No.43:巨乳だしね


「でもさ、本当に律儀だよね。コースケのお父さん」


 ひなは自分で持ってきたオレンジジュースを飲みながら、そう言った。


「適当に言いくるめて、ヤッちゃうことだってできるのにさ。あ、怪我してるから無理か」


「怪我をしてなくても、それはやっちゃいかんだろ」


 俺は「妹お手製のミックスサンド」を頬張りながら、ひなをたしなめる。


「でもゆめさん、オヤジと3つしか違わないだろ? 自分の娘の相手としては、どうなんだろうな」


「あー、うちのママは大賛成。ていうか、コースケのお父さんっていう時点で、ものすごく信用してるから」


「いいのかよ、それ」


「私はお似合いだと思うなぁ。ひめさんと浩介君のお父さん」


「そーかな?」


「うん。何でも聞いてくれるし、受け止めてくれるじゃない」


 雪奈も賛成らしい。


 その時、店のドアベルがカランコロンとなった。


「あ、来た。お姉ちゃん、こっちこっち!」

 ひなが片手を上げる。


「なあに、ひな。面白いものが見られるっていうから来たけど……あれ? 雪奈ちゃんに浩介くんも。こんにちは」


 どうやらひなが呼んだらしい。


 ひめさんは車の鍵を手に持っている。

 この辺、車を停めるところがなかったと思うんだけど……


「こんにちは、ひめさん、駐車できましたか?」


「ええ、注射はできるわよ。看護師だからね」


「そうでしたね」


 ひめさんは平常運転だった。

 それからひめさんはひなの隣に座って、俺たちは4人で話し始めた。

 どうやらひなは、オヤジが来ていることは内緒にしているみたいだ。

 まあドッキリ的なやつだな。


「大山くん、お父様の具合はどう?」

 ひめさんは聞いてきた。


「ああ、元気そのものですよ。松葉杖の使い方が慣れないって言ってますけど」


「そうよね。でも……お食事とか、どうされてるの?」


「適当にやってますよ。テイクアウトだったり、冷凍食品だったり」


「もう……そんなんじゃあ体壊すよ。また今度私が何か持って行くね」

 雪奈の差し入れは、大助かりだ。


「えっと……私も……また差し入れ持って、お邪魔してもいいかな?」

 ひめさんは、モジモジしながら聞いてくる。


 そのとき奥から、ゆめさんが出てくるのが見えた。

 松葉杖の音も聞こえる。


「そういうことは、本人に言ってあげた方が喜ぶと思いますよ」


「えっ?」


 そう言って音がする方を振り返る。

 ひめさんは立ち上がって、目を大きく見開いた。


「大山さん! ど、どうして?」


「ひめ、大山さんはわざわざご挨拶に来られたのよ」


 ゆめさんは、ひめさんに座るように言った。

 そしてその隣に、オヤジに座るように勧めた。


「では私はちょっと仕事がありますので。ゆっくりしていって下さいね」


 そう言ってゆめさんは、また奥の方へ消えていった。


 コーナーソファーに、俺達5人は座った。

 俺、雪奈、ひな、ひめさん、オヤジの順番だ。

 ひめさんは、下を向いたままモジモジと固まったままだ。


「ひめさん」

 オヤジが語りかける。


「はい」


「今ね、お母様にご挨拶したところなんだよ」


「はい……」


「いやぁ、若いお母さんだね。ひめさんとひなちゃんにそっくりだ」


「よく言われます」


「それでね、ひめさん」


「はい」


「僕は今、足が悪いんですよ」


「?……はい」


「それで……外食でもする時に、ひめさんの車に乗せてもらえると助かるんです」


「え?」


「一緒に何か美味しいものでも、食べに行きませんか? ご馳走しますから」


「……」


「その、なんていうか……年の離れたお友達ってところから、始めてもらえると嬉しいです」


「……………………はぃ……」


「もーお姉ちゃん、泣かないのー」


 そういうひなも、目が潤んでいる。

 ひめさんは、ぽろぽろと大粒の涙をこぼしていた。


         ◆◆◆


「しかしなぁ……これでよかったのかな?」


「もちろん! これでよかったんだよ」


 俺と雪奈は店を出て、腕を組みながら二人で最寄の駅まで歩いて行く。

 俺はひめさんに、オヤジを家まで送ってもらうように頼んだ。

 まあ帰りに、二人でどこかに寄ってもらってもいいしな。

 ひなは、もう少しバイトのシフトが入っているらしい。


「でもあのひめさんの幸せそうな顔見た? なんかこっちまで嬉しくなっちゃった」


「まあ……そうだな。オヤジも幸せだろうな。あんなに若くて可愛い人から言い寄られるなんてな」


「巨乳だしね」


「最近雪奈、やけにソコにこだわるよな?」


「うん。浩介くんのお父さんだしね」


 どういう意味だ?

 真性なのは、オヤジの方だぞ。


「でもうまくいくといいなぁ……」


「まあそうだけど、案外ひめさんに愛想つかされるんじゃないのかな?」


「えー、そんなことないと思うけどなぁ」


「年の差が大きいだろ?」


「大きいからよかったんだよ。ひめさんの場合」


 そんな年の差カップルの話をしながら、俺達二人は駅に向かって歩いていた。

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