第177話 ヤンデレ女とデレデレ女
俊輔は何だか様子がおかしい。というよりも大人しすぎる。
ボクも遊里さんも俊輔と茜ちゃんを交互に見直す。
ボクは茜ちゃんに聞こえない程度に、遊里さんの耳元で囁く。
「ねえねえ、もしかして、茜ちゃんってヤンデレ?」
「うーん。私も初めて見たけど、もしかしたらそうなのかも…。私に似ちゃったのかなぁ~なんちゃって♡」
うん。多分、似ちゃったね。しかも、追い込まれるとメンヘラもばっちり出てきそうなレベルでね。
「先輩がお姉ちゃんのことを好きだったって言うのはお姉ちゃんからも聞いていたので、分かっています。でも、私、それでも先輩のことが、その…好きになってしまって…」
「あ、うん。俺も茜ちゃんのことが好きなんだよ…」
こんな弱っちぃのはボクの知っている俊輔じゃない。
「だ、だから、その私のこと一途に一生面倒を見てくれる準備は出来ましたか?」
ねえ、それって脅迫じゃない?
かなりのヤンデレだな…。
俊輔は冷や汗を垂らしながら、唾をゴクリと飲んでいる。
いや、大丈夫だよ。刺されたりしないからさ。
「俺も茜ちゃんのことが大好きなんだ。今日も、その…祭りに行けば会えるかなって思っていたから…」
「じゃあ、私のことを…」
「ああ、付き合ってくれないか?」
「一生ですよ」
「……おう! 絶対に離さない」
一瞬、間があったのは気にしちゃいけないんだよね?
茜ちゃんは怪訝な表情をして、
「先輩? さっき、何だか少~し間が開いたような気がしたんですけれど、私のこと嫌いになっちゃいましたか? そりゃ、私はお姉ちゃんと同じ顔をしてますけど、清楚な黒髪ですし、それほどお胸もありません。でも、遺伝子はお姉ちゃんとほぼ一緒です。何でしたら、お姉ちゃんのお胸はあれだけ揉まれたり吸われたりしていたら、きっと劣化します。これは間違いありません! でも、私のお胸はそれほど大きくないので、いつまでも劣化することはありません。いえ、むしろ、先輩がこれからいつもマッサージしてくれたらきっと大きくなります。私、もし、そっちの方がお望みでしたら、毎日骨を強くするために飲んでいる牛乳を豆乳に変えることもできます! お姉ちゃんもいつも飲んでるので、間違いありません」
ボクはジト目で遊里さんを睨みつける。
遊里さんは視線を泳がせて、
「ほ、ほら…隼が、その好きじゃない?」
何てこった。
自分が追い込まれたと思ったら、こんなバスの車中で豆乳を飲んでいるのは巨乳好きのボクのせいだと押し付けるのか。
少し涙目になっている茜ちゃんに対して、さあ、どう返答する!? 俊輔!!
俊輔はそっと、茜ちゃんを自身の方に抱き寄せ、耳元でそっと囁いた。
「ごめん。そんなに気にすることじゃねーよ。それに遊里は遊里の生き方もあるだろうし、成長とかも人それぞれだと思う。それに遊里を最初に好きになったのは、あの笑顔なんだよ…。アイツ、無邪気に笑うだろ? それに惹かれた。でも、バッサリとフラれたから、その時点でパッタリと関係は切れてるよ…。だから、安心してもいい。俺はお前の笑顔が好きなんだよ…。だから、泣かないでくれよ」
うおぉ…。カッコいいなぁ…。
心底今までのダメダメ俊輔はどこに行ったのかというような言葉だよ。
隣でもワナワナと震えている女子、遊里さんがいた。
「女はおっぱいじゃないって言われた!?」
言ってません。
そんなこと言ってないでしょうが。どうして、話をややこしくするんだ。
今、俊輔は人はそれぞれの良さを持っているから、茜ちゃんにお姉ちゃんという存在を気にせずに自分自身を大事にしてほしいってことを言ったんでしょうが…。
と、今、ここで説明しても、どうも分かってくれなさそうだなぁ…。
ボクは遊里さんをそっと抱きしめて、視線を俊輔から逸らせ、軽くキスをして、耳元で囁いた。
「ボクは遊里のことが大好き。今日の夜は帰宅したらいっぱい甘えて良いし、いっぱいを攻めてあげるね」
「わんっ♡」
急に犬になるな。
目を逸らせるつもりだっただけだが、残念なことにボクとのエッチが大好きな遊里さんにとってはもう、妄想が止まらない。
だって、夏休みの最終日のお祭りだ。
明日が31日で休みだけれど、翌日はもう9月1日になってしまう。
学校が始まれば、こんなに自由にかつたくさんの時間、ボクと一緒にべたべたとするわけにはいかない。
そうなれば、もう今日あらゆるエッチな欲望を吐き出したいというものなのだろう。
て、いつの間にボクの彼女はこんなにエッチになってしまったのだろう…。
あ、初エッチ以降か…。
うん。それは間違いないな。相性バッチリだったし、そりゃもうボクもこんなに長持ちするとは思ってなかった…、て何の話だ!?
あっちはもう大丈夫そうだけれど、変なところで、遊里さんに火を付けてしまった…。
後ろの様子を確認した後に、もう一度、遊里さんを見直すと、とろんと蕩けて潤んだ瞳に、ほのかに赤らんだ頬、そして唇をパクパクと開いたり閉じたりを繰り返している。
いや、もう見た目からいやらしい。
周囲の目も…てまだ、彼女はボクの陰になるような場所に立っているから目立ってはないけれど…。
そんな折、バスは会場の臨時停留所に到着する。
フワフワとした表情をしている彼女をそのまま、抱きしめるように開いた近くのドアから下りると、
「茜ちゃんは俊輔と回るでしょ? 邪魔したら悪いからボクらはここで失礼するね!」
といって、その場を離れる。
出来るだけ人気のない場所に———。
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