No.42:事務所にて


 春樹はゆめの後をついていった。

 小さな事務所のようなところへ案内されると、ひめに椅子に座るように勧められた。

 ゆめも春樹の向かい側に座る。


「わざわざお越し頂いてすいません」


「いえいえ、私もひめさんには大変お世話になっているので、一度ご挨拶をしたいと思いまして」


「あの子どうですか? ご迷惑をおかけしていませんか?」


「とんでもない。僕は今、足が悪いので最近食べ物を差し入れたりしてもらってるんです。ものすごく助かってます」


「それはよかったです。あの子、ちょっと変わってるところがありますでしょ?」


「そうでしょうかね。でも可愛いもんだと思います」


「ひめは最近、うちでは大山さんのことばかり話すんですよ」


「はは。そうなんですか?」


「話を聞いてくれて優しくて、とても素敵な方だって」


「それは言われ過ぎですよ」


「でも……ひめは離婚した父親に本当に懐いていたんですよ。でも結果こうなってしまって、子供の頃には本当に寂しい思いをさせていたんです」


「そうなんですね」


「その反動かもしれませんね。ひめは大山さんの包容力に惹かれたんだと思います」


「その……最近ひめさんは私の自宅に、ちょくちょく来てくれるんです」


「ええ、そう聞いてますよ。帰ってきてから、嬉しそうに話してくれます」


「えーと……ゆめさんは、その……それで構わないんでしょうか? 20歳過ぎのご自分の娘さんが、バツイチ子持ちの、40オーバーのオヤジのところに来るというのは……」


「私はかまわないですよ。だって、それを決めるのはひめ自身じゃないですか」


「それはそうかもしれませんが……」


「大山さんは、どうお考えですか?」


「……ひめさんのことを、ですか?」


「ええ」


「……正直持て余しているんです。ひめさんはとても素敵なお嬢さんだと思います。優しくて純情無垢で、可愛らしいお嬢さんです。ただ私自身、女性にモテたことがないので……それに年だって20以上違いますしね」


「あら、年は関係ないんじゃないのかしら?」


「いえ、そうは言ってもですね」


「むしろ年が近かったら、ひめは大山さんに惹かれなかったと思いますよ」


「……」


「もちろん父性を感じたこともあるでしょう。でもそのお人柄に惹かれたんじゃないでしょうかね」


「ただ……大事な娘さんですし、傷つけたくないんですよ」


「あら、それは仕方のないことなんじゃないですか? いろいろ努力したって、傷つく時は傷つきます。それは離婚歴のある我々の方がわかってることじゃないですか?」


「……いやあ、返す言葉がない」


「大山さん、あなたは本当に誠実な方ですね。親としては、安心してひめを任せることができます」


「……私自身も、どうするべきなのか分からないんですよ」


「そうなんですか?」


「なので……年の離れたお友達、そこから始めさせていただいてもかまいませんか?」


「はい。そうしてやって下さい。ゆっくり時間をかけていただいたほうが、ひめのためにもなると思います」


「わかりました。ではよろしくお願いします」


「はい、こちらこそよろしくお願いします。ちょっと変わった子ですが、まっすぐないい娘だと思っています。親の欲目かもしれませんが」


「いえ、本当に素敵な娘さんだと思ってます」


 ここへ来てよかった。

 春樹はゆめの笑顔を見て、心からそう思った。

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