第203話 彼女の決意!②
文化祭当日はこれぞと言っていいほど快晴だった。
装飾もたくさんの人たちのお陰で何とか形になっている。
校門の部分からは美術部の人々の協力。
そして、各教室へ続く案内などはQRコードを読み取ってもらい、各場所への行き方の表示。それだけではなく、紹介動画や模擬店ではメニューや価格なども動画で見れるようになっている。
すべて今年から導入されたものだ。
聖マリオストロ学園大学のメディア情報学部からの提案だった。
一時は大学側と瑞希くんの間で不穏な空気が流れたようだが、あの後、瑞希くん側がお膳立てした席で大手IT関連企業の社長と話をする機会があったらしく、その場で大学生側のプレゼンテーションを聞いたうえで、何人かを就職の面でピックアップする案が出たようである。
大学生はわざわざアイドル事務所に媚びを売らなくても、自身の人生設計を組み立てていく方法を学んだようである。
まあ、すべてにおいて瑞希くんが裏にいるのがなかなかの曲者なわけだが……。
これはお姉さんもうかうかしてられませんね……。
明らかに交渉役は弟の方が一枚も二枚も上手なんだけれど……。
さらには子どもウケという部分で、AR機能を使った「あの子と写真を取っちゃお☆」というものを行われた。これはアニメ会社協賛で行われたのだが、いくつかの出店場所を利用することによって手に入る追加QRコードを読み込むことで、新たなキャラ(模擬店の生徒写真)を手に入れることができるらしい。
とはいえ、こちらは肖像権の問題もあるので、ネット上にはアップできないようにセキュリティも掛けられているらしいが、一応、本人のスマホのみ保存が可能というものになっているし、学園敷地内でしかそのARが使用できないようになっているので、全国への拡散などは不可能のようだ。
こちらは将来的にイベント会場でのみ撮影ができるアプリとして見込まれているようだ。
で、ウチのクラスのARは、当然、遊里と橘花さんの猫耳メイド姿だ。
これが人気でウチのクラスのお店も繁盛して、休憩返上でクラスのみんなが対応する状況だった。
「大変だね……遊里。大丈夫?」
「うん! 大丈夫だにゃん」
ああ、大丈夫じゃないね。もう、正直疲れてるでしょ……。
だって、今、ここは裏方の場所だよ
クラスメイトも遊里に対して、心配した表情を投げかけている。
別に指名制ではないのだが、どうも遊里と橘花さんの人気が高すぎる。
時々、ナンパじみた言動をする客もいるようだが、そういう奴らはマジカルステッキで制裁を加えられることになっている。
「隼ぉ……。やっぱ、私、疲れてるかも……」
「遊里、大丈夫? ちょっと休んできたら? 私が代わりにしておくからさ」
「あぁ、雪香……ありがとう……。じゃあ、ちょっとお言葉に甘えるよ……」
遊里はそういうと目立たないように隣のクラスの空き教室に出ていった。
控室として使わせてもらっている場所で、着替えなどもここで行っている。
「ほら、隼くんも行って!」
「え? 何で? ボクは休憩時間じゃないよ!」
「違うよ。遊里は今、甘えたいんだよ……。今から30分はそっちの部屋には誰も行かないから、しっかりと遊里を甘やかしてあげてよ!」
「あ、うん……」
ボクもそそくさと隣の教室に向かうことにする。
入るとエアコンの風を受けて給水をしている遊里が立っていた。
「あ、いーけないんだー! 今は女子が使ってるところだよー」
遊里ははにかみながらボクに向かってわざとらしく言ってくる。
ボクはそっと遊里のもとに近づき、そっと優しく抱きしめる。
「あ、ダメだよ。結構汗もかいてるんだから! 汚いって! まだ身体、拭けてないんだから」
「気にしなくていいよ。彼氏なんだから……」
「彼氏だから気にしちゃうの! 隼の前では綺麗な私でいたいし」
「今のままでも十分に綺麗だし、可愛いって……」
ボクがそういうと、遊里は一瞬ボクから目線を逸らす。
頬を赤らめながら、目線だけはどことなく焦った感じ。
「ごめんね……。今日、まだ全然、遊里、甘えてなかったね」
よしよしと頭を撫でてあげると、彼女はそっと頭をボクの肩にぶつける。
「そうだよ……。今日、私、甘えなかったよ。でも、やっぱり無理だったわ……。私にとって隼は必要不可欠なんだよね……」
「身体の相性の問題?」
「違う! 今は心の問題? どうして茶化すの?」
「恥ずかしいから……」
「へぇ~、隼も恥ずかしがるんだ。じゃあ、もっと恥ずかしがらせ————」
———ちゅ…………。
冷房の利いた誰もいない控室で、ボクは彼女にキスをした。
唇が離れる瞬間。
はらりと彼女の瞳から涙がこぼれる。
え……。何で? その涙の意味は何……?
「あ、あれ? う、うれし涙かな……」
遊里は手で拭いながら、言葉を必死に紡ぐように言った。
「ご、ごめんね……。実は、私、隼に伝えなきゃいけないことがあるの……」
「ここで……?」
「……うん。早い方がいいと思って……」
ボクは遊里が優しい笑顔をしつつ、話し出そうとしていることを聞きたくないような気持ちでいっぱいだった。
でも、遊里が勇気をもって話してくれたそのことをボクは逃げ出さずに受け止めることにした。
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