No.10:不名誉な称号


 話題は春休みの沖縄旅行になった。


「本当にいいんだろうかねぇ。竜泉寺のリゾートホテルなんて、ものすごく豪勢じゃないか」


「はい、俺もそう思います」


「いいわねぇ。私達だって行きたいぐらいよ」


 達也さんも美咲さんも、興味津々だ。

 それより……男女混合で旅行に行くということに関しては、問題ないのだろうか。


「京都から竜泉寺さんのご兄姉も来られるんだろ? 賑やかで楽しそうじゃないか」


「そうねぇ。大山くんも一緒だから、安心だわ」


 なんだか、メッチャ信用されているな。

 雪奈も終始ニコニコしている。


「もうウチでは浩介さんのこと、皆ベタ褒めなんですよ。聖クラークの特待生って言うだけでも凄いのに、お姉ちゃんのこと色々助けてくれたって」


「いやそんなことはないよ。俺だってもの凄く助けられているんだ」


「あっ、あと私のこと、『ナツ』とか『なっちゃん』でいいですから。皆そう呼んでます」


「じゃあ、なっちゃんでいいかな?」


「はい!」


 明るくていい子だ。

 雪奈より、物怖じしないタイプなのかな。


「でも本当に雪奈に似てるなぁ……なっちゃん、お姉さんが学校で何て呼ばれてるか知ってる?」


「はい、雪姫とか……」


「それ本当に恥ずかしいんだけど……」

 雪奈がちょっと下を向いた。


「でもなっちゃんが入ってきたら、さらに凄いことになるんじゃないかな? 美人姉妹で、学校中がザワつきそうだ」


「そんなことないと思いますけど。……」


「ナツ、いまでも学校では結構モテるみたいだからね。私と違って社交的だし」


 なるほど、そんな感じだ。

 まあ雪奈が中学の時は、あまり目立たない存在だったらしいからな。


 食事も一通り終えた。

 全部の料理が、とても美味しかった。

 雪奈と美咲さん、二人で作ったらしい。

「これからは、ナツにも手伝ってもらうからね」

 雪奈はなっちゃんにそう言っていた。


 俺が買ってきたケーキとコーヒーを用意している間に

「大山君に2人の部屋を見てもらったら?」

 という美咲さんの提案に甘えることにした。


 雪奈となっちゃんの部屋は2階にあるらしい。

 3人で階段を上がっていく。


「じゃあまず、あたしの部屋からどうぞ」


 なっちゃんが部屋に案内してくれた。

 白と水色の壁紙を使った、可愛らしい部屋だ。

 ベッドの周りにぬいぐるみがたくさん置いてある。

 勉強机の上にも、アニメのキャラクターだろうか。

 人形がいくつか置いてあった。


「ところであたしは浩介さんのことを、なんて呼べばいいですか?」


 なっちゃんが少し照れながら聞いてきた。


「ん? そのままでいいと思うけど」


「でも、一回これやってやってみたかったんです」


「?? 何を?」


 するとなっちゃんは、俺の腕をがっしり掴み上目遣いでこう言った。


「こ、浩介おにいちゃん!」


「おおっ……」


 これはなかなかの破壊力だ。

 しかもひなみたいに小悪魔的ではない。

 顔を真っ赤にして、羞恥にまみれた表情を浮かべている。

 これがまた背徳的だ。


 しかしそこはまだ中学生。

 胸のサイズが発展途上だ。

 あと2年は修業が必要かな。


「うん、頑張った。でも無理はするなよ」


 なっちゃんは俺の腕からパッと離れた。

 顔がまだ真っ赤だ。


「こ、浩介さん、やけに慣れてますね、こういうの」

 なっちゃんは悔しそうに言う。


「ナツ、もうなにやってんのよ」

 雪奈が割って入る。


「浩介君は私とひなで、そういうの慣れてるからね。それにナツのサイズだと、まだ不十分よ。浩介君は私たちの間では、『おっぱいマイスター』って呼ばれてるの」


「初耳だぞ!」

 いやな称号だな。

 極めて不名誉だ。


「あ、あたしだってあと2年もしたら、もっと成長するんだから!」


「いやでも、なっちゃん十分可愛いし。それに俺は特に胸にこだわってるわけじゃないから」


「うそ!」「うそですね!」


 何故か二人の声が重なった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る