No.41:オヤジの訪問先
それから数日後の4月6日。
聖クラーク高校新入生の入学式の日だ。
なっちゃんと美咲さんは、今日は学校へ行っている。
なっちゃんの聖クラーク制服の姿、きっと可愛いだろうな。
達也さんは、仕事で入学式には行けないらしい。
そりゃあ多忙を極めている最中だからな。
俺と雪奈は明日始業式だ。
今日は春休み最後の日。
俺たちは今、タクシーに乗って移動中だ。
「雪奈は行ったことあったんだっけか?」
後部座席で、俺の隣に座っている雪奈に聞いてみる。
「ううん、私もないの。場所は多分この辺だと思うんだけど……」
タクシーはもうしばらく走って、目的地に着いた。
「ああ、ここだ。着いたぞ、オヤジ」
「ん? ああ、本当だ。看板があるね」
助手席に座っていたオヤジがそう言った。
俺たち3人は、タクシーから降りた。
オヤジは今日、会社は有給を取ったらしい。
まだ松葉杖を使い慣れていないようだ。
目の前のお店には看板がかかっている。
『いもうとカフェ・きゅン』
オヤジがここへ行きたいと言い出した。
別に可愛い女の子たちと戯れたい、というわけではない。
ここに来たい理由は分かっていた。
その話を雪奈にすると、私も是非行ってみたいと言い出した。
オヤジは足が悪いので、3人でタクシーに乗ることにした。
ドアを開けて中に入る。
カランコロンとドアベルが鳴った。
すると……
「おかえりなさい! パパ、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
聞き慣れた声が聞こえてくる。
ツインテールの巨乳ロリ。
ひなだ。
ひなにはこれぐらいの時間に、お店に行くことを伝えてあった。
ひなもバイトがてら、店に来ると言っていた。
ひなはタイト目のTシャツに、ホットパンツ。
多分本当に妹が家にいるとしたら、こんな感じなのか?
いつも通りTシャツの胸の部分がパッツンパッツンだが。
「普通の恰好なんだな。もっとメイド服みたいなものを着ているかと思ったぞ」
「あー、まあそういうイベントの日もあるけどね。普通はこんな感じだよ」
俺たちは席に案内された。
カフェの中はそれほど広くはなかった。
また平日の昼間ということもあって、客は俺たちだけだった。
それぞれのブースが簡易的に仕切られているが、閉鎖された空間というわけでもない。
俺たちは広めの席に案内された。
「これ一応メニューね。ごはん、食べてきたんだよね? 飲み物だけにする?」
ひなにはお昼を食べてから行くと伝えてあった。
「じゃあサンドイッチでももらおうかな。この『妹お手製のミックスサンド』1つと、あとは飲み物を頂こう」
オヤジがそう言って、各自飲み物を注文した。
俺とオヤジがアイスコーヒー、雪奈はアイスティーだ。
ちなみにサンドイッチは、大体厨房で働いている中年男性が作っているらしい。
そりゃまあそうだろうな。
ひなが注文を聞いて厨房の方へ戻ると、入れ違いで女性がやってきた。
「まあまあ、いらっしゃいませ。いつも娘たちがお世話になってます」
うわぁ、これはまた……ひなとひめさんと、そっくりな人が出てきた。
クリっとした愛らしいネコ目でポニーテール。
小柄だが自己主張の強い胸元。
ひなから聞いたが、とてもオヤジの3つ上とは思えない。
どう見たって30代半ばだろ?
「ひなとひめの母親の、山野ゆめといいます」
俺たち3人は立ち上がった。
雪奈は立つ必要なかったと思うけど。
「初めまして。ひなさんの同級生の大山浩介です」
「はい。ひなからよーく聞いてますよ。雪奈ちゃんの彼氏さんですね。それとひなのお勉強も見て頂いて、本当にありがとう。最近成績も少しずつ上がってきているみたいでね。本人もやる気になってるわ」
「いえ、それはひなが頑張っているからですよ」
次にオヤジが口を開く。
「初めまして。浩介の父親の大山春樹です。このとおり足を骨折してしまいまして……入院中はひめさんに、とても良くして頂きました」
「春樹さんですね。こちらこそひめがお世話になってます。ちょっと変わった子なので、ご迷惑をおかけしていませんか?」
「とんでもない。素敵なお嬢さんですよ」
オヤジがここへ来たいと言いだしたのは、ひめさんのお母さんにご挨拶をしたいからということだった。
ひなにはあらかじめ、そのことは伝えてある。
「春樹さん、よろしかったら事務所の方でお話しませんか? ここは若い子たちだけにして」
「ええ、そうですね。是非そうさせて下さい」
オヤジは松葉杖をつきながら、ゆめさんの後をついていった。
俺たちはその姿を見送っていた。
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