No.21:特殊能力
通話を終えた健一さんが、スマホをひなに返した。
俺たちはオヤジとひめさんのことを、簡単に説明した。
「浩介君、君のお父さんっておいくつ?」
「43です」
「つまり43歳バツイチ紳士のお宅に、22歳の巨……美人ナースが夕食を持参して、一緒に食べていると」
「そういうことですね」
「羨……けしからんな」
まあ俺もそう思うけど。
「ひなちゃん」
「はい」
「お姉さんは、Jカップぐらいかい?」
「大正解!」
健一さん、スゲーな!
ひめさんの胸をスマホ越しに見て、サイズを当てたぞ。
どんな特殊能力だ?
「なんやの、そのムダな能力。皆気ーつけんとあかんよ。視姦妊娠させられるで」
雅さんがツッコむ。
また新しい生殖形態だ。
眼球に避妊具かぶせるか?
ひなを除いて、女性陣全員胸を押さえて健一さんに背を向けた。
ひなはこういう時、耐性が強い。
それからしばらく雅さんから、健一さんが学生時代いかに遊び人だったかという暴露が続いた。
健一さんは、ほとんど反論できていなかった。
そのあと何故か俺と雪奈のつきあいの話になった。
雪奈は頻繁に俺の家に来るし、俺も先日雪奈の家にお邪魔した。
そんな話で盛り上がっていた。
「なんかええなあ。家族ぐるみの付き合いって。ウチもお父さんとお母さんに、慎吾のこと紹介したいわ」
葵がぼやいた。
「まあ父さんは……今は無理だろうなぁ」
健一さんはため息交じりに答える。
「まーねぇ。お父さん、葵のことすっごく可愛がってたからなぁ」
雅さんがそう言った。
「可愛がる? うそやろ? 厳しかっただけやん」
「ちゃうわ。葵、末っ子の娘やろ? もう目に入れても痛くないっていう感じ、めっちゃわかったで」
「そうだね。葵を見る時の顔が、ボクたちのときと全然ちがったのは確かだよ。でも葵は強引に家を出ていっただろ? だから父さん、ちょっと拗ねてるところがあるんだよ」
「そうそう、あれで結構子供みたいなところあるからなぁ」
「ほんまに?……」
「本当だよ。だからまあ、もうちょっと時間をかければいいさ。俺と雅は、ちゃんと味方してやるから」
「また一緒に京都遊びに来たらええよ。慎吾くん、また一緒に美味しいもん食べにいこ」
「はい。また葵ちゃんと遊びに行きますね」
葵、いい兄姉を持ったな。
兄弟のいない俺には、羨ましいぞ。
それから俺たちは、翌日の予定の話をした。
雪奈がどうしても一つ、やりたいアトラクションをリクエストした。
でもそれは、俺のためのリクエストだ。
このホテルには、グラスボートがある。
船底がガラス張りになっていて、海の中が見えるボートだ。
このグラスボートでのツアーがあるのだが、さすがにこれは別料金になっている。
俺は家族で沖縄に来た時にグラスボートに乗ったという話を、クリスマスの時に雪奈にした。
そして雪奈は俺に「いつか一緒に行こう」と言ってくれた。
彼女なりに、その約束を果たしたいんだと思う。
雪奈は有料でもいいので、グラスボートに乗りたいと申し出た。
皆も賛同してくれた。
それを聞いていた健一さんは、その場で支配人に連絡を入れてくれた。
そして翌日のグラスボートツアーをアレンジしてくれた。
しかも料金はタダでいいと言う。
「いや、さすがにそこまでしてもらうのは……」
俺は戸惑った。
「いや向こうもさ、ボクたちからお金を取ります、とは言えないんだよ。だから顔を立ててやってもらえないかな」
なるほど、そういうものなのかな。
確かに次期社長のいるグループから、お金は取りにくいのかもしれない。
俺たちはお言葉に甘えることにした。
◆◆◆
翌日、お天気は快晴だ。
朝食を終えた俺たちは、ホテル併設の小さな桟橋に集合した。
健一さんと雅さんは、残念ながら不参加だ。
