No.08:桜庭家訪問

 さて、翌日の日曜日。

 俺にとって、緊張の一日となりそうだ。


 以前から懸案だった、雪奈の家へ挨拶にお邪魔することになった。

 ようやく雪奈のお父さんとお母さんの日程が整ったのだ。


 俺は有名なケーキのお店で、ケーキを5個買った。

 雪奈は自宅の最寄駅まで、俺を迎えに来てくれた。

 俺は前髪を上げて、ワックスで固めている。

 第一印象は良くしておかないとな。


 駅から3分ぐらい歩いて、雪奈の家の玄関からお邪魔する。


「ただいまー」「お邪魔します」


「いらっしゃい」

「待ってたわ」

「こんにちはー」


 ご両親と、妹さんに出迎えてもらった。


「いらっしゃい、大山君。いつも雪奈がお世話になってるみたいだね」


「いえ、お世話になってるのは俺の方です。いつも食べ物とか持って来てもらって」


 雪奈のお父さん、桜庭達也さくらばたつやさんは少し白髪が混じって温厚そうなジェントルマンだ。

 うちのオヤジとはタイプが違う。

 二重瞼の目元が、雪奈に似ている。


「そうそう。毎回雪奈が食べ物作る時は、もう張り切っちゃってね」


「お母さん!」


 雪奈のお母さん、桜庭美咲みさきさんは少しふっくらとした印象で、優しさが全身から滲み出している。

 鼻筋や色の白さは、お母さんから受け継いだんたろう。


「こんにちは! 妹の夏奈なつなです。ようやく会えたー」


 はしゃぎながら屈託なく笑う雪奈の妹は……もう「ミニ雪奈」だった。

 顔のパーツもスタイルも色の白さも、雪奈そっくり。

 そのまま雪奈をスモールライトで小型化して、髪型をショートにしたという印象だ。

 あどけなさの残るその表情は、2年前の雪奈を彷彿させる。

 とはいっても、雪奈はそのとき地味系だったんだっけか。


「こんにちは。夏奈ちゃんだね。それと聖クラーク、合格おめでとう。もうちょっとしたら、後輩になるんだな」


「そうなんですよ! もう楽しみで……あ、それから沖縄も一緒に行けるんですよね! 誘っていただいてありがとうございます! 3月の沖縄って、泳げるんですかね?!」


「もうナツ、とりあえず上がってもらわないと」

 美咲さんが苦笑している。


 全員玄関から、1階のリビングへ移動した。

 広くて明るいリビングには、すでに夕食の準備がされていた。


「これ、駅前のお店で買ってきたんですけど」


「まあまあ、気を使わなくていいのに。あとで皆で食べましょうね」


 俺がケーキを手渡すと、お母さんはニコニコしながらそう言った。


 雪奈とお母さんがごはんや汁物を用意した後、全員テーブルについた。


「それじゃいただこうか。大山君、ようこそ」


「ありがとうございます」


 全員でいただきますをして、食べ始めた。

 お父さんはビールを飲んでいる。

 どこの家でも一緒だな。


 俺は味噌汁を飲んで、煮物に箸をつけた。

 うまい。

 雪奈の味だ。


「味、どうかな?」

 雪奈が聞いてくる。


「美味いよ。いつもどおりの味だ」


「そう? よかった。ちょっと味が薄いかなって思ったんだけどね」


「なんかお姉ちゃんたちの会話、夫婦みたい」


 妹さんのツッコミが入る。


「もうナツ!」


「はは、仲がいいんだな」

 お父さんは笑っているが、俺は笑えないぞ。


「そ、そうそう、あのね、浩介君、凄いんだよ。この間の模試で、浩介君全国1位だったんだよ!」

 雪奈が強引に話題を変える。


「おい雪奈」


 雪奈の言う通り、俺は前回模試で全国1位になった。

 いままで3位が最高だったが、ようやくトップを取った。

 5科目中、4科目が満点だった。

 自分としては、ちょっと出来すぎだ。


 自分としては全国順位はそれほど意識していなかった。

 でも実際に1位をとってみると、それはそれで気持ちがいい。

 ちなみに俺よりも、学校の先生達が大喜びしていた。

 よくやったと、大げさに褒められた。


「へー、それは凄いわね! 目の前に全国トップの高校生がいるなんて」

 お母さんは目を丸くしている。


「すごいすごい! そんな人がお姉ちゃんの彼氏なんて、信じられない!」

 妹さんもびっくりしている。


「たまたま今回は出来が良かっただけだと思います」

 俺はちょっと恐縮しながら答えた。

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