No.15:触りたいって言ってたし……


 俺達は飲み食いしながら、ワイワイと楽しい時を過ごした。

 雪奈の炊き込みご飯が大好評で、あっという間になくなってしまった。

 ピザとフライドチキンを口にしながら、俺達はオヤジの入院中の話や学校での出来事なんかを話していた。


 一人だけオッサンが混じって大丈夫かと心配したが、その点オヤジはコミュニケーション能力が高い。

 どんな会話でもそつなくこなす。

 俺にはできない芸当だ。


 テーブルの上が随分汚くなってきた。

 なので空いたお皿を流しに持って行って、俺と雪奈で洗っていた。

 するとひなが、お皿とコップを持ってきた。

 なんだか不満そうだ。


「ひな、どうしたの?」

 お皿を洗いながら、雪奈が聞いた。


「もーお姉ちゃんが……浩介くんのお父さんが、さっきから訳のわかんない話をずっと聞かされてるの。気の毒になってきちゃって」


「どういうこと?」


「『お勧めの入浴剤は、いちごジャムですよ』とか言われても、返事に困るよね? それにあの後、排水溝が詰まって本当に大変だったんだよ」


 実際やったのか?

 寝てる間にアリの大群が来そうだが。


「でもまあオヤジはそれぐらい、ちゃんと聞くと思うぞ。そういう男だしな」


「だからなんか申し訳なくってさ……でもお姉ちゃんの顔みたら、完全にオトメなんだよね」


「私、なんか気持ちわかるな。浩介くんのお父さん、ちゃんと相手に視線を合わせて話聞いてくれるもん」


「ひめさんは、オヤジの年とか気にならないのかな?」


「全然気にならないみたい。多分もう頭の中お花畑になってるよ」


「まあ当面放っておこうか。俺たちがどうこう言うことでもないし」


「そうだね」


 キッチンからリビングを覗き込むと、ひめさんとオヤジがスマホを出し合っていた。

 おそらくLimeの交換でもしているんだろう。

 まあなるようにしかならないよな。


 食べ物もあらかたなくなり、時間も夕方になったのでお開きとなった。

 オヤジは丁寧にお礼を言った。

 山野姉妹は2人で帰っていった。

 慎吾は葵を、俺は雪奈を送っていくことにした。


 ひと気の少ない電車の中で、俺たちは横並びに座って手を繋いだ。


「やっぱりさ、浩介くんお父さんに似たところもあるよね」


 雪奈が話しかけてくる。


「どこがだよ」


「んー、なんかね、相手のことをちゃんと考えてくれるところかな。相手が何を思っているかとか、相手の立場とか」


「あー……でもその辺はオヤジの方が上だろうな。年の功だ」


「でも浩介くんもそうだよ」


「そうかな」


「そうだよ……そういうところも好きなんだけどね」


 そう言うと繋いだ手を少し強く握って、俺の肩に頭を預けてきた。

 雪奈は最近よく甘えるようになったと思う。

 ひと気が少ないところだと、よく顔を近づけてくる。

 キスをせがまれてるような気がして、こっちが落ち着かない。

 めっちゃ可愛いけど。


 電車を降りて、雪奈の家まで歩く。

 俺は炊き込みご飯と筑前煮が入っていた容器を右手に持つ。

 左手は雪奈に取られている。

 もう雪奈の胸の感触が直に当たるんだが……。


「雪奈さん……当ててるの?」


「そう。当ててるの」


「どうした?」


「だって浩介君、ひなとひめさんの胸ばっかり見てんだもん」


「そんなことは……」

 あるのか?


「それに……触りたいって言ってたし……」


 もう雪奈の顔が真っ赤だ。

 無理しなくていいのに……。


「雪奈……不安なのか?」


「……不安じゃないよ。ただね……好きなの。浩介くんが。気持ちがね、止まらないの。どうしていいか、わからなくて……」


「雪奈……」


 俺は立ち止まった。

 雪奈の顔を正面に見た。

 潤んだ瞳で俺を見上げる。

 左手をその紅潮した頬に添える。

 雪奈が少し背伸びをした。

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