第189話 やり残した宿題①(入山静香side)

 11年前――――。

 生徒会室(旧校舎)で生徒会長の私と副会長の栗山亜紀は文化祭の予算に関して話し合いをしていた。

 聖マリオストロ学園の文化祭ともなるとその規模はかなり大きなものとなり、それに合わせて予算も莫大なものになる。

 とはいえ、ここ数年、来校してくださる一般客の数が減ってきているのも事実であった。

 聖マリオストロ学園の文化祭は多くの企業も協賛してくれているので、多くの一般客にその企業PRをしてもらう場にもなっている。

 だから、そのために企業が寄付という形でこの文化祭を支援してくれているわけだ。

 けれども、一般客の数が減ってくれば、学園の文化祭そのものに魅力が薄れてくることになり、それと同時にスポンサー額が下がったり、協賛してくれていた企業が離れてしまうということも十分に考えられる。

 ここで一発、文化祭に対して起爆剤を投入せざるを得ない事態になりつつあるという危機感はあった。


「なあ、亜紀?」

「どうしたの? しぃちゃん」

「う…。いい加減、そのしぃちゃんって呼び方は止めてくれないか? 私にとって柄でもないというか…」

「そんなことないよ。私は知ってるものしぃちゃんが実は『乙女』だってことを」

「……うるさい……。ことは絶対に言うなよ…」

「分かってるって♡」


 亜紀は私の良き理解者だ。

 私が生徒会選挙に立候補するといったときは、すぐに応援に回ってくれて、当選した後に私が一人では心細いと相談したところ、即決で「副会長をしてあげる」と言ってくれた。

 私にとっては彼女は、本当に心のよりどころとなっている存在であった。


「で、どうかしたの? しぃちゃん? て、また言っちゃった!」

「……もういいよ。無理して言わないでおこうとする方が大変だろうから、亜紀は言ってもいいよ」

「わーい、ありがとう♡ で、何の話だっけ?」

「あ、また脱線したな…。いや、最近、ウチの文化祭の来客数が減少傾向にあるっていう話があったじゃないか」

「うん。まあ、どこもかしこも文化祭はほぼ同じだからねぇ~。近くにあるフェストゥス女学院は結構可愛い生徒が多いから人気が高いみたいだよ」

「まあ、駅でも見かけるけれど、あそこは超お嬢様学校だからな…。可愛い子がたくさんいるだろう…。そんな女子校に一日でも入って文化祭を味わえるのなら、客数も増えるだろうな…」


 私が亜紀の話に納得していると、亜紀は顔をパッと開かせて、


「ねえねえ、ウチにも可愛い子はいるんだから、そういう子たちでカップル作って、一日一緒に回れるようにしちゃう?」

「亜紀、お前は何を考えているんだ? そんな水商売みたいなことを強要できるわけがないだろ…。ウチの学校の品位が下がるぞ、品位が」

「うーん。良い方法だと思ったんだけどなぁ…」

「いや、それにそういうのを目的に来る変な輩が増えたら、警備なんかが大変になるぞ…。私もお前も文化祭は雑務に追われて楽しめなくてもいいのか?」

「あぁん! そんなのイヤっ! 私は今年回りたい人がいるんだから!(プンプン)」


 さすがに高校3年にもなって、プンプンとかいう女子がいるとは思わなかった…。

 そっか。亜紀には彼氏がいるのか…。


「ならば、そんな大変な状況を生み出す企画は止めるべきだと思うぞ」

「あい…。そうします」


 うん。反省するのは素晴らしい。

 とはいえ、いつもコイツは抜けているというか、猪突猛進で走ろうとするというか…。

 とにかく読めない行動が多すぎる。


「じゃあ、他に案がないか考えないといけないな…。こう人が集まるような企画でもいいから、ドカンと大きな花火を打ち上げたいんだがな…」

「それ、いいじゃない!」

「……え?」


 私はまだ何も企画は言っていない。何が良いのだろう?

 本当にコイツの行動は読めない。


「花火だよ! しぃちゃん、自分で言ったじゃん! 花火を打ち上げたいって!」

「ああ、それは人気のあるイベントをして、みんなに注目してもらいたいって意味で言ったんだぞ」

「あ、そうだったの? でも、私は文化祭のフィナーレに花火が打ちあがるのはロマンチックだと思うなぁ~」

「そうなのか? でも、花火は高いんじゃないのか?」

「うーん。でも、Youtuberの人がやっていたのでも打ち上げていたから、それほど大規模でなければ、100万くらいあれば行けるのかな…」


 はぁ…。やはり抜けているのか!?

 亜紀はいいとこのお嬢様でバックボーンもあるから、そのくらいのお金と考えているのかもしれないが、こちらの予算としては大変な金額になる…。100万円を捻出するのは大変だ。

 それに――――、


「資金が用意できたとして、どこで打ち上げるんだ? ウチにはそんなに広い場所はないぞ」

「まあ、運動場がベストなんだろうねぇ」


 まあ、そりゃそうなるか。

 とはいえ、本当にそれを実現できれば、一般客は増えるのだろうか…。


「そんなに花火って見たいのか?」

「そりゃ、見たいと思うよ。だって、文化祭のあとに好きな人と二人で見る花火ってロマンティックじゃない」


 そんなものなのか…。

 まあ、亜紀がそこまで言うのなら、企画として提出しても面白いかもしれない。

 やってみる価値はあると思う。


「ま、亜紀がそこまで言うのなら、私は亜紀の言葉に賭けてみるよ。早速、企画書づくりをしよう」

「うん! しぃちゃんと二人きりでお仕事楽しい!」


 亜紀は席に着いている私を後ろから優しく抱きしめてくれる。

 とても恥ずかしい。どうして、時、あんなことをしてしまったのだろう…。

 私は軽く一息ついて、彼女の手を優しく掴む。


「さあ、早速、資金の調達方法などから概要を作っていくぞ」

「うん、分かったよ! しぃちゃん!」


 うーん。やっぱり、そのしぃちゃん、何とかならないかなぁ…。

 私はそう思いながら、生徒会室のノートパソコンを起動させた。





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