第192話 懐かしの最強コンビ復活!

 ボクらは何も言えなくなってしまった。

 そりゃそうだ。入山先生の過去は予想以上に深くて、重いものだったのだから。


「あはは…。そんなに暗くなる必要はないぞ。私はもう吹っ切れてるからな…」


 入山先生はごく普通の表情をしてそうは言ってくれるが、でも、ここまで話をしてくれたなら、きっと心中穏やかではないだろう。


「ちなみにその年に花火大会はできたのですか?」

「あ~、残念ながら、理事会で通らなかったよ。まあ、亜紀が亡くなったあと、私は少しだけ自暴自棄になりかけていたからな…。その時に副会長代理として生徒会に入ってくれたのが、米倉先生だったってわけ」

「ええ!? 米倉先生がですか? 結構、ポンに見えそうなのに…」

「ん~? 私がどうかしたのかなぁ~?」


 ボクの後ろにはコメカミのところに血管をピキピキと浮き立たせながら、米倉先生が立っている。


「本当に失礼しちゃうな! 私だって、やるときはやるんだから!」

「まあ、確かに美由紀はできないことでもやろうとして、周りが振り回されていた記憶は良く残っているけどね…」

「しぃちゃん…そんな…! 生徒の前なんだから、もう少し花を持たせてくれてもいいんじゃないかな…」


 あ、入山先生もやはり高校時代に苦しめられたってことか。


「て、まあ話を元に戻さないと。花火大会、実施したいんでしょ?」


 米倉先生がボクらの前で仁王立ちする。腕組みをすると、胸がたゆんと揺れる。


「ん?」


 遊里さんがジト目でボクを睨みつけてくる。

 あ、見てないよ! 見てないからね! お願いだから、あとでさらにエロいことしてくるのは止めて…。


「これまで通りの新校舎のグラウンドで打ち上げられないとなると、確かに困るわよねぇ…。でもね、ヒントになりそうなものがあるのよ」

「え!? どこにですか?」


 米倉先生のもったいぶった言い方に、ボクはその答えが欲しくて、縋り付こうとする。

 すると、米倉先生は自分の後ろの方の窓側を指さして、


「うふふ。旧校舎によ!」


 ボクらはポカーンとした表情をする。入山先生だけは、何かに気づいたような表情をした。


「米倉らしいな…。過去の打ち上げ場所を調べるってことか?」

「そういうこと! 確かにウチの学園の花火大会は10年前、つまり、私たちの次の代から始まったんだけれど、それまでにも数回行われてるのよね。だから、その打ち上げ場所をきちんと紐解けば、候補地が見つかるんじゃないかしら?」


 米倉先生はボクらにひとつウィンクをしてみせる。


「ん?(ピキピキ!)」


 はいはい。だから、ボクは米倉先生にウィンクされて喜んでないから、遊里さん。視線がメチャクチャ冷たいですよ…。

 いい加減、彼氏を信じてもいいんじゃないですかね?




 旧校舎は木造3階建てで、現在は使用されていない。

 旧校舎から移転されてからすでにもう8年ほど経っているものの、文化財保護の観点からであろうか、清掃などが行き届いており、綺麗なままであった。


「懐かしいな…全然変わってはいない」


 入山先生は感慨深げだ。米倉先生は少し険しい顔をしながら、入山先生を見ている。


「でも、しぃちゃんは来ない方がよかったと思うんだけどな…」

「ん? どうしてだ?」

「だって、今から生徒会室に行くわけじゃない?」

「あ~、そのことか…。それならば安心していいよ。もう、こいつらにも亜紀の話はしたし、自分の中でも今回の花火大会を中止にしたくないという思いから動いているから…」

「まあ、しぃちゃんがそういうならいいんだけどね…」

「てか、美由紀まで私のことをその呼び方で呼ぶな…。生徒の前なんだから…!」

「えー、しぃちゃんはしぃちゃんでしょ!」


 そんなやり取りを見せられているボクらはどんな反応をすればいいのだろうか。

 仲がいいですね? とでも言うべきだろうか。


「ちなみに旧校舎の中を使えるのは今日だけしか許可が取れていないから、今日中に何とかしないとやばいよ?」

「まあ、それは仕方ないだろ…。むやみやたらに生徒に出入りさせるわけにもいかないからな…」


 まあ、そりゃそうだな。ここはもう重要文化財に登録されることが確定しているのだから、あとは、資料類を別の倉庫に移管させる作業を行うことになるだろう。

 とはいえ、きっと過去数十年分の生徒会の書類とか、移動させるだけでも大変だろうな…。

 て、今から、それと戦いに行くわけだけれど。


「さあ、ここよ」


 米倉先生は一枚の横開きの扉の前に立つ。

 そこには「生徒会室」と書かれた札が扉に貼り付けられている。

 米倉先生は持っている鍵で扉をあけ、ボクらも一緒に流れについて入室する。


「本当に懐かしいな…。変わっていない…。いくつかの物の場所は変わっているが、ほとんどがあの当時のままだな…」

「はいはい。感慨に浸っている場合ではないのだよ…しぃちゃん。残された時間は短いのだから…」


 米倉先生にたしなめられると入山先生は「ごめんごめん」と謝って、少し埃の被った机を手で撫でていた。

 その机は生徒会長の席ではなく、副会長の席だったのだけれどね…。




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