No.14:退院祝い


 そして週末の日曜日。

 俺は朝から準備に追われていた。


 退院祝いの件をオヤジに話したら、恐縮しながらも嬉しそうだった。

 特にひめさんが来るという話をしたら、目に見えてテンションが上がっていた。

 若くて綺麗な女性が来てくれるわけだから、それはまあわからんでもない。

 Jカップだしな。


 食べ物は、雪奈が筑前煮と炊き込みご飯を持ってきてくれるらしい。

 本当にいつも申し訳ないと思っている。


 人数はいつもの5人と、オヤジとひめさんで合計7人。

 多分食べ物が足りないので、デリバリーでピザとフライドチキンを頼むことにした。

 俺はコンビニに行って、飲み物を調達してきた。

 テーブルの上に取り皿を用意する。


 お昼過ぎに、皆が集まりだした。

 最初に、ひなとひめさんがやって来た。

 ひめさんは髪の毛を下ろして、大人っぽい雰囲気。

 ひなと同じで、くりっとしたネコ目で整った顔立ちだ。

 こうして見ると本当に美人のお姉さんだ。


 ひめさんは、手に花束を抱えていた。

 退院祝いに持ってきてくれたようだ。


「ご退院おめでとうございます」

 少し照れながら、オヤジに花束を手渡した。


「いやーありがとう。よく来てくれたね。なんだか気を遣わせちゃったね」

 花束を受け取るオヤジも嬉しそうだ。


 そのあと雪奈、慎吾と竜泉寺が順番にやってきた。

 雪奈はなっちゃんにも声をかけたが、友達と映画に行く先約があったらしい。

 残念そうにしてた、と雪奈は言っていた。

 今度雪奈となっちゃんの2人だけで来てもらってもいいかもしれない。


 雪奈が筑前煮と炊き込みご飯を、テーブルの中心に置いた。

 その横に、ピザとフライドチキンを配置する。

 和洋折衷で、なんだかバランスが悪いが仕方ない。


 飲み物を用意して、俺たちは乾杯した。

 オヤジはいつも瓶ビールなのに、今日は缶ビールだ。

 ひめさんにお酌の気を使わせないためなのかもしれない。

 ひめさんは、ジュースを飲んでいた。


「浩介からひなちゃんの話は聞いてたよ。入院中はお姉さんにも、すごくお世話になったんだ」


「こちらこそ、コースケ……君には、いっつも助けてもらってるんですよー」


 オヤジの隣にひめさん、その隣がひなの順番だ。

 3人で話が弾んでいるようだ。

 ひめさんは少し照れくさそうに、頬を染めているようにも見える。


 それにしても……ひめさんとひなが横並びになると、もう胸の破壊力がハンパない。

 オヤジの鼻の下が過去最長に伸びている。


「浩介君、どこ見てんの?」


 横から雪奈が怒気を含めた小さい声で囁きかけてくる。


「いや、特に何も?」


「もう……私の胸には興味ないの?」


「触りたいです」


「……バカ……」


 雪奈は下を向いて真っ赤になった。

 ヤバい、抱きしめたい。


「もーあんたらすっかりバカップルやな」


「そうそう、本当だよー。始めはあんなに初々しかったのにさー」


 元祖バカップルから、ツッコミが入った。


「そういえば竜泉寺さん、旅行の件どうもありがとう。浩介もすごく喜んでるみたいなんだ。お父様にもよろしくお伝えしてね。それにしてもあの竜泉寺グループの社長令嬢が聖クラークにいたなんて、本当驚きだね」


「そんなそんな……社長令嬢だなんて、ウチなんてオマケみたいなもんですから。それと葵でいいですよ。竜泉寺って言いづらいですし」


「それじゃあ葵ちゃん、よろしく頼むね」


「はい、こちらこそ浩介君にはいつもお世話になってるんで」


「じゃあ竜泉寺、俺も葵でいいか?」

 いい機会だから、俺も乗っかる。


「もちろん。じゃあウチもコースケ君でいい?」


「もちろんだ」


 なにげに竜泉寺って、言いづらかったからな。


「牧瀬君も可愛い彼女、つかまえたねー。すみに置けないなー」

 オヤジが慎吾に絡む。


「浩介だって、そうじゃないですか」


「そうそう、確かにそうだよ。それが一番驚きだねー」

 オヤジはビールも入っているせいか、上機嫌だ。

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