第186話 後夜祭を守りたい!
小・中・高・大と順にどういった内容のことをするのかが読み進められていき、丁寧な確認作業が行われる。
こういった事務的な仕事をするのが文化祭実行委員の仕事だ。
まあ、面倒な仕事をこちらが行い、生徒たちには準備をしたり、しっかりと本番で力を発揮できるようにサポートしていくというのがボクらの仕事になる。
その読み上げ確認作業が行われた後、高等部の生徒会長がおもむろに立ち上がって、一言付け加えた。
「あと、今年の文化祭ですが、後夜祭の花火が開催できなくなりました」
周囲がざわつく。
そりゃそうだ。聖マリオストロ学園の文化祭で最後に一番盛り上がる花火をできないというのはどういうことか。
「業者の問題ですか!?」
「予算削減をしたからですか!?」
「あれを楽しんでいる方々は多いんですよ!」
あちこちから非難の声が集中する。
とはいえ、生徒会自体が何か悪いことをしたわけではないだろうから、彼らを責めるのは間違っているように思う。
そうボクが思っていると、入山先生が椅子から立ち上がり、生徒会の前に立ちはだかる。
あまりの迫力に一同は一瞬にして言葉を噤んでしまう。
「そのことについては私から説明させても合う」
入山先生は普段と変わらない様子で、視聴覚室の演台の真ん中に立ち、
「旧校舎が重要文化財に登録されることになったんだ…。だから、消防などからの指導で花火大会の実施は出来なくなってしまったんだ」
旧校舎。
初等部や中等部の生徒会実行委員の子たちにはいったい何のことか分からないといった様子だが、ボクら高等部の人間は学園の歴史について、学ぶ授業の際に聞いたことがある。
ここ聖マリオストロ学園は明治時代に初代学園長であるエリス・マリオストロによって創設された。
その際に造られて、第二次世界大戦後まで使用されていたのが、木造3階建ての旧校舎と呼ばれるものであった。
ボクも何度か訪れたことはあったが、何度かは修正が行われているものの、木造の校舎ということもあって、趣があり、戦時中やそれ以前のドラマや映画の撮影でも使用されたことのある校舎であった。
その校舎がいよいよ重要文化財に登録されることになったわけだ。
重要文化財に登録されれば、きちんとしか管理も必要になってくるわけだが、そのことで花火をするのは火災の点で危険を持っているから、ダメになったのだろう。
とはいえ、すでに花火も発注してしまっているのではないだろうか。
もうすでに1か月を切っている状況下でこれはさすがに学校としても決定が遅くないか?
ボクがそう思っていると、やはりというべきか先輩たちが予算横領をバラされた腹いせか、罵詈雑言をぶつけてくる。
「これだから、中等部や高等部に任せておくと困るんだよ」
「予算の無駄が発生していると思うんですけど?」
「前と同様に理事長から裁定を希望するな」
「それとも自分たちの予算からこの赤字を削るのか?」
まあ、正直言うと、子どもかよ、と。
正直、文化祭実行委員になった大学生って本当にこのレベルの国語力しかない人なのか!? この程度の知能しか持ち合わせていない人なのか?
入山先生も腕を組みながら、その生徒を睨みつけると、大学生が静かになる代わりにその煽りともいえることばに周囲が動揺し始める。
「さすがに重要文化財の近くで花火は問題あるもんねぇ…」
遊里さんもさすがにこれにはお手上げだよ、という感じだ。
でも、ボクはすでに発注された花火を無駄にはしたくないし、何かしら方法があるのではないか!?
ただ、これ以上はどうすればいいのか分からない。今は分からない。
いや、でもみんなが期待しているものを潰すのは何だか心苦しい思いしかない。
何とか今年も後夜祭の花火を実現してあげたい!
その思いをボクが強く思った瞬間、身体が勝手に動いていた。
ボクは居ても立っても居られない状況だったんだと思う。
だから、だから、身体が勝手に動いていた。
「すみません! 発言いいですか?」
入山先生の「どうぞ」という声の後に、ボクが席を立ちあがり、演台に向かって叫んだ。
「あと、数日ください! ボクが…何か方法がないかを考えてみます!」
「ちょ、ちょっと!? 隼!? 本気で言ってるの!?」
「う、うん。本気だよ!」
心配する遊里さんに対して、ボクは力強く頷く。
ボクは正直どうすればいいのか、まだ分からない。
闇雲に手を出すことではなかったのかもしれない。
しかし、後夜祭の花火が学園で一番人気のあるフィナーレだ。そして、ボクは今年、遊里さんとそれを一緒に見たいという気持ちもあった。
きっと、同じ気持ちを持っている人だっているはずだ。
そんな人たちに文化祭実行委員は何て説明するんだ?
説明なんて不可能だ。
ボクらはそんな言葉を今は持ち合わせていない。それならば、出来る限りのことをしたい。
だから、ボクは手を挙げた。
大学生からはボクに対して侮蔑にも似た言葉がいくつか投げかけられたが、ボクは気にも留めずに真正面を見た。
その時、瑞希くんと目が合った――。
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