No.13:雪奈からの提案


 学校は今週いっぱいで終わる。

 来週からいよいよ春休みだ。

 沖縄旅行が楽しみになってきた。


 来月から俺たちは3年生だ。

 受験がある。

 高校生活のなかで、俺達が旅行に行ける最後の機会になるかもしれない。

 しっかり楽しまないとな。


「浩介君、ひなから聞いたんだけどね」


 昼休みに昼食をとりながら、雪奈が話しかけてきた。


「浩介くんのお父さんの、退院祝いをやったらどうかなって」


「退院祝い?」


 ひなから何を聞いたんだろ?

 視線をひなの方に向ける。


「もうさー、お姉ちゃん元気なくって……凹みまくってんだよね」


 聞けばオヤジが退院してから、目に見えて元気がないらしい。


「落ち込み過ぎて、コーヒーに間違えてソースとか入れちゃうんだよ。いままで黒酢だったのにさー」


 どっちにしても末期的だな。


「ナース室でデータ見れば携番とかわかるんだけどね。でもそれってやっぱり個人情報じゃん」


 まあ確かにそうだな。

 それで電話をかけてこられたら、あまり心証が良くないだろう。

 でもオヤジ、連絡先交換しなかったんだな。

 まあ普通そうか。


「私ね、ひめさんの気持ち分かる気がするの」


「雪奈……」


「私もひめさんと何度かお会いしたことあるし、その……ちょっと個性的なところも知ってるから……」


 ひめさんも雪奈のことをよく知っているような口ぶりだったな。


「浩介君のお父さん見た目も若いし、すっごく優しいじゃない? 私の話もよく聞いてくれるし包容力もあるし。だからひめさんが惹かれるのって、ある意味当然のような気もするの」


 そんなもんなのかな?


「それでね。浩介君のお父さん、足が不自由だから食事も大変でしょ? だから週末に私がまた何か作って浩介君の家に持っていって、皆で退院祝いをしたらどうかなって。ひめさんも呼んで」


 なるほど、それはいいアイデアかもしれない。


「ねえコースケ、どう思う?」

 ひなが心配そうに言う。


「いいと思うな。ちょうど沖縄旅行に行くメンバーも紹介できるし。ひなと竜泉寺はまだオヤジに会ったことないだろ? 紹介するのにちょうどいい機会だしな」


「本当? じゃあそうしようよ。皆の予定はどうかな?」


 雪奈が皆に聞いてみると、全員日曜日が都合がいいらしい。


「じゃあ俺からオヤジに一応聞いておくよ。足が悪くて出かけられないから、どう考えたって予定なんかないはずだけどな」


「うーん、やっぱり家族に認められて、お互いの家を行き来するような関係ってええなぁ。ほんま羨ましいわ」


「大丈夫だよ、葵ちゃん」


 竜泉寺のぼやきが入って、慎吾がそれを拾った。

 まあ竜泉寺の場合、特殊だからな。

 仕方ないかもしれない。


 竜泉寺は慎吾の家に遊びに行くことはあっても、逆はまだないらしい。

 祖父母に紹介するのも、竜泉寺はまだためらっているようだ。

 やっぱり父親の耳に入るのが怖いみたいだ。


 さてと……週末はどうなることやらだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る