第200話 猫耳メイド(ブラック)の憂鬱①

 衣装のフィッティングが終わり、ボクらはあと1週間に迫った文化祭を心待ちにしつつ、帰路に就いた。

 ボクの横には、いつも通り遊里さんが手を繋いで歩いている。

 さっきの猫耳メイド(ブラック)…本当に可愛かった。

 ついでにツンデレお嬢様感がある橘花さんの猫耳メイド(ホワイト)もなかなかいけてたなぁ…。

 て、翼もすごいことしちゃうよなぁ…。

 わざわざ自分の彼女のために猫耳メイド(ホワイト)の服を用意してしまえるというのが、本当にすごい。あれはオタク君の鏡だね。

 て、感心してる場合じゃないか。


「ところでさぁ…、今日の衣装、本当にあれで良かったの?」

「え。どういうこと?」

「だって、あの服、お腹や背中は薄いレースの生地になっているから肌が見えないという点ではいいんだけど、事実、身体のラインがその見えすぎるというか…」


 ああ、なるほどね…。そりゃそうだ。

 肌が見える見えないは別に水着ですでにビキニを着ている遊里さんにとっては、別段気にすることではないようだ。

 それよりも、文化祭という場で、あの衣装は性的にいかがなものなのか…? ということなんだろう。


「ちなみに入山先生は何か言ってたの?」

「肌の露出が少ないから刺激的だけど、別に構わないらしいよ。先生もすごく積極的だということだけは伝わってきたわ…」


 うん。あの入山先生があの衣装に対してOKを出すこと自体が凄いことだと思う。


「じゃあ、問題ないんじゃないの?」

「いや、そこじゃなくって、彼氏としての問題!」


 遊里さんは頬をプーッと膨らませて、ボクに抗議してくる。


「彼氏としてあの衣装を他の人たちに見られるのはどうなのってこと!」


 ああ、そういう意味か。まあ、確かに嬉しいかと言われれば、それほど嬉しいものではないというのが事実だ。

そもそも見せびらかすものではないだろうし、見せつけるというのは嫌かもしれない。

でも……、


「確かに見せびらかしたいという気持ちはないんだけれど、その…あまりにも可愛くてあの衣装で接客している遊里を見たくなっちゃったって言うのが本音かな…」

「何それ! もう! 彼氏なら、あんな衣装着ないで! とか言ってくれると思っていたのに…。目線はオタクなのね!?」

「あ、ごめん…。でも、本当に可愛かったから…。きっと翼も橘花さんに同じ印象を持っていたと思うよ」


 ボクの横で見ていた翼も、橘花さんに対して同じような感情を抱いていたような気がした。


「隼はズルいよ! 私に対して、可愛いって言うと私も喜んじゃうんだもん」

「じゃあ、言わないほうが良い?」

「そ、そんなこと言ってない…。もっと言われたいとは思ってるけど…」


 まあ、それが本音だろうね…。

 女の子は誰もがみんな、可愛いと言われて嫌がる子なんていないよね…。


「ところでさ、あの猫耳メイドのキャラクターってどんな感じなの? やるからには完コピまでいかなくても、似せておきたいと思うんだけど」

「え!? 本気で言ってるの?」

「うん。本気だよ。きっと翼くんも凛華にやらせようとするんじゃないかなぁ…」


 マジか…。

「マジカル猫耳メイド」というアニメが放映されたのは昨年のことだったと思う。

 たぶん、定額見放題の「アニメプライム」でまだ見れるようになっていたと思う。


「ここではあれだから、家で見せるよ…」

「え。ここでは見せれないようなアニメなの? エロなの?」

「違うって! エロだったら、宝急アイランドでキャラクターショーできないでしょ!」

「あ、そっか…。それを聞いて、安心したわ。服が破れる設定とか本当に嫌だし…」


 君はそんな凌辱ものを見たことがあるんだね…。

 大丈夫。エロじゃなければ、服が破れても、局部は見えないから。て、そういう問題じゃないか…。




 自宅に戻ると、リビングのテレビでアニメプライムというアプリを起ち上げ、その動画を再生する。

 所謂、美少女と魔法使いを合体させたような世界観で、悪い敵やその組織を壊滅させるために奮闘するというもの。

 シーズン2になってからは、猫耳メイド(ブラック)の相棒として、猫耳メイド(ホワイト)が登場し、さらに敵も凶悪化してきている。

 こういう美少女アニメのポイントとなる決め台詞は、


『愛と魔法の力で、絶対に悪は許さないんだニャン♡』


 あ、ちょうど猫耳メイド(ブラック)が言ってくれた…。

 それを見ていた遊里さんはボクのほうに振り向く。

 顔は少し涙目になっている。


「ほ、本当にこれ言わなきゃダメ…?」

「そりゃまあ、キャラになりきるって遊里が言い切ったんだしね…。発言を撤回しちゃうの?」


 ボクは少し彼女を煽るように仕向ける。

 遊里の性格で言うと、こういうこと言われたら、「やってやるわよ!」と言うだろうからね。


「ううっ……。や、やってやるわよ!」


 ホラね。ボクの予想した通りだよ。

 きっと、橘花さんも同じだろうね。翼に煽られて、やる気満々になっていると思う。


「で、でもさぁ…。隼は私がこの決め台詞とか聞いてみたい?」

「メッチャ聞きたい!!!」

「あはは…。すっごい食い気味で言ってくるね…。まあ、私、頑張るね…。はぁ…。もう少しこのアニメ見てて良い?」

「うん。いいよ。勉強するの?」

「そりゃ、不完全なままだったら、ファンの人に嫌がられても嫌だからね…」


 ボクは遊里を後ろから、そっと抱きしめて、


「大丈夫。遊里ならできるって。何だったらボクが練習を見てあげようか?」

「あはは…。何だか嬉しいような恥ずかしいような気がしてならないな…」

「まあ、あと一週間頑張ろうね」

「うん。私も頑張るね」


 遊里さんの顔から緊張の様子はなくなっていた。

 さあ、橘花さんの方はどうなったのかな…。あとで翼に連絡でも入れておくか。




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