No.23:「ねえ、耳かして」


 沖縄3日目は朝食を済ませた後、観光に出ることにした。

 6人で我那覇さんの運転するマイクロバスに乗り込む。

 ホテルには3時に戻り、健一さんと雅さんと合流。

 そのまま空港へ向かう段取りだ。


 俺たちは平和記念公園とひめゆりの塔に行った。

 俺が知らなかった戦争の歴史がたくさんあった。

 ひめゆりの塔では、献花もした。


 それから国際通りで遅めのランチをとった。

 地元で人気のステーキハウスのチェーン店だ。

 あの値段でミニサラダバーまでついている。

 肉も美味い。

 ひなはごはんのおかわりをしていた。

 そりゃ人気がでるわけだ。


 俺たちは国際通りでアイスを食べながら、お土産を物色した。

 気温が高いせいもあって、ほうじ茶のアイスが美味かった。

 雪奈はマンゴーシャーベットを満足そうに食べていた。


 3時にホテルに戻り、健一さんと雅さんに合流した。

 8人で空港へ向かう。

 健一さんも雅さんも、ホテル内のジムで汗を流していたそうだ。

 やっぱりセレブ感が強いな。


 空港で全員マイクロバスを降りる。

 荷物降ろしてくれた我那覇さんに、お礼を言った。

「またいつでもおいでよー」と我那覇さんは笑ってくれた。


 空港は春休みだからか、結構混み合っていた。

 チェックインを済ました後、また土産物屋まわりをふらつく。

 女子はお土産が大好きだからな。


 関空行きの便の方が先だったので、皆で健一さんと雅さんの便の搭乗ゲート付近まで見送りに行った。


「お世話になりました。俺、こんなに豪勢な旅行は初めてで、本当に楽しかったです」


「それはよかった。ボクも楽しかったよ。京都へ来る時は、また連絡してね。なにか美味しいものでも食べに行こう」


 俺は健一さんと連絡先を交換した。


「葵のこと、よろしく頼むわね。とくに勉強の方」

 雅さんが笑って俺にそう言った。


「葵は勉強の方は全然問題ないと思いますよ。問題がありそうなのは、他にいますけど」


 ひなも慎吾も笑ってたけど……頑張ってくれよ。


 健一さんと雅さんを見送った後、程なくして俺たちも搭乗ゲートをくぐった。


         ◆◆◆


「楽しかったね」


「ああ。めちゃくちゃ楽しかった」


「グラスボート、きれいだった」


「お天気もよかったしな。最高だった」


「やっぱり今度は、2人で行きたいな」


 羽田行きの飛行機は、離陸後しばらくして水平飛行中だ。

 雪奈は眠そうな目をしながら、俺と話していた。

 俺の左側の3人はもう爆睡中だ。

 なっちゃんも窓側におでこをつけたまま動かない。

 俺も眠たくなってきた。


「皆寝ちゃったね。私も眠たくなってきちゃった」


「俺もだ」


「ねえ、耳かして」


「ん?」


 おれは耳を雪奈に寄せる。


「おやすみのキスして」


 雪奈は俺の耳元で囁いた。

 潤んだ目で俺を見上げている。

 背中がゾクッとした。


 俺は雪奈にキスを落とす。

 雪奈が俺の唇をついばんでくる。

 最近の雪奈は積極的なのだ。


 俺達のキスが深くなる。

 俺は雪奈の胸に、体に触れたくて仕方ない。

 我慢するかわりに、雪奈の手を強く握った。


 どれくらいそうしていただろう。

 長いような短いような。

 俺たちは惜しむように唇を離した。

 二人とも息が上がっている。

 雪奈が俺の肩に頭をあずける。

 俺も雪奈の頭に自分の頭をあずけた。


「大好き……」

 俺の頬にキスした雪奈のその言葉を最後に、俺たちは泥のような眠りに落ちていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る