晩飯前のちょっとした読書タイム
「————なんだこれ」
俺は妻が晩飯を作っている間、彼女が書いたという小説を読んでいた。すごい終わりが中途半端だ。まだ書いてる途中ということなのだろうか?
気付けば夕飯の支度はほぼ出来ているようでキッチンからは良い匂いが漂ってきている。今日の夕飯は俺のお気に入りである『ホワイトシチューオムライス』、そういえば作中でも食べていた。書いたから急に食べたくなったといったところか。
しかし——
「この主人公のモチーフ、完全に俺だよな?」
「えぇ、そうよ」
食事の準備を終えたのかいつの間にか俺の座っているソファーの真後ろに立っていた。結婚して二年、紆余曲折あってようやっと結ばれた今でも彼女と一緒に居れてることが俺の人生においてなによりの喜びだ。きっとこの生活を壊そうとする者がいれば、それがたとえ神様であっても許さないだろう。っと、少し話が逸れたな。本題に戻ろう。
「俺ってこんな感じだったか? 特に最後、人殺しも厭わない感じだったけど」
「そりゃあ小説だもの。多少は盛ってるわよ。で、言うこととかあるんじゃない?」
ほれほれ、と何か欲しそうに手をくいくいと招いている。もしかして感想とかが欲しいのか? うーん、どうしたものかと少し考えたが、下手に誤魔化しても不興を買いそうだったので素直に思ったことを伝えることにした。
「素人意見だからあんま真に受けるなよ……。まず展開を急ぎすぎてる気がした。もう少しゆっくり説明しても良かったんじゃないか?」
「長編のつもりで書いたわけじゃないから確かに少しテンポ優先にしてたわねー」
「あとは登場人物の行動が突飛すぎる。話したこともないやつに急に勉強を教えて、なんて言うやつもいないし、あとは自分より頭がいいからって襲ってくるやつも……まあいないだろ」
「それは……そうかもしれないけどぉ……」
む、流石に酷評ばかりでは我が可愛い妻がしょんぼりしてきたので、これからは褒めちぎろうと思う。アメとムチってやつだ。
「でもまずこの『妄想能力』ってのは良かったな。ちゃんと発現するための条件みたいなのが書かれてたのも良き。あとは萌華が可愛い。勢いがあるわちゃわちゃ女子は割と好きだぞ」
「……ふーん」
「それとこれが一番重要なんだけどさ。紅理が可愛かった。ちょっとしか出てないけど一番好きかも」
「っっっ……! ふ、ふーん? ま、まあ悪い気はしないわね?」
「ほら、すっごく可愛い」
これらの誉め言葉、機嫌を取ろうと思って捻りだした言葉ではなく、本当に思っていた感想だった。だからこそ気になったことを一つ。
「これ、続きある? めっちゃ気になるんだけど」
「……一応、プロットは出来てるけどぉ」
「よし、じゃあ出来次第それを読ませてくれ。そら、飯にしよう。折角作ってくれた飯が冷めちまう、
「ふふっ、そうね。それじゃあ早く席についていて。すぐ持ってくるから」
おう、とだけ返事すると手を洗うために洗面所へと向かう。これ、大事よ。と、電気が付いては消えてとパチパチしていたのを思い出した。電球もよく買い忘れちゃうよね。
——あっ、電球替えるの忘れてた。
「まっ、復活するからいいけど。——ほらね」
妄想は現実を越える! 杯東響時 @Hibiki15
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