No.09:話題を変えませんか?
「本当にすごいね。大山君はmensaの会員だったりするのかい?」
mensaというのは、上位2%のIQを持つ人たちが参加する国際グループだ。
「いえ、以前テストを受けてみてはどうかと話はあったのですが……面倒くさいのと、受験料が高いのでやめました。特に興味もないので」
俺としてはそんなテストに時間をかけるぐらいだったら、トレードシステムの研究をしていた方がずっと楽しい。
「かっこいいー! mensaに特に興味がない……とか、言ってみたーい!」
妹さんはなぜか興奮している。
俺はちょっとお尻がむず痒くなった。
「えっと……製薬関係の仕事をされてるって聞いたんですけど、俺も将来医学系の道も選択肢として考えているんです。実際のお仕事って、どんな感じなんでしょうか?」
俺は達也さんの方を向いて、話題を変えてみた。
「おーそうかい。それは頼もしい。うちの会社は今まさに新薬開発の真っ最中でね。私はそのプロジェクトのお陰で、今忙しくて死にそうだよ」
「最近毎晩帰りが遅いですものね」
美咲さんが心配そうに呟いた。
達也さんは開発部門ではなく、管理部門の仕事をされているとのことだった。
開発の進捗状況やコストの管理、契約内容のチェックなど仕事の内容がものすごく多岐に渡るらしい。
なので一つ大きなプロジェクトが入ると、そこで仕事が一気に集中するそうだ。
美咲さんは看護師で、同習館とはまた別の病院で看護室長を務めているらしい。
因みにひめさんが看護師として働く前、仕事の内容について美咲さんに何度か相談したことがあるそうだ。
だから美咲さんも、ひめさんのことはよく知っていた。
「俺の父親が交通事故にあって同習館総合病院に入院してるんですけど、担当の看護師さんがひめさんなんですよ」
「そうらしいわね。雪奈から聞いたわ。そんな偶然って本当にあるのね」
雪奈にはそのことは話してある。
ただ、ひめさんがオヤジに彼女がいるか聞いてきたことは話していない。
当面は話を広げない方がいいと思ったからだ。
「ひめちゃん、もの凄くいい子だけど……何て言うか、とっても個性的よね?」
「……そうですね。俺もそう思います」
個性的とか、そんなレベルじゃないとは思うが。
「でもあのスタイルで、また可愛いじゃない? ちょっと有名な逸話があるのよ」
美咲さんの話はこうだった。
ひめさんが働き始めたとき、あの病院で新人研修が行われた。
いろんな部署で実地研修を受けるわけだが、あの病院には終末医療のホスピス病棟がある。
そこでもうあと数日しかもたないだろうと言われていた、末期癌患者が数名いたらしい。
ところがひめさんがそこへ研修に入ると、その患者さんたちは急に元気になり話まで出来るような状態になったそうだ。
それが全員男性の患者だったという。
患者さんの家族はびっくりしつつも、最後の別れの言葉を交わすことができたらしい。
そしてひめさんの研修終了後、その患者さん達は枯れるように息を引き取っていったという。
それでも患者さんの家族には、とても感謝された。
最後に言葉を交わすことができたと。
「男性はいくつになっても大好きよね。女性のおっぱいが」
美咲さんの言葉に、俺も達也さんも下を向くしかない。
「浩介くんも大好きだもんね」
雪奈が混ぜっ返す。
「お姉ちゃんだって十分……あー、でもひなちゃんがいるかぁ」
「そうだよ、ナツ。それにね、ひめさんもJカップなんだって」
「ほぉ」
達也さんが反応した。
「あのー……話題を変えませんか?」
俺はいたたまれなくなって、提案した。
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