一緒に行きましょうと声をかけたが、「朝ゆっくりしたいから」ということで、俺達だけで行くことになった。
船頭さんに挨拶しながら、全員ボートに乗り込む。
中央部分の船底がガラス張りになっていて、海の中がよく見える。
ボートには屋根もついているので、座る位置によっては女性陣も日焼けをしなくて済む。
ボートは桟橋を離れて、エンジン音はあげた。
今日は波も穏やかで、風もない。
多分これなら、船酔いも大丈夫だろう。
20分くらい走っただろうか。
ボートはスピードを緩める。
海の色が変わった。
深い青色から、エメラルドグリーンへ。
俺の大好きな色だ。
船底を見てみると、珊瑚礁のエリアのようだった。
魚の姿も見える。
船頭さんが船の上からエサを撒いた。
たくさんの魚が寄ってきた。
「うわぁー」
船底のガラスを眺めながら、皆歓声をあげた。
青、赤、黄色と黒のストライプ。
色とりどりの魚たちが集まりだした。
青く映るサンゴ礁とのコントラストも、とても綺麗だ。
「綺麗だね」
俺の横にいた雪奈が、小さい声で話しかけてきた。
「本当にそうだな。お天気もいいし、最高だ」
「一緒に来れて、よかった」
「俺のためにリクエストしてくれたんだろ? ありがとな」
「ううん、それもあるけど……やっぱり私が来たかったから」
「昔家族で来たときのことを思い出したよ。こんなに豪勢な旅行じゃなかったけどな」
その時はオヤジと母さんもいた。
皆笑顔だった。
だから悪い思い出ばかりじゃないんだ。
それを雪奈は思い出させてくれた。
雪奈は皆から見えない角度で、そっと俺の手を握った。
「私はずっと、浩介くんのそばにいるからね」
俺の耳元で囁いた。
「ありがとな。雪奈」
俺も囁き返した。
なんだか俺たちは2人の世界で盛り上がっていた。
だから全然気がつかなかった。
少し寂しそうな表情を浮かべていたひなのことも。
そしてひなの横顔を見ていたなっちゃんのことも。
ボートはまた少しずつスピードを上げた。
少し遠回りをして、クルーズをしながらホテルに戻る。
船頭さんの話では、運が良ければイルカがついてくるらしい。
俺たちは必死にイルカの姿を探した。
残念ながら、イルカの姿は見ることはできなかった。
代わりにトビウオが水面を滑空する姿が見えた。
俺たちはそれで十分盛り上がった。
ホテルに戻って、俺たちは昼食をとった。
豪勢なバイキングは、メニューも豊富で全然飽きが来ない。
午後から俺たちは、敷地内にあるパターゴルフで遊んだ。
全員パターゴルフは初めてだった。
一番上手だったのは、なっちゃんだった。
その後、また室内プールでのんびり泳ぐことにした。
ブールサイドのテーブルで女性陣はノンアルのカクテルを飲みながら、皆でトランプで遊んだ。
大富豪をやっていたのだが、俺と慎吾が大体富豪か大富豪だった。
逆に雪奈がずーっと大貧民か貧民だった。
とにかく顔に出るのだ。
「皆ずるい!」
雪奈は機嫌が悪かった。
夕食の後、多目的ホールがダンスフロアになっていたので皆で参加した。
大音量のダンスミュージックの中、舞台の上でスタッフが踊っている。
参加している皆が、それを見て同じダンスをするのだ。
しばらくすると、ホテルのいろんなスタッフも入ってきた。
我那覇さんもいた。
厨房のシェフらしき人が、フライパンとフライ返しでリズムを取りながら入ってきた。
ホールはいっそう盛り上がった。
俺たちの中で一番ダンスが上手かったのが、意外なことに葵だった。
紺の膝丈ワンピースでスカートの裾を揺らして腰を振る葵は、なんというか妖艶だった。
細身のスタイルで、綺麗な生足を惜しげもなくさらしていた。
そのセクシー度合いは、ひなの激しい胸の動きさえも凌駕していた。
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