第187話 有崎学園長は懐かしみたい。
ボクは視聴覚室で遊里さんと一緒にその問題に悩んでいた。
その横には瑞希くんと楓、そして入山先生までもが一緒に難しい顔をしていた。
まあ、確かに難しい問題であることはボクも分かって手を挙げたんだけどね…。
「ねえ、隼…。本当にどうにかなるものなの?」
「…うーん…正直分からないなぁ……」
ボクは隠しても仕方ないので、本当の気持ちを吐露する。
「でもさ、何かしてあげたいじゃない? 花火を心待ちにしている人がいるし、折角、花火業者の人たちもそういう心待ちをしている人のために製造から設置、打ち上げまでやってくれるわけだから、何だか、このまま放ったらかしで、そのまま『はい、できませんでした』なんてことになりたくないからね。みんなの悲しむ顔を見たくないだろ?」
「……う、うん……」
ボクが力強くそう訴えると、なぜか遊里さんは顔を赤くしてしまう。
ん? 何でだろう? ボクが何かをしたかな…。
「それにしても、だ。清水、お前本気で何とかしようと思ってるのか?」
少し不安そうに入山先生がボクに訊いてくる。
そりゃそうだよね…。旧校舎が重要文化財に登録されたともなると、そう簡単に花火なんか打ち上げてしまったら火の粉で大問題だ! と言われるに決まっている。
「そうですね…。まずはお話を聞かないと分からないと言ったところでしょうか…」
「お話を聞くって………まさか、お前!?」
「あ、そうです…。学園長に話を聞いてみないことにはね?」
「一応、俺も付いていきますね」
学園長とは面識のある瑞希くんがサポートに入ってくれるとなると、安心することができる。さすがに一人で交渉ともなると、そんなに上手く話せそうにないから、困ってしまうところだ。
しかし、そんな考えのボクに入山先生は、艶やかなロングストレートの黒髪をさらりとかき分け、
「まあ、あんまり期待しない方がいいぞ…。学園長はかなり固い方だからな…」
「何か知ってるんですか?」
「………………」
ボクの問いに、入山先生は苦虫を潰したような顔をしながら、ボクを見下ろす。
一瞬、静寂の時が訪れた。
しかし、その空気の重さに耐え切れなくなったのか、入山先生はため息をひとつ吐きだし、
「私の元担任だった人なんだよ…。いつの間にか、学園長なんかまで出世したけれどね…。まあ、色々とやり手なんだよ」
ボクが瑞樹くんの方を見て、「そうなの?」と小声で言うと、「ええ、まあ、面倒な方ではあります」と一言だけ返ってきた。
あー、面倒くさい人なんだ…それは嫌だなぁ…。
「うーん…。本当はとてつもなく嫌なんだが、私もついていくことにするよ」
かなり嫌そうな表情で腕組みをしたまま、入山先生は仁王立ちのまま微動だにしなかった。
てか、動きたくなかったのかも…。そんなに嫌なんだ…。
学園長室は事務棟の最上階に設置されていた。
正直言うと、ボクも事務棟に来たことはあるけれど、学生証絡みの関係で何度か来ているけれど、それは受付で済ませたくらいなので、わざわざ中にまで入ったことはなかった。
学園長室までは入山先生が先導して連れて行ってくれる。
エレベーターで6階まで上がり、重々しい扉がある。
うーん。何だか、RPGの最終ボスみたいな重々しい扉だなぁ…。
入山先生は木で造られた重々しいドアをノックする。
「高等部国語科教諭の入山です。入ります」
いつも以上にピリッとした空気感を出しながら、ドアを開ける入山先生。
ボクと瑞希くんもびくりとする。いや、瑞希くんは何度かここにきてるんじゃないの? 生徒会なんだからさ…。
「あら! しぃ~~~ちゃ~~~ん!」
聞こえてきたのはこの緊張感に場違いな明るく陽気なおばさまの声。
え、何なに!?
ボクにとっては一体何が起こったのか正直分からないでいる。
「有崎先生…いえ、有崎学園長、その呼び方は生徒の前ではぜひともお控えいただきたいです」
「あ、今日は生徒さんと一緒だったのね…。まあ、いいじゃない。私としぃちゃんの仲なんだから♪」
あー、何となく入山先生が嫌がっている理由を理解できたわ。
学園長から可愛がられ過ぎてたのね…。だから、近づきにくい存在となっていたわけだ。
「あら、そちらは橘花さんのお坊ちゃまね。こちらの方は初めてかしら…?」
「あ、はい! 高等部2年の清水隼といいます」
「まあ、そんなに緊張しなくてもいいのよ…。さあ、こちらにいらっしゃい」
入山先生の腕に抱き着きながら、スリスリする学園長はボクと瑞希くんを応接セットの場所に案内してくれた。
ボクと瑞希くんは二人掛けのソファに腰を下ろし、その対面に入山先生が座る。
一番上座の部分に、有崎学園長がボクらの後に続いて腰を下ろす。
「で? しぃちゃんはこのタイミングで何をしに来たの? まさか、文化祭のこと?」
「う……。え、ええ、まあそうなりますね…」
有崎先生って人の考えを見抜くような能力でもあるのだろうか…。
ボクはいつもの堂々とした印象の入山先生とは異なる印象に衝撃を受けつつ、やり取りを見ていた。
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