第179話 遊里さんはお祭りデートを楽しみたい!
ボクと遊里さんは再び、唇を重ねていた。
それは余韻を楽しむように。
「ご、ごめんなさい。つ、つい…その、恥ずかしいことを」
「あはは…。いや、ボクもつ、つい本気でやってしまった…」
「え、ええ…その、物凄く気持ちよかったよ♡ 久々というのもあって…」
やっぱりそうだったのか。
久々過ぎて、甘々な言葉に彼女の中の理性が吹っ飛んだのか。
さすがに遊里さんは、人前の目立つところで進んでやるタイプじゃないから、こういうことはないと思っていたけど。
「そ、その…あ、あの…言葉って…」
「ん?」
「あ、いえ…、別に後でいいよ」
どうしたんだろう…。まだ、物足りなかったのかな…。
ボクは彼女の手を取り、ゆっくりと立ち上がらせてあげる。
彼女は着崩れた浴衣を再度着直して、髪型も整える。
「これで、大丈夫かな?」
「うん。可愛い」
「あぅん♡」
まあ、さっきイったばかりだからね…。そりゃ、こういう反応もするだろう…。
て、そうではないのかな…。
「隼…今日はすごく私の心をキュンキュンさせてくるんだよね…。私、本当に嬉しいな♡」
ボクの耳元で甘く囁く彼女。
ボクとしては囁かれる以上に耳に吐息がかかるのが、恥ずかしくなってしまう。
で、でも、ボクだってカッコいいところを見せたいという気持ちは強い。
少し前に二人で温泉旅行に行った時もそうだった。海水浴の場所でカッコいいところは見せたと思うけれど、でも、それだけじゃあ、足りない。
「あ、あの…手を繋ごっか…。人通りも多いし」
ボクは勇気を振り絞って、彼女に手を差し出す。
遊里さんもボクの手の平に重ねるように手を繋ぐ。
「これで、私たち、お祭りを恋人デビューだね!」
そっか。
社会見学の後、ボクらが付き合っていることが学校で公にはなったけれど、それ以来、買い物に行ったりとかはしたけど、こんな感じで本格的なデートはしていないかもしれない。
そう言われて、初めて意識してしまう。
メッチャ、恥ずかしいじゃん!!!
顔を赤らめてしまうボクに対して、それを意地悪な笑みを浮かべながら覗き込む彼女。
こらこら、イジメるのはやめなさい。
「隼だって、そんな顔するんじゃない」
「だって、ボクら、こういうデートって初めてなんですよ」
「――――!?」
彼女もボクの気持ちを悟ってくれたみたいだ。ボク達がまともに外でデートしていないこと。
宝急アイランドや一泊の旅行には行ったけれど、お祭りなんかに気軽に来るような機会がなかった。
「私たちってものすごくインドア派だったんだね」
「いや、そうじゃなくて、単に外で付き合ってることがバラせなかったからでしょ?」
「えへへ、そうだったね…」
「でも…、クラスの派閥闘争が早く終われて良かったよね。そうでないと、今年の夏祭りもこうやってくることなく終わってたかもしれないよね」
「私も、嬉しいよ…。こうやって隼と一緒に来ることが出来て……」
「うん! 何だか、嬉しいよ。じゃあ、行こっか」
「はい!」
ボクは彼女の笑顔を見て、ほっと落ち着く。
最近はまったくこの笑顔に会えてなかったような気がする。この自然な笑顔に。
改めて見ると、青の浴衣が彼女の美しさと可愛らしさを前面に引き出すツールのようだ。
周囲からも彼女に対する視線はいつも熱い。
時々、何だかナンパ目的というか略奪目的な男性もいて、吃驚させられる。
あそこまで積極的だったら、もう、何かすごいね…。
何だか、ナンパなのか痴漢なのか分からない…。
彼女は寸でのところで、卑猥に触ろうとする男の手からすり抜ける。
そして、ボクはその腕を掴み、
「きゃぁぁああああ! 痴漢!」
うん。巧みなコンビプレイ。
周囲の人たちは一気にボクが腕を掴んでいる男に視線が集中する。
遠くからはポリスメンがやってきて、彼らを連れていく。
まあ、逃れようとしても、ボクの握力から離れられることはできないだろうし、最悪の場合、腕の一本や二本…いや、止めておこう。ボクがポリスメンのお世話になってしまうことになる。
「よく今のが避けれたね…」
「あ~、何となく来るかなぁ…って女の勘だよ」
「女の勘って凄いね…」
じゃあ、世の中の痴漢されてしまっている人たちはどうフォローしてあげればいいんだろう。
「もう! そんなことより、今日はお祭りを一緒に楽しむんじゃないんですか?」
「もちろん! じゃあ、何しよっか?」
「私、射的見てみたかったの!」
遊里さんは射的の方を指さしながら、ボクにお願いしてくる。
見てみたかったってことは、ボクがするってことなのかな…?
遊里さんがボクの斜め後方でワクワクしながら見ている。
「ど、どれを狙って欲しいの?」
「そうだなぁ…。あ、あのウサギのぬいぐるみなんて可愛いよね」
いやいや、普通に大きくて狙いようがないというか…。
ああいうのは絶対に倒れないようなものなんだよ…、て、射的を初めてするとかなると分かんないか…。
ボクは仕方なく、そのウサギのぬいぐるみを狙う。
やはり、弾は頭を狙えども、ぬいぐるみはふにょっと少し動くだけでもとに戻る。
まるでだるまみたいだな…。
「あれ、一緒に狙いませんか? あなたの彼女のために…」
隣に立っていた身長の高い少年がボクに囁いてくる。
いいのかな…?
「いいですよ…。ボクはもう欲しいものは取れたから」
心を読み取られているような感じがする人だった。
ボクと少年は一緒に射撃をして、ぬいぐるみを倒す。
「すごぉ~~~~~~い!」
遊里さんはボクの背中に抱きついてくる。
メチャクチャ嬉しそうなんだけれど。
「良かったわね。遊里」
「はい! 本当に……え……」
横から祝福の言葉を投げかけてきた人物に顔を向けて、彼女が固まってしまった。
遊里さんは口をパクパクと開けていた。
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