第195話 盲点をついた奇策。
池…か……。池なんてあったかな…?
佐竹先生が言った「池で打ち上げた」という言葉に一同は頭を悩ませる。
そもそも今の学園には、池などというものは存在しない。
「入山先生は池の存在は?」
「昔は確かに不忍池というものがあったのは覚えているが、最近はその存在そのものを忘れていた…。今もあるかはわからんな…」
「この事務棟って学園を一望できますか?」
「ああ、できるな。確認しに行くか?」
願ってもないことだ。
ボクらは入山先生に連れられて、屋上に出ることにした。
屋上は広い聖マリオストロ学園を一望できた。
初等部や中等部、高等部に大学、すべての校舎を見ることができた。
先生は敷地の地図を広げてくれる。
「確か、不忍池があったのは、この事務棟の南側だな」
指さすところには、アクアマリーナが建っている。
「え!? もしかして、アクアマリーナが不忍池の跡地にできたんですか!?」
「ああ、確かにそうだ。排水などの面から考えたらその方がよかったからだと思うんだがな」
「じゃあ、その不忍池から打ち上げるっていう案は使えませんね」
「なるほど。隼はそれを考えていたのか」
「ええ、水上での打ち上げということに関しては、先日の夏祭りで打ち上げ花火が海上から打ち上げられているのを見ていたので、可能であることは分かっていました。それならば、この案が一番、可能なのではないかと思ったんで、佐竹先生に確認したんですけれど、すでに池は無くなってたんじゃ無理ですね…」
ボクは少しがっかりしてしまう。
まあ、上手くいくと思っていたからその計画が頓挫しかけてしまうと、普通誰だってへこんじゃうものだ。
遊里さんはボクの手を取って、
「大丈夫だって。きっと何か他の方法がある。諦めなければ、きっと叶うよ!」
「う、うん…。そうだね」
遊里さんが励ましてくれるのが一番頼もしい。
そこにズイッと入り込んでくる方が一人。
「隼? 遊里? 教師である私の前で、イチャイチャするんじゃねぇ~」
「「ひぃっ!?」」
さすがアラサー独身女の入山先生…。もう年季が入っていて、怖さが半端ない。
「どうせ、普段からもイチャイチャしてるんだろう…お前たちは」
「あ、分かります? 夏休みは隼の家で一緒に暮らしていたんですよ! 将来のためのことを考えて♪」
うん。天然女って本当に怖いな。ボクは本気で遊里さんが怖くなったよ…。
本当に悪気のない煽りを受けて、入山先生は意識が飛んでしまいそうな目をしている。
「ゆ、許せん! 学生という身分でありながら!!」
「そうだぞ! 遊里、そういうこと言っちゃだめだ。学生の間は過ちがあったらだめだからね。たとえ、同性愛であっても…。ですよね? 先生?」
ボクが遊里さんをたしなめるようにしつつも、遊里さんに加勢する。
入山先生はいつもの威厳は微塵も感じない、焦りの表情。
「い、入山先生?」
ボクが念押しで声を掛けると、
「頼むからもう言わないで…。イチャイチャしていていいから…。あ、でも、私の前だけはやめて…」
入山先生は大変大人しくなりました。
まあ、そりゃそうだよね。学生という身分でどうのこうの言われる筋合いはないような恋愛をなさっていたんですからね…。
「さあ、先生、本題に戻りますよ。落ち込んでないで、候補地を探しましょう」
「急に戻さないでよ…」
何やら不服そうな入山先生だが、敢えてこれ以上は深く入り込まないでおこう。
「他に候補地は何かあるか…?」
ボクはうーんと言いながら、地図を指でなぞる。
きっとどこかに答えがあるはずなんだけれど…。あれ———?
ボクはある場所で指が止まる。
「先生、ここって?」
「ああ、それは非常用の貯水池だ。これだけ大きな敷地になるから、きちんと消火栓は設置されているんだが、非常用の貯水池を設置してあることで、消火にも役立つからな」
「これって、運動場のさらに向こう側ですよね?」
「ああ……。て、お前、まさか!?」
「ここの貯水池って結構な大きさがありますよね?
「ああ、不忍池よりも大きいだろうな」
そこまで聞いて、瑞希くんもボクが言いたいことを察したみたいで、
「隼先輩、お手柄かもしれませんね。この貯水池はそんなに使用している頻度も高くないですから、申請さえ通れば使えると思います」
「じゃあ、瑞希くんは業者にこの位置でどうやって打ち上げができるかを至急、案を一緒に考えてくれないか?」
「分かりました! よし、楓も一緒に行くか?」
「え? う、うん! あ、待ってよ!」
瑞希くんは楓の手を取り、一緒に屋上を去っていった。
遊里さんはニコリと微笑んで、
「成功すれば、お手柄かもね」
「そうだな…」
ボクはいよいよワクワクしてきた。だって、打ち上げ花火が中止しなくて済みそうなんだから!
「ところで、隼…。あの中等部の生徒会長なんだけど…」
「あ、ウチの妹がどうかしましたか?」
「あれって付き合ってるよね…」
はい。もう、初体験どころじゃないくらい…。とは、さすがに言えない。
もう、先生の心配は打ち上げ花火ではなくなったようだ。
人の恋愛事情に興味津々の学園独身女教師となっていた。
「ああ…。私も素敵な彼氏が欲しいな…」
入山先生はがっくりと肩を落とし、屋上の柵にもたれ掛かった。
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