No.03:ナースのコスプレ


「まったくオヤジ、なにやってんだよ……」


「いやーごめんごめん、浩介悪いねぇ」


 同習館総合病院。

 この地区で一番大きい、緊急搬送も受け入れている病院だ。

 6人部屋のベッドの上で、オヤジは横たわっていた。

 右足の膝から下に、ギプスが巻かれている。


 オヤジは外出先から歩いて会社に戻るとき、交通事故にあったらしい。


 片側2車線の交通量の多い道路。

 横断歩道を渡ればいいものを、横着して近道しようとした。

 駐車中の大型トラックの前から出たところで、タクシーと接触。

 意識は問題なく、そのまま立とうとしたらしいが痛くて力が全然入らない。

 そのまま救急車で搬送となった。


 検査の結果、右の足の骨、腓骨を骨折。

 あとはどこも異常がないとのことだ。

 逆にこれだけのケガで済んでラッキーでしたよ、と医者には言われたらしい。


 ただその骨折の状態が悪く、このままでは後遺症が残るかもしれないため、明日緊急手術することになった。

 したがって4-5日、入院することになるらしい。


 連絡を受けた俺は、最初オヤジが事故にあったと聞いて本当にびっくりしたが、声が元気そうだったので比較的落ち着いていた。

 急いで一旦家に戻り、オヤジの3日分の着替えをカバンに詰めて病院へ駆けつけた。


「子供じゃないんだから……横断歩道ぐらい渡れよな」


「いやー、そうなんだけどね。急いでたからさー」


「結局それで会社にも迷惑がかかるだろ?」


「本当、浩介の言う通りだよー」


 オヤジの話では、退院する頃には松葉杖で移動ができるそうだ。

 幸いオヤジの部署は時差出勤やリモートワークも可能らしい。

 まあなんとかなるだろ。



「大山さん、検温と血圧測定しますね」


 カーテンを開けて、看護師さんが入ってきた。

 俺は息を飲んだ。


「ひ、ひな?」


 いきなりナースのコスプレをしたひなが入ってきた。

 ただし髪はいつものツインテールではなく、お団子にして後ろにまとめてある。


「?」


 ひなはキョトンとしたままだ。

 胸のネームプレートには、「山野」と書いてある。


「ひな! お前なにやってんの?」


「えーっと……多分ひなは、私の妹だと思います。ひなのお友達ですか?」


「えーーっ!?」


 そういえば……ひなのお姉さん、看護師って言ってたような気がする……。


「こんにちは。ひなの姉の山野ひめといいます。妹がお世話になってます」


 ひめさんは、そう言って少し頭を下げた。


 本当にびっくりした。

 それにしてもよく似ている。

 身長も150センチぐらいか。

 小柄な体躯、それに顔までそっくりだ。


 唯一の違いといえば……胸だ。

 いやもう……ひなより、さらにデカい。

 ナース服の前が、ぎゅうぎゅうになっている。

 小柄なので、そこだけが異常にアンバランスで目立ってしょうがない。


 オヤジがひめさんの胸をガン見したまま、完全に固まった。

 俺はオヤジの頭をひっぱたいた。


「いたっ」


「オヤジ!」


「え? あ、ごめん」


「検温と血圧だ」


 オヤジはひめさんから、体温計を受け取った。

 脇の下に挟む。


「それにしても、本当によく似てらっしゃいますね」


「よく言われるんですよ。今でもツインテールにすると、区別がつかないって」


 話してみると、ひなとは印象が全然違う。

 やはりお姉さんなのか、ずっと落ち着いた感じがする。


「俺、大山浩介っていいます。聖クラークの同級生です。クラスは違うんですけど」


「そうだったんですね。大山君、ひなは学校でどんな感じなんですか?」


「いろんな意味で人気がありますよ、アイツは」


 雑談をしている間に、ピピッと体温計の音が鳴った。


「じゃあ次に血圧測りますね」


 携帯型の自動血圧測定器に、オヤジは腕を通した。

 ひめさんが少し前かがみになると……うわっ、谷間がしっかり見えてしまった。

 ナース服はそれほど胸ぐりが深くないが、ひめさんのバストが異常だからだ。


 気がつくと俺もオヤジも、ひめさんの胸に視線が集中していた。


「では測りますね。じっとしていて下さい」


 ピッとボタンを押して、ひめさんは体を起こした。

 そのとき……胸に圧力がかかったんだろう。

 ナース服の一番上のボタンが、パチンっと弾けてオヤジのおでこを直撃した。


「いたっ」


「あっ……ご、ごめんなさい」


 顔を赤らめて、ひめさんは胸元を押さえる。

 ナース服で締めつけられていた胸が、圧が弱まってさらに前にドンッと飛び出した。

 ボタンが外れた襟元から、ひめさんのバストが押し出されている。

 白いレースのブラが、上に盛り上がっていた。


 ……エロ過ぎる。

 俺は鼻血が出そうになった。


 そのときピピッと血圧計の音がした。

 ひめさんは床に落ちたボタンを拾い、胸元を押さえながら血圧計を回収する。


「えーと……少し血圧が高めですね。上が……290……と……」

 ひめさんは、ファイルに書き込んでいる。


「290って……」

 オヤジ、死ぬぞ。


「大丈夫なんですかね」

 俺はひめさんに問いかける。


「えーと……まあ、キリンがそれぐらいですからね」


「キリンですか……」


 確かにあれだけ首が長ければ、血圧高くないと血が上がって行かないだろうけど……。


「夕食後にもう一度来ますね。じゃあ大山くん、ひなをよろしくお願いします」


 そういって、ひめさんは出て行った。


「オヤジ……大丈夫か?」


「……意識がちょっと飛んだけどね……足よりも、こっちの方が心配だよ。でも可愛い看護婦さんでよかったー」


 喜んでいる。

 そりゃ真性のおっぱい星人の前に、真性のおっぱいが現れたわけだからな。


 俺は1階で入院の手続きを済ませてから、自宅に戻った。

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