第175話 デレるのはリア充女の特権♡

 ボクらは駅近くのバス停留所まで歩いていくことにした。

 遊里さんのお母さん(早苗さん)が実は着付けの先生であるという衝撃的な事実を知らされた後、ボクらは簡単な浴衣お披露目会が行われた。

 楓が遊里さんの昨年着ていたもので、黄色を基調とした生地に装飾が施されたもの。

 茜ちゃんは遊里さんからプレゼントされた黒色を基調とした生地に赤や白、黄といった色合いで装飾が施されたもの。

 遊里さんは艶やかな水色に赤や黄、黒といった色合いで装飾が施されたもの。

 それぞれが季節ものの花であるとか鳥などが描かれており、髪飾りも付けると一段と可愛らしさが増す。

 で、今、そんな可愛らしさマシマシの美少女3人と簡単な作務衣型の浴衣を着ているボクが一緒に歩いているわけで…。

 きっと傍から見たら、ボクが美少女3人と三股状態としか思えない状態なんだと今感じる。

 駅前に来れば、シャトルバスが出ていて、それに乗っていくわけだが、どんどん人の数が増えてくるとその視線が厳しくなってくる。

 そりゃまあ、ボクみたいな大人しい人間がこんな美少女たちを何人も連れて歩くなんてハーレムにしか見えませんよね?

 ええ、いっそのことギャルゲーであれば、ハーレムエンドに突入ですよ。エロゲーであれば、このままホテルなんかに行って、激しい祭りの後夜祭が行われて、きっと美少女たちの身体にボクの花火を打ち上げることになる…って何の話だ、何の!?


「今日は瑞希くんは来るの?」


 妄想して恥ずかしくなってしまったボクは楓に訊く。

 瑞希くんは楓と同じ中学の生徒会長。楓の真っすぐなところに惚れてしまって、学校でゴニョゴニョしてしまうというなかなか激しい初めてを経験したのちも、付き合っており、生徒会長と副会長というツートップのお付き合いなのだ。


「瑞希とは駅前で待ち合わせなんだ~。たぶん、もうそろそろ来てるはず。て、あ、瑞希~~~~~~!」


 群衆の中から彼氏を見つけたらしく、楓は透き通った声で呼びながら、彼に手を振る。

 瑞希くんはシックな浴衣を着て、現れる。

 身長が大きいから何を着ても似合うなぁ…。


「待たせた~?」

「いいや、さっき来たところだよ」

「そっか~、じゃあ、良かった」


 いや、普通、男ってものはこういう時にはいくら待っていても、そうテンプレで応えるようにプログラムされているんですよ…。

 彼は楓と手を繋ぎ、何やら楓の耳元で囁く。

 すると、楓はとろりんと蕩けちゃうように瑞希くんにデレ始める。もう、頬はピンク色に染まっている。

 いや、早すぎだろ、お前ら。


「な、なに…!? なんで、急に楓ちゃん蕩けてるの?」

「きっと、耳元で可愛いとか言われたんじゃないですかね…」


 ボクの推理に茜ちゃんも驚いた表情で、


「楓先輩のこの顔は、他の部員には見せれませんね…。デレが酷すぎますよ…。いつもの引き締まった緊張感のある表情をした楓先輩とはもはや生き物として違うようにしか見えないです」


 そこまで言う!?

 まあ、兄であるボクが見ても驚くんだけどね。


「まあ、仕方ないわよ。女ってのは血の繋がったものの言葉よりも、自分が愛しているものの言葉の方が強い印象を与えるんだもの」

「そういうもんなの…? お姉ちゃん」

「ふっ! 私はそんな言葉だけで堕ちるようなトーフメンタルじゃないけどね!」


 ボクはそっと近づき、


「その新しい浴衣、凄く似合ってるよ。遊里のスタイルもいいから、さらに可愛く見える」


 と囁く。

 遊里さんは一瞬グラリと倒れそうになりながら、


「あ、あは…あはは…、な、何言ってんのよ…、隼…」


 もう、蕩けちゃってるようにしか見えないんだけど、これは違うと言い張るのだろうか…。

 じゃあ、極めつけを……。


「そんな可愛い遊里が大好きだよ。いっぱい愛してあげるね」

「あ、あ、私も、隼のことが好き…♡」


 妹の茜ちゃんもさすがに引いている。

 姉の蕩け切っている表情を見るのは痛々しいものなのだろうか。


「お姉ちゃんのこの顔は久々に見ましたよ。確か、付き合い始めたころ以来ですかね…。何かあるとこの顔をして、枕を抱きしめながら、ベッドでコロコロと転がってましたよ」


 そんな可愛いことしてたのか…。

 そりゃ、付き合い始めたのもバレるわけだ。


「それと隼先輩も、お姉ちゃんに対してよくもそんな恥ずかしいセリフを言えますね。私も聞いちゃったので恥ずかしいですよ」

「えー、ダメかな?」

「い、いえ…、まあ、二人の空気の中であればいいかと思うのですが…」

「じゃあ、茜ちゃんにもしちゃおうかな」

「それはダメ」


 あ、遊里さん、蕩け切ってると思って油断してた。

 真顔の遊里さんはボクに対して、指でバツと作って見せてくる。

 茜ちゃんはというと、流れを止めてもらえて、安心したのか胸を撫でおろしている。


「私はさすがにしてもらわなくて結構ですよ。これで隼先輩のことが好きになってしまったら、お姉ちゃんとライバル関係になってしまいますからね」

「さすがにそれは嫌だわ。て、何で茜が私の彼氏を奪い取ること前提なのか分かんない…。そういう男を作ればいいだけじゃない♪」

「いいだけじゃない♪ってそんな簡単に作れるものではないから、私も困ってるんです」

「でも、茜も体育会系の部活なんだから、周辺にも男くらいはいるでしょ?」

「ええ、いますよ…」

「その中で良い男とかいないの?」

「まあ、いないわけではないのですが…」


 おお、これは何だか脈ありな男でもいるのかな…。


「その方はちょっと有名過ぎて、私もその方とお話をさせてもらえたのは、何度かはあって懇意にしていただいてはいるんですが…。なかなかタイミングが合わなくて…」

「ふーん。茜にもそんな憧れの男性がいたんだ~」

「あ、いえ…。すごく優しい方なんですけれど、その分、変な噂が絶えなくて…」


 学園で有名人で変な噂が絶えない…。

 はて、何だかどこかで聞いたことがあるような気がするけれど…。まあ、変な男に摑まってさえなければいいんだけれどね…。

 ボクと遊里さんの心配をよそに、すでに駅前でイチャイチャしている超絶リア充な妹が周囲からの反感を買っているように見えなくもなかった。





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