第196話 決戦、数分前——。

 翌日には、瑞希くんが書類を持ってきてくれた。

 て、メチャクチャ仕事が早いよ。

 楓はいつもこんな仕事の出来る人間の横で生徒会副会長してるのか…。正直言って、大変な作業量をさせられてるんだろうな…。


「予算的にも、例年とほぼ変わらないくらいの金額で、花火も打ち上げれますし、あと、打ち上げ場所の設営もできるようにしました」

「え!? 普段だったらもっと金額掛かるじゃない!?」

「そうなんですけれども、ウチのよしみにしている業者で、複数年契約をする旨、話をしたら、値下げしてくれました」


 て、交渉までやってのけたのか…。本当に仕事出来るなぁ…。


「来年入学してから3年間、瑞希くんと楓の二人で生徒会をやってもいいくらいだね…」

「お兄ちゃん! さすがに私もそんなに長い間はキツイかと…」

「え…そう? ずっと生徒会室を牛耳れるぞ」

「いや、私たちは生徒会室を魔王城にするつもりはないから…」


そうなんだ…。牛耳っちゃえば、好き放題できるのにね…。

そう思いながら、書類をチェックする。数字や計画書に漏れもないようだし、業者の計画書まできちんとつけてあるあたり、本当に彼らしい仕事ぶりだ。


「これならいけるかも! ありがとう、瑞希くん!」

「いえ、別にそれほど気になさらなくても結構ですよ。それに打ち上げ花火は楓と一緒に見たいっていう自分の願望も含んでますから」


 本当に好きなんだなぁ…。ウチの妹のこと。

 こんなに無口なのに、顔は超イケメンで頭の回転も早い。

 ウチの妹はどちらかといえば、後輩想いでみんなとも気軽に話せる性格。

 それが高じて、付き合いだしたわけだけれども、妹の変な性癖も彼のおかげで影を潜めているし、まあ、妹が変態でなくなるのは兄としてもとても嬉しい。

 ただ、あっちのほうが好きなのか、それとも単に二人の時間を取って、愛を育んでいるのか…て、一緒か? まあ、いっか。とにかく、すぐに瑞希くんの家にお邪魔してしまっているのは、相手方にも失礼なのではないかと思っている。


「ちなみに楓がよく瑞希くん家にお邪魔しているけれど、迷惑かけたりしてない?」

「あはは…。そんな心配しなくても大丈夫ですよ。楓はすごくウチの家でも親しくしてますよ」


 あ、そうなんだ。でも、凛華さんの家でもあるんだから、本当に心配してしまう。

 しかし、そんな心配を他所に、瑞希くんはほんの少しだけ微笑んで、


「大丈夫ですよ。家ではお兄さんの前だから、自然体で居てるんだと思います。でも、俺の家では、楓は本当にきちんとしてますよ。まあ、俺と二人きりになって安全だと分かれば、少し気を緩めてくるんですけどね」

「そっか…」


 どうやら心配する必要はないみたいだ。

 ボクは見ていた書類を封筒にしまい込み、


「じゃあ、今から入山先生のところに行って、学園長に書類を出しに行ってくるよ」

「分かりました。今日、俺はこの後、用事があるので、ご一緒できませんが上手くいくことを願っています」


 ボクは瑞希くんのその言葉に、サムズアップで応える。

 任せて――――、と。




 職員室の入山先生に書類を見てもらう。

 書類の細かい点まで確認してくれていたようで、数字の部分などになると険しい表情をしていた。

 10枚ほどからなる書類のすべてに目を通し終えると、


「さすが、だな。よくもまあ、一日でこんな書類を仕上げてきたものだ。書類に書かれているところに矛盾する点はなかったよ。この辺は瑞希くんと業者に感謝しないといけないな」

「本当にそう思います」

「アイツら二人が生徒会に入ると、私の仕事は楽になるんだろうか…」

「むしろ、色々やりたいことを実践していくタイプだから、さらに大変になるんじゃないですかね?」

「う…それは困るな…。私の放課後の自由な時間…アフター5をどうしてくれるつもりだ…」

「いや、まあ、そんな酷いことはしないと思いますけれど…」

「でも、あの二人は本当に仲がいいな…。先日も中等部の校庭で見かけたけど、昼休みに二人でベンチで昼食とか、本当にリア充だな…。思わず後ろから爆発しろとでも言ってやろうかと思ってしまった…」


 先生。それは性格がお悪うございます…。もう少し、生徒の恋愛事情は穏便に見てあげるべきでは!?

 最初は意地悪い表情をしていた入山先生だったが、口元をふっと緩めると、


「だが、ベストカップルだと感じたよ。あれは誰にも勝てないくらいな。誰にも文句のつけようがないくらいにな…」


 まあ、成績優秀、スポーツ万能な美少年と美少女の組み合わせだ。

 それに加えて、瑞希くんは橘花財閥の御曹司、ウチの妹は水泳のジュニアオリンピックの強化対象選手だ。もちろん、きちんと結果も出している。これ以上、何をやれというんだ…。

 兄としてちょっと誇りに思えるぞ、妹よ。


「さ、本題に戻して、この書類を学園長に出しに行くんだろ? 今日は瑞希はいないのか…。じゃあ、私と二人で行くか」

「あ、はい!」

「ちなみに今日はもっと面倒なところに行くことになるけど、気持ちの準備は大丈夫か?」


 え。学園長室よりも面倒なところって何なんだろう…。

 そもそも有崎学園長そのものがかなり面倒といってもいいかもしれないんだけれど…。それを上回るとでも言うのだろうか…。

 ボクの不安をくみ取りつつも、入山先生はニヤリと笑って言った。


「理事長室だよ」


 うわあ。それは上回ったわ……。



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次話から更新が0時と12時に変更になります。

なお、リメイク前にアップされなかった作品となります。

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