第194話 衝撃と疑問の狭間で。
「ねえねえ、これがそうじゃない!」
楓の元気な声に、一同は同じ方向に向く。
入山先生と米倉先生の現役時代の百合な関係のカミングアウト(本人曰く、あくまでも時効だとか…)のあと、入山先生の年度の段ボール箱は今後の参考にということで、橘花瑞希・楓の次期生徒会役員によって押収された。
そこからの再度、ボク達は段ボールの仕分け作業に追われていたのだが、ついに発見したのだ。
「おおっ! 確かにこれだな! 早速開けてみるか!」
入山先生は興奮気味に段ボール箱を開ける。
刹那、入山先生の表情は険しいものへと変わった。
その表情を見て、遊里さんが段ボールの中を覗き込む。
表情は同じく険しいものへと変わり、失望の表情が浮かび上がる。
「そ、そんなぁ……」
「ど、どうしたんですか…?」
「隼も見ればいい…」
ボクの問いに入山先生は段ボール箱の中を指さしながら、促してくる。
ボクは段ボールの中を覗き込んで、衝撃が走る。
「明らかに他のものより入っている書類の量が少ない…。それに――」
いくつか手に取るが、文化祭に関連するものはない。
そもそも入れなかったのか、破棄されてしまったのか分からない。が、とにかく見当たらなかった。
いくつかのファイルを見てみると、この年の生徒会をしていた人物の名前が記載されていた。
――佐竹京一?
ボクはどこかで聞いたことのあるような名前を見つけ、眉をひそめる。
「あーっ!? 佐竹先生じゃん!!」
そう。佐竹京一というのはボクらの日本史を担当している佐竹先生じゃないか!
て、佐竹先生ってもっと年上かと思っていたけれど、そんなに年上ではなかったみたい。
「ああ、本当だな…。佐竹先生も生徒会長をしておられたのか…。これは奇遇だな…。私は佐竹先生とは現役のころはお会いしてなかったが…」
「佐竹先生って結構、人に頼んだり、面倒くさがりだったりするから、もしかしたらこれも…」
「ああ、あり得るな…。きっとこの年の生徒会役員は多忙で死者すら出たかもしれないな…」
いや、笑ってる場合じゃないんですけれど。
死者が出てたら、それこそ問題になっていると思うんだけどね。
「正直残っていないに等しいですよね…。この書類の量だと…」
ボクのつぶやきに対して、遊里さんは、
「じゃあ、簡単なことじゃない! 佐竹先生に直接聞けばいいのよ! 私たちは日本史担当なんだから、コンタクトも取りやすいじゃない!」
「うん、そうだね!」
遊里さんは、ボクの肩にそっと手を添えてくれる。
ああ、やっぱり彼女は本当に心強い。
ボクの心の中で本当に強い支えになってくれている。
そんな気がしてならない。
「じゃあ、話は決まりだな。職員室に戻るとするか」
入山先生の号令でみんなが、旧校舎を後にすることにした。
瑞希くんと楓は、入山先生が生徒会長時代の段ボールを一緒に持ち出しているのだが、これは誰にも突っ込まれることはなかった。
職員室のドアをノックして入室する。
今日は始業式ということもあり、職員室もそこまで緊張する場所ではなかった。
ボクと遊里さんと入山先生は、佐竹先生のデスクに向かう。
佐竹先生はパソコンを使って教材づくりにいそしんでいた。
「佐竹先生!」
「おお、清水と神代か。どうしたんだ?」
若干無精ひげの生えた顎を指で弄りながら、こちらに振り替える。
「先生って昔、生徒会長をされていたんですよね?」
「ん? ああ、そうだな…。て、まあ周りの人間がほとんどやってくれていたから、俺はほとんど何もしてなかったけどな…」
ああ、それは段ボール箱を見て、存じ上げてます。
と言いかけた言葉を無理やり飲み込む。
「一つだけ、お伺いしたいことがあるんですが、記憶を遡っていただけないでしょうか?」
「え…? 細かいことは本当に止してくれよ。本当に周りにさせてたから、細かいことは覚えてないからな」
本当に大丈夫かな。
あまりにも念入りに覚えていないと連呼されるとこちらとしても不安になってしまう。
「佐竹先生」
「おお、入山先生! 先生は確か文化祭実行委員の顧問をされてましたね」
「ええ。そのことでこの子たちから質問があるのです」
「先生の年の文化祭って創立100周年記念のメモリアルでしたよね?」
「ああ、そうだな! 本当に面倒くさい年に当たったと感じてたよ」
「で、その時に花火を打ち上げられてますよね?」
「ああ、確かに打ちあがってたな」
うあ。すでに他人事感が半端ない。
この人、書類にハンコを押すだけのだめ会長だったのかもしれない。まあ、その数年後に百合な生徒会長も登場するんだけれど…。
「どこから打ち上げたか覚えてらっしゃいますか?」
「え!? それは細かい話だな…。うーん。確かなぁ………」
そう言うと、佐竹先生は頭を抱えてしまう。
本当にどこか覚えていない様子だ。もう、失望じゃないな。絶望だな、これは。
ボクがそう思いかけたとき、
「確か、池の方から打ち上げてたと思うな」
「池…ですか?」
「ああ、そうだ。今の旧校舎の近くの運動場は消防の観点からダメだということで、もう少し離れた池に打ち上げ台を設置して、そこから打ち上げてもらってた記憶があるな」
「池ねぇ…」
ウチの学校に池なんてあったかな…。
ボクらは再び、迷宮に押し戻されたような感覚に悩まされたのだった。
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