第180話 愛のバランス
「すっごく可愛いところ見せちゃってくれるんだから…遊里は」
その声にボクも聞き覚えもあったし、遊里さんは止めどなく動揺をしてしまう。
「雪香…どうしてここにいるの!?」
遊里さんは二葉さんに指をさしながら、プルプルと震えている。
「どうしてって…遊里の彼氏とイチャラブしている女の顔を見たかったから…。じゃ、ダメ?」
「も、もう…恥ずかしいから、言わないでよ……」
あらら、本当に恥ずかしがってる。
遊里さんはボクの背中に抱きついたまま、顔を背中に押し付けてくる。
背中は彼女の温もりというか、かなり熱い体温すら感じる。
「そ、そんなに私、メスの顔してたかな……?」
「うん。もう、バスの中からデレデレだったじゃない?」
「ええっ!? バスの中から見てたの!?」
「うん。横にいてたわよ…。何だか中等部の生徒会長と副会長もイチャイチャしてたのも知ってるけど…」
あ、それはウチの妹ですね。ごめんなさい。
て、そこまで知ってるなら、彼女を暗がりでスッキリさせたところも…見てたの!?
「一瞬、遊里がお手洗いに行ったから、まあ、声掛けなくてもいいかと思ったんだけどね」
はぁ…見られてなかった。
いや、そういう安心感はどうかと思うけれど。
「でも、また見つけちゃった。イチャイチャしてるところ♪」
二葉さん…。確か、付き合ってる人がいたんじゃなかったっけ…。
「雪香もこの間話していた彼氏と一緒に来てたりするの?」
「え…ええ、まあね」
二葉さんはほんのりと顔を赤らめ、隣りに立つ青年に寄り添う。
あれ、この人、さっき、援護射撃してくれた人。
「あ、どうも、こんばんは。兄がお世話になっています。百合山柊です」
「お、お兄ちゃんを上回るカッコよさだね…」
「あはは、よく言われます」
言われるのかい!
お兄ちゃんが聞いてたら、泣いちゃうだろうが…。
「ひぃくんとは昨日、バスケの遠征から帰ってきた日に告白してね。彼からもOKをもらっちゃったの♪」
「もう、雪香さん、人前で言わないでくださいよ。恥ずかしいんですから…」
二葉さんお惚気に少し困る柊くん。
なんか、この初々しさ、懐かしいな…。
ボクも遊里さんと付き合い始めたときはこんな感じだったかもしれない。
ボクも彼女から告白された。
だから、自分から何かしてあげなきゃ、ていう気持ちが凄く強かった。
そんなにうまくいきっこないのに、彼女のサポートをしようと振舞ってみた。
そんな時に言われた言葉をボクは今も覚えている。
「もう、ひぃくんったらそんなに緊張することないのに」
「いや、普通に学校でも先輩の人たちですよね? そりゃ、緊張しますよ」
「あはは…柊くん、初々しいな…。きっと、二葉さんが分からないことは教えてくれるから安心してついていきなよ。それに逆もまたきっとあるだろうから、その時は受け止めてあげてね」
ボクがそう言うと、柊くんは一瞬ニコリと微笑み、
「分かりました。大先輩からの大切な助言ですから、しっかりと彼女を守りたいと思います」
「いやんっ! ひぃくん、カッコよすぎ!」
二葉さんは照れてしまう。
そこにニヤニヤした遊里さんが近づき、
「私は雪香のメスの顔が見れたから、これで大満足かな…。さっきのことは全部水に流してあげる」
うわあ。こっちのカウンターパンチで完全に二葉さんノックアウトでしょ。
「柊くん、ぬいぐるみ、協力プレイありがとうね♪ ありがたく貰っちゃうわね。それと――」
遊里さんは、ボクに抱きつくように甘えながら、柊くんを見据えて、
「雪香のこといっぱい愛してあげてね。この子、地は寂しがり屋だから…」
そう言って、ウィンクして見せた。
柊くんは呆気に取られて、「あ、はい…!」としか言えなかった。
「じゃあね、雪香♪ もう、邪魔しないでね。二人の時間なんだから。いいね?」
ちょっと怒気を含んだ声で彼女は二葉さんに言い聞かせる。
二葉さんはムーッと頬を膨らませ、
「私だって、ひぃくんを虜にさせるんだから!」
うん。負けず嫌いだね。
でも、ボクはその時の柊くんの表情を見ると、伝わってきた。
柊くんも二葉さんのことをすごく思ってくれている、そんな表情だったんだから。
ボクらは縁日を色々と見ながら歩く。
高校のクラスメイトたちにも何人かに会うが、出会うたびにそのイチャイチャ具合に、逆に顔を赤くして距離を取ってくれる。
それの連続だ。
本当にお祭り前に派閥闘争が終わってよかった。
終わったからこそ、こんなに嬉しそうな顔をする遊里さんを横に見ながら、お祭りを一緒に歩くことが出来るんだから。
ボクが彼女を見ていると、その視線に気づいた遊里さんは、
「どうしたの? 私の顔に何かついてる?」
「え、ううん。そんなことないよ」
「もう、じゃあ何なんなの?」
「いや、さっきの二人、すごく初々しかったなって…。思わず昔の自分を思い出しちゃったよ」
「あ、昔のかぁ…。何だかそれはそれで少し恥ずかしいよね」
「そう? ……そうだね。ボクもちょっと恥ずかしいかも。あの頃は必死だったから…」
「そうだよ! 隼はいつも必死になって私に接してくれていたよ。普段、学校とかで接することができない分…」
「だから、君がボクの部屋で言った一言を今でも覚えているよ」
「え…。私、何か酷いこと言っちゃいましたか!?」
「ううん。そんなことない。遊里がボクに言ったのは―――、
いつでも私の前では自然体でいてください。私も自然体でいたいんです! 学校で自然体になれない分、ここでは自然体にさせてください。甘えさせてくださいってね」
ボクがそう思いだしながら言うと、彼女の頭からシュ~と湯気が立ち上る。
顔を真っ赤にして、
「わ、私、そんな恥ずかしいこと言ったの!?」
「え、うん。そうだけど…」
「も、もう、今聞くと恥ずかしすぎて死ねる…」
「あはは…そこまで?」
「隼は記憶力が良すぎちゃうんだよ! 今後は私の許可なく思い出を語っちゃダメ! 絶対に私、恥ずかしいこと言ってるの自信あるもの…」
どんな自信だよ、それ。
ボクは彼女の頭を撫でて、微笑みかける。
「隼は本当にズルい! 私をいつもキュンキュンさせちゃうんだもん♡」
あ、逆にそう言うの止めて、ボク、弱いから…。
ボクは遊里の甘え上手に弱い。遊里はボクからの甘やかされに弱い。
それでいいじゃないか。
だって、相思相愛ってそうやってバランスが取れたことをきっと言うんだから。
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