No.07:身持ちが固いから
「俺も分かりませんけど、多分そんな女性いないと思いますよ」
「そ、そうなの?」
「大体あんなの、どこがいいんですか?」
「え? お、大山さん、優しいし」
「優しい男なんて、いくらでもいるでしょ?」
「その……私の話、いっぱい聞いてくれるし」
「あー……」
まあそういう人だからな。
「私、性格がこんなのだから、友達もあまりいないのね。だから話聞いてくれる人もそんなにいないし」
ひめさんが、少し寂しそうな表情になる。
「でも大山さん、私の話一生懸命聞いてくれるの。それで私、嬉しくなっちゃって。ちょっと勝手に勘違いしてるだけなのかもしれないけど……」
「ひめさんて、おいくつでしたっけ?」
「ひなより、5つ上よ。今22歳」
「オヤジが……たしか43ですよ」
「うん、カルテに書いてあるから知ってるわ」
そりゃそうか。
歳を知ってて……そうなのか。
「でも見た目、とってもお若いわよね」
「あー、まあそうかもしれませんけど」
確かにオヤジは見た目は若い。
童顔で、髪の毛もフサフサだ。
30代半ばと言われても、納得できるレベル。
「でもあと2-3日で退院されるのよね。喜ばないといけないのに……個人的には寂しいわ」
「まあ俺の連絡先であれば、ひなも知ってますから。連絡を取りたいのであれば、いつでもできますよ」
「その……ご迷惑じゃないかしら?」
「一応聞いてみますけど……すごく喜ぶと思いますよ、多分」
「ホント?」
ひめさんは、にっこりと笑った。
本当に嬉しそうだ。
いやでも……結構マジっぽいな。
俺は頭が痛くなるのをこらえながら、ようやく家まで送ってもらった。
親切に送ってもらったんだ。
お礼を言わなきゃな。
「本当にわざわざ、ありがとうございました」
「いいえ。また退院の時会えるわよね?」
「はいそうですね。その時にまた」
「うん、それじゃあね」
ひめさんは軽く手を振って、車が走り去って行った。
◆◆◆
その夜風呂上がりにくつろいでいると、Limeにメッセージが。
ひな:いま話せる?
俺はOKと返信すると、すぐに音声通話がかかってきた。
「もしもし?」
「おー、どーした?」
「お姉ちゃんから聞いた」
「そうか。お前の言ってたことわかったぞ。ひめさんのこと」
「そう。クセ強いでしょ?」
「強いどころの騒ぎじゃねえな。びっくりしたわ」
「まーねぇ……悪い人じゃないんだよ」
「それはわかる」
「あとさ……お姉ちゃんちょっとパニクっちゃってて。勢いでコースケに変なこと聞いちゃったって」
「あー、まーな。俺もびっくりしたわ」
「あの人ね、たぶん強度のファザコンなんだよね」
「ファザコン?」
「そう。パパがまだいたときにね、お姉ちゃんもの凄いパパっ子だったんだ。それでパパはいっつもお姉ちゃんの話に付き合ってくれてたのね」
「なるほど……」
「でもパパが離婚していなくなっちゃって……ちょっと前まで彼氏とかいたみたいなんだけど、あの人すっごく身持ちが固いから長く続かなくてね」
「身持ちが固いと……長く続かないのか?」
「だって話は面倒くさいし、ヤらせてもくれないんだったら、男だって嫌じゃん。そんな女」
「ひな、お前……辛辣だな」
「でも世の中の男ってそうみたいだよ。それでね、コースケのお父さんが入院した日にさ、お姉ちゃんものすごく嬉しそうに『大山くんのお父さん、優しくて話いっぱい聞いてくれるの』って、目をキラキラさせながら言うわけ」
「あー……そういう流れか」
「そう。でもさー……なんていうか、結局お姉ちゃんにはそういう人がいいのかなって気もするんだよね。こう、年が離れてて落ち着いてって言うかさ」
「離れ過ぎじゃないか? ほとんどダブルスコアだぞ」
「でもコースケのお父さんだったら、悪い人じゃないでしょ?」
「そりゃそうだけど……」
「巨乳好き?」
「真性のおっぱい星人だ」
「じゃあ、ちょうどいいんじゃない? 別に今すぐどうこうってわけじゃないだろうしさ。このまましばらく様子見でいいんじゃないかな?」
「ひなはいいのか? それで」
「私は全然いいと思うよ」
うーん……なんかちょっとモヤモヤするが、ひなの言う通りここは様子見でいいのかもしれないな。
俺は終始マジモードのひなと、通話を終了した。
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