No.06:聞いてもいいかな?


 2人で駐車場を歩いて、ひめさんの軽自動車の助手席に乗せてもらう。

 病院の駐車場出て、自宅に向かって走り出した。


 道中、俺達はいろんな話をしたのだが……


「ところで大山君は、コーヒーには何を入れる派?」


 そら来た。


「僕はブラック派ですね」


「あー、大人だねー」


「ひめさんは?」


「私は黒酢」


「黒酢?!」


 そんなヤツいるの?


「美味しいんですか?」


「聞いたことない? 色が似ている飲み物は、なんでも混ぜると相性が良くて美味しいって」


「初耳ですね」


「そう? 何でも合うらしいわよ。コーヒーにコーラ、ドクターペッパー、黒酢、醤油、ソース、うがい薬、ヨードチンキ、エンジンオイル……」


 最後の方、もはや飲み物ですらねえ。


「どこ情報ですか?」


「ネット情報よ。水曜日のテレビでやってたらしいの。『色が似ている飲み物は、なんでも混ぜると美味しい説』って」


「100パー、ガセですね」


 なにそれ?

 完全にBPO審議案件だろ。


 その後しばらく無言が続いた。

 沈黙に耐えかねたのか、ひめさんが話してきた。


「大山くん……その……ひとつ聞いてもいいかな?」


「はい、なんでしょう」


「えーっとね、会ったばっかりで、しかも患者さんの息子さんに聞くことじゃないかもしれないんだけど……」


 ひめさんは、急にモジモジしだした。

 頬も紅潮させている。

 どうしたんだろう?


「その……お付き合いしてる人とか、いるの……かな?」


「えっ?」



 ちょっと待て。

 ちょっと待て。


 ひめさんと会うのって、今日で2回目だよな。

 どこかでフラグ立ったか?

 え? 全然覚えないんだけど。


 それに、ひなから聞いてないのか?

 まあ忙しかったら、聞いてないこともあり得るのか?


「えーと、俺、同級生の彼女がいます。その子、ひなの中学時代からの親友なんですけど、……ひなから聞いてませんか?」


「えっ? ええ、聞いてるわよ。大山くんの彼女、雪奈ちゃんでしょ? 家にもしょっちゅう遊びに来てるから、よく知ってるわ。可愛くていい子よね」


「ご存知でしたか」


「ええ」


「……」


「……」


「……」


「……」


「えぇぇぇーーーーーー!!??」


「きゃっ!」


 俺たちの車が、反対車線に半分ぐらい飛び出した。

 パーーーァンと対向車がクラクションを鳴らす。

 ひめさんは、慌ててハンドルを元に戻した。


「ひ、ひめさん、落ち着いて下さい。危ないです」


「落ち着いてる落ち着いてる。私は落ち着いてるわよ。大山くんこそ、大声出さないで」


「あ、すいません」


 確かに落ち着かなきゃいけないのは、俺の方だった。


「ひめさん、確認なんですが、俺のオヤジ、あのバカオヤジに、お付き合いしている人がいるか、という質問ですか?」


 間違っていてほしい。


 ひめさんは運転しながら、顔を真っ赤にしてコクンと頷いた。


 マジか。

 マジでか。


 もう変わってるとかのレベルじゃねえぞ、この人。

 それに俺かと思って……めっちゃ恥ずいんだけど。


 とはいっても、まだ会って数日だ。

 そんなにシリアスな感じではなくて、ちょっといいな、ぐらいのレベルかもしれないし。

 いやそれにしても……あのオヤジになぁ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る