くなった。
「ひな、無理するなよ」
「大丈夫だよ。でもひなは頭が悪いから、他の人より倍の時間をかけないといけないんだ」
愚直な、ひならしい言葉だ。
皆ひなの体調を心配したが、「たくさん食べれば大丈夫だよ」とひなは笑っていた。
8月上旬の全統模試。
皆の志望校判定に変化がない中で、ひなだけがE判定からD判定に上がっていた。
秋に入っても、変わらず図書館に集まった。
たまに雪奈と2人で、俺の部屋で勉強するときもあった。
そして勉強が終わると、差し入れに持ってきてくれたものをオヤジと一緒に食べたりした。
ひめさんも頻繁に家に来るようになって、皆で夕食を共にすることもある。
オヤジとの付き合いも順調らしい。
この頃には、オヤジの足もすっかり良くなっていた。
10月末の模試の結果。
雪奈と葵がA判定に上げた。
慎吾もC判定、そしてひなもC判定にそれぞれ上げた。
努力は裏切らなかった。
特にひなの追い上げは、驚異的だった。
12月24日。
この日だけは、俺達は楽しむことにした。
クリスマスイブで、雪奈の誕生日。
リストランテ・ヴォーノに予約を入れた。
もちろんバースデーケーキの演出もだ。
俺たちは話し合って、プレゼントは用意しないことにした。
その代わり受験が終わったら、2人でどこか旅行へ行こうと約束した。
雪奈はもう両親から許可を得ているらしい。
「お母さんから、ちゃんと避妊しなさいって言われちゃった……」
赤面する雪奈は可愛かった。
個室でデザートまで食べ終えた俺達は、テーブル越しにキスをした。
年明けを自宅で普通に迎えた。
特に感慨も何もなかった。
初詣も行かないことにした。
2週間後に大学入学共通テストを控えている。
今年の冬は寒く、体調でも崩したら大変だからだ。
代わりにオヤジとひめさんが初詣に行って、合格祈願の御札を貰ってきてくれた。
ご利益があるといいのだが。
このまま全員志望校へ入れるといい。
雪奈も第一志望の大学に受かれば、時間によっては一緒に通学ができる。
俺はそんな普通の未来予想図を、頭の中で描いていた。
そう、あの日が来るまでは……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます